第3話

『壁』のそれも僕たちの目線辺りが一部だけ材質が異なっている

透明な板、硝子だろうか?


「何かしらこれ、硝子?」


(それにしてもここだけ違うのは説明がつかないよ。)


そう、理由が見当たらない

あるとしたら『壁』の内側へ繋がる扉、もしくは鍵になりうるはずだ

鍵穴はない、それらしいものが見当たらない


「こんなもの叩けばいいんじゃない?触らぬ神っていう諺があるらしいし!」


背伸びした彼女が板に触れた

勇敢な彼女の行動によりこの八方塞がりだった状況に一筋の光明が射しこむことになる

機械的な音と共に板が発光し始めた

真っ白な画面が次に七色の線が映し出され文字列が字幕のように流れる


「し、ば、ら、く、お、ま、ち、く、だ、さ、い?」


(しばらくおまちください)


待っていたら何かが起こるのだろうか?

僕と彼女は首を傾げ顔を見合わせる

どうすることも出来ないので板とのにらめっこを始める

その意見は彼女も同意見のようで目を細めた


「いつまでこうしてるの?」


(それは僕が聞きたいのだけど?)


僕らの質疑応答は無限に続くかのように思えた

数分間のにらみ合いの後、板に変化が起きる

突然、映っていたものが消え別のものが映し出される

それは無機質な部屋で、椅子が一脚ありそこに一人の人間が座って居た

甲冑のようなものを着ている青年で、にこやかに僕たちのことを見ている


『あなた達は渡り鳥ですか?』


目の前の青年が口を動かしたと思ったら音声が何処からともなく聞こえた

言葉の意味を考える前にこの不思議な現象に僕らは目を丸くする

シイと顔を見合わせもう一度そちらへ顔を向け反応を待った


『このような文明に触れるのは初めてなのでしょうか?これは電子工学に基づいて作られたモニターというもので音声も伝達できる優れものなのですが渡り鳥のあなた達でも見たことがありませんか?』


日常会話や生活に問題ない知識しか持ち合わせない僕らには意味不明な言葉の羅列に聞こえて仕方がない

いや、渡り鳥や電子工学といった言葉自体は理解できないわけではない

僕らは渡り鳥じゃない、というか人間だ

それに電子工学の何たるかを知らないためこの『モニター』と呼ばれる代物がどういう原理で姿が映り音声が伝達されるのかは理解できない

シイも頭を全力で回転させ首をひねる回数が増えるだけで理解には及ばないようだ

僕も腕を組み考える

そして二人でうーんと唸っていると『モニター』の青年が声をかけてきた


『あのう、とりあえず入国するのでしょうか?それであれば審査をするため扉を開けるのですが・・・』


唸る僕らに理解できる言葉が耳に入ってきた


「入国、それ!しますします!」


シイの言葉に合わせ僕も大きく首を縦に振る

理解はできないがとりあえず対話することが大事だろう

すると青年もホッとしたように肩を下した


『では扉を開けますね。』


そう言い僕らの死角で何かをしたと思ったら『壁』の一部、目の前の『モニター』があるはずの一部がまるで扉のように開いたのだ


『そちらから入ってきてください。突き当りに扉がありますのでそちらに私が居ます。審査はそちらで行いますのでどうぞお進みください。』


その中は一定間隔で電灯が吊るされている

シイは何も考えず進んでいく

遅れないように彼女についていくと後ろの扉が閉じてしまった

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