第2話
遥か先、米粒ほどの大きさに見えた人工物は近寄るうちにみるみる大きくなっていく
共にそれを目指す少女は喉が渇いたのか犬のように舌を出しながらそこを目指す
彼女はシイ
僕が目覚めたときに初めて出会った人間だ
「ヒイ、やっと目の前まで来たわ!これだけ苦労して何もなかったなんてナシよ!ナシ!」
これだけの距離を歩いてきたにしては元気が残っている
彼女はずいぶんと逞しいというかなんというか
僕はへとへとで足の裏がジンジンと痛む、出来れば座りたい
(しかしこれはなんだろう?)
小さかった人工物は大きな壁だった
見上げると人間が頂上まで行くには途方もない時間と技術が必要になるはず
周囲を確かめようにもこの『壁』は広範囲を囲っている
全容を確かめる前に僕かシイが倒れるだろう
「壁だとするなら中には何かあるはずよね?」
確かにその通りだ
壁ならば外側と内側があるはず、なら内側には人かそれが残した何かがある
それが自然なはず
(でも内側に入る為には扉かこの巨大な壁を持ち上げないといけないんじゃないかな?)
「言いたいことはよーくわかるよ。持ち上げるのは絶対に無理なんだから扉を探そう!」
出会って十数時間だというのに喋ることができない僕と意思の疎通が取れるようになっている
彼女がすごいのかそれとも僕が顔や態度に出過ぎているのか
どちらにせよ良いコンビなのかもしれない
さて、どこから調べたものか
『壁』に触れるため近づいていく
ここに来る道中、確かにこちらを目指している人間の痕跡があった
草が踏まれ慣らされていたのだ
道というものではなかったのだが少なくとも人の往来があるように見えたためこちらを目指してきた
(食料、せめて水だけでもあると有難いのだが・・・)
近くから地鳴りのような唸り声のような音が聞こえる
しかし、周囲に獣は見えず大地も静かなものだ
見渡すと原因が近くに存在していた
「お腹減ったの!はしたなくて悪かったわね!」
足元に衝撃が走る
脛だ、脛を蹴られた
そう感じると体は痛みに耐えられず蹲る
(痛い痛い痛い!なんで蹴るんだ?何も思っていないのに。)
苦悶の表情を浮かべながら彼女に目をやると頬赤らめむくれている
何が琴線に触れたのかわからないが怒らせたようだ
「乙女だってお腹は減るのよ、聞いたあなたが悪い。」
意味が分からない
僕だってお腹は減っているし音もそのうち鳴ると思うのだが、乙女の心は分からない
記憶を失う前もこんな感じで女性に怒られたのだろうか
理不尽だ、空腹で疲れてやっとたどり着いた場所で同伴者の腹の虫が原因で脛を蹴られ蹲る
世の中はいつもこんなものなのだろうか
(ああ、理不尽だ!)
そんなことを考えているとシイはいつの間にか『壁』のすぐ近くまで進んでいた
危険があるかもしれない場所に一人近づかせるわけにもいかないか
この状況で彼女を失ってしまえば記憶を探す気力が消え失せてしまう
痛みを克服し立ち上がって『壁』へ近づく
「ねえヒイ、これはなにかしら?」
近づいた僕に先ほどの攻撃を詫びるでもなく平然とした態度で質問してくる
ため息をつきながら何かと思ってみてみると
『壁』に埋め込まれた透明な板がそこにあった
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