シイとヒイ~二人の意味を知る旅~

神山人海

第1話

(ここはどこだろう)


目覚めたときそこは大草原だった

大の字で眠っていた僕は起き上がろうとして足を上げる


「起きたのね!」


覗き込むように顔を近づけてくる少女に驚いた

美しく長い金髪、瞳は碧眼でまつげは長く赤みを帯びた唇、それらが映えるように白い肌、少女とは思えないほど綺麗だと思う

そんな美人を前にして目を丸くしていると彼女はさらに言葉を続ける


「よかった、目覚めないんじゃないかって思ったのよ」


感情が動く

驚きから疑問が浮かび上がり不安が心を占める


(目覚めない?一体どれだけの時間ここで寝ていたのだろう)


言葉に出せず顔だけを顰(しか)めた

それを見た彼女が僕の頬を抓る


「こんなしかめっ面してたって面白くなーい!笑うか怒るか泣くか喜んで!」


(痛たたた!)


痛みを感じていると彼女は小さく笑い指を離し笑顔になっている


「そうそう、感情を溢れさせている方が素敵よ」


ずいぶんな言葉だと思う

僕からすればこの状況に追いつけず悩みの種が増える

そんな最中に知らない少女が現れ顔を抓り最後には感情を溢れさせろというのだから困りものだ


(きっと友達も居ないのだろう、かわいそうな子なんだ)


笑顔だった少女が頬膨らませまたこちらに近づいてくる


「私だって友達ぐらい居る!あなたこそ居ないんじゃないの?」


心の声が聞こえたのか、それとも口に出ていたのか、彼女には伝わってしまったようだ

ばつが悪そうな顔をしていると彼女は腰に手を当て


「思ってること全部はわからないわ。でも、あなたが考えそうなことはわかるの。それにあなた、わかりやすいわよ?」


また満面の笑みになった

彼女が笑っているなら心を見透かされるぐらい大したことではないか

しかし、何故だろう

彼女が笑顔になると心が晴れやかになる

お互い知りもしない人間だというのに不思議なものだ


(君の名前は?僕は・・・)


ここまで考え別の問題が訪れた

名前を憶えていない

名前どころかここに至るまでの経緯もそれ以前に何をしていたのか、親や兄弟、友人の有無すら脳からすっぽり抜け落ちてしまっているようだ


「私も覚えてないよ。たぶんあなたが誰かも知らないし私が誰かもわからない。た

だ、知識は持ってるみたい。」


彼女にも記憶はないらしい

しかし生活や日常に支障をきたさない程度に知識が残されている

少女の口角が上がり


「私はシイ!あなたはヒイ!名前はこれでどう、呼びやすいでしょう?」


笑顔で名づけられた

初めて名前を付けられたことに驚きつつも胸の中を暖かいものが占める

ヒイ、面白い名前だ


(シイ)


頭に思い浮かべる


「はい!今私を呼んだでしょう?見たらわかるもの。それにヒイも嬉しいみたいだし、はい決定!」


理解してくれているのかそれとも本当に心の中が読めるのか

意思の疎通がとれるのは嬉しいものだ

こうしてお互いの名前が決まり今後の方針を固めることになる


「辺り一面大草原だけどどこに向かおうかしら?」


見渡す限りの大草原、悲しいが道を知らなければ建物に類するものも見えない

行き当たりばったりに進むしかないかと思った矢先、目を凝らすと一方向に人工物のようなものが見えた


(あそこに向かうのはどうだろうか?)


僕は人工物を指さした

彼女は小首をかしげそちらへ目を向ける

目を細め凝視する彼女も愛らしいと思った

君は遠くを見るときいつもこうなるのだろう、今後も見られると笑みがこぼれる

変な人間だろうか?綺麗な人や可愛い人を見ることは素直に嬉しいものだ


「あれね、なんだかわからないけど他に何も見えないし向かってみましょうか。ねえヒイ?」


尋ねながらくしゃっとした彼女の顔が戻りこちらを振り返る


(ああシイ、君と共に行こう。)


僕も笑顔を作り彼女についていく

この先、長い長い旅となる

何も持たない二人が目的のない旅を始めるのだ


いずれ意味が生まれるとは知らず目的も生まれる旅

君たちに見守ってほしい、全てを知る物語

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