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去年試着したときはぴったりだったのに、今はきつい水着(太ったんじゃないよね? 背が伸びたからだよね? 色んなとこが成長してるからだよね?)を着て、私は待ち合わせ場所(遊泳施設の入り口)に向かった。

「お待たせぇ」

「遅い!」

彼は振り向き様に怒号を上げた。

「いいよねぇ。男の子の着替えはあっという間に済んじゃうから」

「女が時間掛かり過ぎなんだよ」

まあ奥様聞きまして? なんという自己チューな発言ざましょ。ああ、これだから男は。

「女の子はそういうもんなの」

ふぅん、と彼は無関心そうな声を上げ、決してやらしくはない目で私をまじまじと眺めた。

「ま、そんなぴちぴちの水着じゃ、着るのに手間取ったんだろうな」

……何でこんなに鋭いのだろう?

「ところで、白河君。和泉先生に、会わなかった?」

先程の『忘れていた何か』とはこのこと。焦りつつ訊いた。

「ああ、会った会った」

「何か変なこと言わなかった?」

うっ、とたじろいだところを見ると……何か喋ったな。

「そ、そんなことより、ほら行こうぜ」

「あ! 誤魔化すなーっ!」

プールサイドで走ることがどれだけ危険か分かってたから、追いかけたりはしなかった。もちろん彼は監視員に注意されて頭を下げていた。

なんか、可笑しい。


「百合、どっちにする?」

「どっちも嫌」

彼が指さしているのは、ウォータースライダー。滑り台のようにまっすぐ降りていくタイプと、チューブの中をうねりながら降りていくタイプの二種類がある。選択を迫ったのは、そのどっちに行くかってこと。だけど私は階段恐怖症である以前に高所恐怖症なんだってば。

「じゃ両方だ!」

「ぃえええぇぇぇ!?」

ダメだ、男の子の力には逆らえない。私はなされるがまま、彼に腕を引っ張られていった。


えっと、えっと、四面楚歌。違うな。じゃ、『三十六計逃げるに如かず』? それとも『蛇に見込まれた蛙』? この状況を説明するのに適切な言葉は何だろう。『前門の虎、後門の狼』は『一難去ってまた一難』だし………

具体的に言うと、もう天辺にいるわけ。チューブの方のスライダーのね。来た道を戻ろうとすると階段があって、スライダーで降りるのも何か怖くて……と、そんな状況。

「百合、先行けよ。どうせここまで来たら引き返せないんだし」

「やだよ怖いもん。白河君が先行って」

と言うと、彼は何故か嫌な顔せずスタート地点に座った。係のおじさんに背中を押され、オレンジ色のチューブの中へと吸い込まれていった。

「うわああぁぁ…助けてくれぇぇぇ……」

ななななな何、何!? この悲鳴は!? そんなに怖いのこれ。え、ちょ、ちょっとおじさん何するの。勝手にここに座らせないでよセクハラで訴えるよ? だからいってらっしゃいじゃなくて

「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


ばしゃーん。ぶくぶくぶくぶく。

安全確保のためにプールの縁まで軽く泳いだ。そこには偶然、いや必然か彼がいた。

「どう? びびった? の割にはすんなり降りてきたな」

って事は……あの悲鳴は演技か!

「おじさんに無理矢理乗せられたの! こんな怖いの二度とやんないから!」

「ってことは百合、閉所恐怖症持ち?」

………なのかな? どうなのかな? まあどっちでもいいか。それより今は彼に報復するのが先決。

「よくも脅かしてくれたな!」

私は子どもっぽいなと思いつつ、彼に水をかけた。丁度その時次の人が飛び込んできて、その飛沫と私のかけた飛沫とで、彼は総攻撃を食らう羽目となった。

「やったな!」

当然、向こうもやり返してくる。だけどすぐに飽きた。

似たようなことを今度は滑り台の方でもやったのは、言うまでもないだろうか。ただ違ったのは、そっちは視界が開けていて、まっすぐだからどんどん加速して恐怖心をやたらと煽られた、ということ。

とてもじゃないけどジェットコースターなんか乗れそうもないよ、私。あんなののどこが楽しいんだか。

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