10
「………何で?」
がやがやがやがや。
「何でって、何が?」
わやわやわやわや。
「『何が?』じゃないわよ『何が?』じゃ!」
ばしゃばしゃばしゃばしゃ。
「だから、何?」
どっぱーん。
「何でこんな人のいっぱいいるプールに連れてくるわけ?」
昨日、彼から待ち合わせ場所を指定され、加えて水着を持ってこいとのことだったのでそれに従ってみると、なんと連れてこられたのが、ここ――市立結ヶ崎プール――だったというわけ。
本格的なウォータースライダーや、(彼にとってはトラウマのはずの)波の起きるプールなどがある人気スポットで、日曜日であることと、夏休みに入ったばかりであることが重なり、家族連れで馬鹿みたいに賑わっていた。
「お互いの弱点を克服するのにこれほどの適所はないと思うんだけど?」
まあ、水着を持ってこいと指定した時点でこうなることはある程度予想していたけど。去年中学生だからちゃんとした水着が欲しいって事で買ったけれど結局一度も着なかった水着(ちょっと窮屈)を着られるいい機会だったけど(スク水はやばいからね……色んな意味で)。でも……でも……
こんな所、誰かに見られたくはない。クラスメイトに見つかったらそれこそおしまいだ。ましてやあの悪ガキ三人衆に出くわそうものなら……ああ、想像したくない。こんな奴の彼女だなんて思われたくない。まだゲートはくぐってないしお金も払ってない。今なら逃げ出しても平気かな、そんな考えが頭をよぎった。でも………でも……
姿は見えなくとも聞こえてくるはしゃぎ声。それが、私の足をうずうずさせた。
「百合、行こう」
どうしよう。ほんとどうしよう。なんて言ったっけ、『河豚は食いたし命は惜しし』だっけ。プールで泳ぎたいけれど知り合いに見つかりたくはない。なんとまあ的確なことわざがあったもんだ。でも、ここまで来て引き返すのもアレだし……せっかくだから泳いじゃいますか!
「よし! じゃあ行こう!」
この時の私は思いっきり水と戯れることが出来るってことに浮かれていたのかも知れない。私はゲートへと駆け上がった。
更衣室に入った私は、不審者がいる、なんて通報されたりしないかと怯えながらも、ロッカーを探し回る振りをして周りの人の水着を眺めていた。
(おばさん、歳考えなよ……何その極彩のド派手な水着は)
次に見たのは親子連れ。
(……小さい子ならいいんだよね。でも女子更衣室に男の子がいるのって不思議……っていうか嫌かも。男子更衣室でもそれは同じ……じゃないか)
とある衝動を堪えつつ、次のところへ。
(あ、スク水。気ぃつけなよ、ロリコンが寄ってくるから)
余談、ロリコンとは「異常心理」らしい(えっ………(汗))。
その次に見たのは、某グラビアアイドルのような豪奢なスタイルを持つ、大胆なビキニを着た………
「い、和泉先生!?」
私は驚きのあまり声を上げてしまった。
「あ! 葉月さんじゃないの」
しまったぁぁぁっ! と後悔しても遅かった。やばい、あのバカと一緒に来ていることを知られたら………
「もしかして一人で来たの?」
さてどう答えよう?
「誘おうとしたんですが、みんな塾だのなんだので忙しいって断られました。ふて腐れて、ここに」
「じゃあ先生と一緒に」
「小学生じゃないんですから!」
何を言い出すんだこの人は! 心なしかあいつに似ている気がするなぁ……
「そうよね。じゃあ変な人に捕まらないように気をつけてね」
「はーい」
先生は踵を返してシャワー(心臓の負担を減らすための掛け水)を浴びに行った。
あれ? 何か忘れてるような。
まあいっか。早く着替えよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます