翌朝。私の家の門前で待ち伏せする影があった。

「百合、昨日の一件で気になったことがあるんだが」

家を出たと同時に馴れ馴れしく近づいてきたのはもちろん白河佑一。私は彼を蔑むような目で見た。

「………何?」

「そんな据わった目で見るなよ。気になった事っていうのは、百合の家、二階建てじゃん? 一体どうしてるのかなって」

「………………」

踏み出す足を止めた。いや、足が止まった。

背筋が凍る、という言葉が見事に当てはまるほど、私は硬直してしまった。頭の中が真っ白になって、冷や汗というものが本当に存在するということを私はこのとき初めて知った。

「だって階段だろ? エレベーターがある訳じゃあるまいし、一度上ったら下りられないんだよな? まさか家の階段なら大丈夫とか言うなよ?」

「残念ですが教えられません。女の秘密ってやつです」

「な、なんだよそれ! 敬語になってるし!」

つっこむのはそこ? ま、どうでもいいけど。

「教えてくれよ」

「嫌」

「駄目?」

「駄目」

「じゃ僕が勝ったら教えてくれる?」

「………交換条件は? 私が勝ったらどうするの?」

「うーん………………考えとく」

「じゃ駄目」

本当の事なんて、言えない………梯子の要領で、這うようにして下りてるだなんて、絶対言えない………

「じゃあ当てて見せようか」

一瞬頷きかけた。

「どうせ分かりっこないよ!」

と強がっては見せたものの………私は彼が事実を言い当ててしまうことを酷く恐れていた。なので

「うーんと……兄貴におんぶしてもらってる! あれ?」

私は思いっきり走り出していた。彼が余計な詮索をしなくて済むように。彼が正解を言い当てて私が狼狽したり、それが正解だと勘付かれたりすることのないように。

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