第15話:死恋

 


「親父!!」


 ユーラシとノロンは暗闇に包まれる森を駆け抜けた末、ようやくアジトである洞窟へ辿り着いた。そして、開口一番にガラシャラを呼ぶ。その彼らの切迫した様子に、ガラシャラは思いっきり顔を顰めて、想定しうる中での"最悪"が起こったのだとすぐさま理解した。


「騎士だ!既に森に入っている!」

「……の、ようだな。それで勇者はどうなった?それと、?」

「ホト……?ホトなら随分前に伝言に――――」


 最悪の予測はさらに重なるように現実となる。

 ユーラシは震える声でホトは伝言に来ているはずだと、言おうとした。その時だった。


「ガラシャラ盗賊団……頭領ガラシャラとその一味だな?」

「――――――ッ!?」


 盗賊団の誰の声でもない。何の感情も篭っていない、冷たい死を想起させる声色。それは月明かりを背中に受けて洞窟の入り口に漫然と佇んでいた。


「"金獅子"ィ……!」


 ガラシャラが唸る様にその者の通り名を呼ぶ。

 しかしそれも虚空に消え、追い打ちをかけるかの如く続くように七名の黒騎士が、入り口を塞ぐように現れた。そしてソレはまるで土産物かのように投げ捨てられた。


 ホトの首と、先に森を抜けて待機していた者たちの首だ。


「ホトッ!」


 ユーラシが悲鳴の様な声でホトを呼ぶ。だがもちろん返事はない。そこにあるのは物言わぬ肉塊の一部だ。


「"死神"がァ……ッ」


 ユーラシの背後で誰かがそう漏らした。その地面に転がる首たちが、まるで未来の自分達を暗示しているかのようだったからだ。


 今この場にいるのはユーラシ、ノロン、ガラシャラ、それと三人の盗賊のみだ。この人数でガーミナル・アズドミナ含む八人の騎士を相手取らねばならないと考えると、ほぼ全員吐き気のするような絶望感に襲われた。

 だが、やるかしない。今この場で取れる選択肢は"戦って生きる"か"戦って死ぬ"かしかないのだから。


 そしてついに、死神が前に出て重たい口を開く。


「総員、待機」

「やるぞテメェら……」


 洞窟の中で、暴風じみた覇気と殺気、闘気が渦巻く。盗賊たちの荒々しい闘気の中で、死神の闘気は薄く微かに……だがふわりとも揺れぬ闘気が立ち上っている。


 次の瞬間、空気が弾けた。


『うおぉぉぁぁぁああぁッ!!!』


 ノロンと他三人の盗賊が縦横無尽に駆けガーミナルに肉薄する。拳で、剣で、短剣で……しかしガーミナルはガラシャラを見つめたまま、攻撃を仕掛ける盗賊どもには一瞥もくれずに背に負う大剣を抜刀し、一瞬掻き消えた。


「何ィッ!?」


 そして、次の瞬間に訪れたのは四つの死。たった一閃でノロン含む四人の盗賊は胴を両断されたのだ。

 下半身と泣き別れたノロンは、一瞬だけ驚愕の表情を浮かべたが、すぐに顔から力が抜け死人の顔になる。先ほど騎士を一方的に嬲り殺した彼は、また一方的に……いや、圧倒的に叩き切られたのだ。


「まさか……これ程とは……ッ」


 ガラシャラは未だに一歩も動いていない。否、動けていない。本来ならば、陽動を仕掛けた彼らの攻撃に潜み痛烈な一撃をお見舞いしようと化策していたが、ガーミナルに睨まれて動けなかったのだ。

 隙などありやしない、陽動にすらならない。目の前に立ち塞がるこの男の姿が、本格的に巨大な死神に見える気すらガラシャラはしていた。


 決して、ガラシャラは弱者ではない。これまで積んだ経験と齢五十近くまで研ぎ澄ました技術、闘気……何をとっても彼は一流であろう。だが、だからこそ分かる。分かってしまう。我彼の力量差を。どうしようもないほど高い壁を!


「ユーラシ……」

「……あぁ」


 もう残っているのはユーラシとガラシャラのみ。

 ユーラシは、たった一言の親父の言葉で全てを察した。

 二人して、短剣の柄を人生で最も強く握りしめる。


「ガーミナル・アズドミナぁぁぁぁあああッ!!!」


 ユーラシが誰よりも早い速度で正面からガーミナルに肉薄する。あらゆるスキルを用いて、全身の闘気を滾らせて、全身全霊で攻撃を仕掛ける。


 だが、当然のようにガーミナルはその速度に合わせ、正面切って突っ込んでくるユーラシに大剣で応戦する。否、しようとした。


 ユーラシが、目の前から消えた。


「……後ろか」


 ユーラシは自分が出し得るどれだけの最高速度を出しても、必ず迎撃されること等分かり切っていた。だからこそ限界まで引き付けて、刃と紙一重になる瞬間に無理矢理方向転換し、背後に回る。相当無理のある戦法だったが、ユーラシの生まれ持った柔軟性と速度、そして動体視力があれば十分可能であった。事実、目論見は通りユーラシは見事ガーミナルの背後を取ることに成功した!


 だが、ガーミナルはそれでもなお届かない。一瞬にして背後に回ったユーラシを正確に察知し、半身を翻して右手のみで大剣を掬い上げる。


「取ったッ!ガーミナルぅあ!!」


 しかしそれこそも罠!ユーラシへの対処で変更不可能なほど剣筋に勢いが乗った瞬間、ガラシャラが正面から肉薄する。つまりは挟み撃ち。どちらかを対処すればどちらかが刃を届かせる。文字通り決死の一撃だ。

 そして、このまま大剣を振り切るということは、ユーラシを切ると同義、そしてその隙にガラシャラが刃を届かせるのと同義!


 刹那の衝突であるが、その一瞬で勝負は決まるのだ。


(ユーラシ……すまねぇ……ッ!)


 だが、勝つ。ガラシャラの瞳に強い光が宿る。怒り悲しみ覚悟決死思い出……あらゆる感情を乗せて刃は、ガーミナルに迫る!


「……フム」


 ガーミナルはポツリと呟いた。彼の表情は、変わらない。


 今まさにユーラシに届かんとする刃が……反転する。振り上がる大剣を持つ右手を左手で強引に抑え込み、完全に慣性を無視した剣戟の反転を成したのだ。

 一転してガラシャラに刃が迫る。躱せない。決死の一撃だったからこそ、もう引き返せないほどの勢いが乗ってしまっているのだ。


「馬鹿なぁッ!?」

「親父ィッ!」


 ユーラシが叫ぶ。ガラシャラの持つ短剣ごと、ガラシャラの胴体が弾き飛ばされる。否、切り飛ばされる。吹っ飛んでいくガラシャラの影は二つだった。


「クソ野郎ぉぉぉぉあぁぁあ!!!」


 ユーラシの視界が、怒りと血で真っ赤に染まる。満身の力を込めて短剣を振りかざす。ガラシャラは切られた、故にそれが大きな隙!予定通り、どちらかが切られればどちらかが切る。それが入れ替わっただけ。

 もう、ユーラシの中にはガーミナルを殺すことだけしかなかった。こちらを向かぬガーミナルに憎しみを込めて肉薄する!


「……は……?」


 ユーラシの口から空気が漏れる。一瞬意識が空虚になりいつの間にか、彼女の短剣を持つ手の方……右腕がへし折れていた。関節とは逆の方向へ向く腕に力は入らず、手の中に短剣は無い。

 それがあるのは……ガーミナル・アズドミナの手の中だった。


 そして、トン……と、僅かな衝撃が彼女の胸を突いた。




 ユーラシとノロンが森の中に消えてから、創慈はホトと二人きりになった。ホトはこの一対一の状況になったことで創慈が今にも抵抗を始めるのではと警戒しており、それは揺らぎ立つ魔力からも推し量られた。


 だが、創慈にその意思は無かった。ただ地面に座り込み俯くだけで、何の挙動も見せない。いっそ不気味なほどだとホトは思った。


 しかし創慈の脳内は、思考は、僅かに回転を始めていた。


『嘘じゃない!』


 ユーラシの強い声が脳裏に反響する。この世界に来てからの全てを否定されたような、そんな思いが創慈を貫き、折れかかっていた……いや、既に折れていた心に、その言葉は痛いほどの熱を再び注いだのだ。

 そして、再起動した思考の中で考える。今までの思い出を。そしてこの頃のユーラシの挙動不審を。


(ユーラシは……悩んでいたのですか……)


 彼女がどんなものを背負っているのかは分からない。だが、きっと最後まで悩んで悩んで、それでも捨てられない何かのために覚悟を決めたのだと、じんわりと理解が沁みてくる。

 創慈とユーラシが過ごした一か月半など、彼女の人生においても僅かな時間でしかない。だが、それでも四六時中行動を共にすれば、その人というものは嫌でも見える。見えたからこそ、本質的に惹かれたし、また敬意を抱いた。


 そして"好き"になった。一言に恋というには簡単だが、間違いなく創慈は真に恋心をユーラシに抱いたのだ。


 創慈はその自分の見えたモノ、感じたモノを信じたかった。再起動した心に、再び強い光が宿った!


(裏切られても、売られかけても、ユーラシを想う気持ちに変わりはない!)


 そして極めつけの決意を促す言葉を思い出す。


『"金獅子"だ!!!』


 街で聞いたあの言葉。そして今の状況。ユーラシが吐き捨てた言葉……表情!

 それにより一つの結論が脳裏に、鮮明に浮かび上がる!


 "王国最強の騎士が盗賊団の討伐ユーラシを殺しに来た"


(マズイ……マズイマズイマズイ……ッ!)


 きっと、ユーラシの表情や声色からして"金獅子"には勝てないのであろうとすぐに察知することが出来た。出会えば、死ぬ。容易に考えられてしまった。

 創慈は考えれば考える程、思考が冴える程に目が眩む思いだった。


(動かないと……助けに行かないと……!)


 創慈の中で思いが膨れ上がる。もう、座ってなどいられなかった。


(何か、何かありませんか……!?)


 往くにはまずこのホトという男をどうにかせねばならない。だが創慈単体ではもちろん、敵うわけがない。焦燥感は募るが、創慈は決して愚策は取らなかった。


 そしてそれは唐突に、創慈の視界に飛び込んできた。もしこの時ホトが、創慈への警戒を最大にして音封じの魔法を掛け直していたならば、この未来はありえなかっただろう。違う道を辿っただろう。だが、最早それこそが今この瞬間ありえない未来になった。


 創慈は、運命に導かれる様に叫んだ!


「鱗蛇ィッ!」


 半端な長さの鱗蛇。その縦に裂かれた瞳孔と目が合った。瞬間、稲妻の様な感覚が創慈の心を打つ。大狩鷲のビーグルの時は必死過ぎて感じられなかったそれは、今ハッキリと知覚された。

 心が通う瞬間、魂を重ねる瞬間……【生物操作】が起動した瞬間を!!


 突然大声を出した創慈に驚き、しかし屈服させようと魔法を放つホト。しかしその魔法が放たれる瞬間、頭上に広がる木から鱗蛇がボトリと落下し首に巻き付いた。


「何ィ!?鱗蛇だと?!何で……ッ」


 創慈の中には、今現在"手段を選ぶ"という考えなどどこかへ吹き飛んでいた。ただ、この目の前の男を排除し、ユーラシの下へ向かうという感情のみで突き動かされている!


「クッソ……ッだがコイツ程度……ッ!」

『クエー!』

「は……?」


 やはり鱗蛇では陽動にはなったが力不足だったようで、ホトは無理やり鱗蛇を引きはがし、地面に叩きつけんと蛇を握っている手を高々と振り上げる。しかしその瞬間バキバキと枝葉を叩き折り、暗闇から月の光を背に受けてビーグルが参上した。


 ホトは一瞬意識が空白になった。予測不能な事象の連続。その不可解な事象が明らかに自分に敵意を持っていると感じた以上、ある種これは仕方のない話だろう。


 だが、仕方のない話で終わるほどこの世界は甘くない。

 戦闘中にぼんやりしている人間に待つのは、死のみだ。


『クエー!』


 ビーグルの魔力が瞬いて、風の刃が放たれる。それは創慈との訓練で使う魔法の威力とは訳が違う、本物の魔法の刃だった。

 それらが文字通り風の速さでホトを通り過ぎ、肉を切り裂く。


「ぐぅぅあああああ!!!」


 夥しい程の血液が吹き出す。足の重要な筋肉や筋を斬られたのか、ホトは叫びながら足から力が抜ける様に倒れた。痛みでのたうち回るホト。


 それを見る創慈の心拍数はかつてないほど高まっていた。呼吸も荒い。当たり前だ、創慈にとって人の死を……ここまで傷を負って血を吹き出しのたうち回る人間を見たのは初めてだったのだから。それに加え、それらのことを行ったのは彼の配下である魔物……言わば彼の手足だ。動揺は無理もない。


 だが、創慈はグッと拳を握った。ホトには悪いと思いつつも、今彼にはやらねばならないことがあったのだから。正常性バイアス、正当化、短慮、今の彼の状態を表す言葉は幾つかあるが、どれも最後の意味は変わらない。

 彼は、前に進む選択肢を取らねばならなかった。たとえそれが、"人を傷付けること"であっても。


「ビーグル!ユーラシの匂いは分かりますか?!」

『クエー』


 何となく、分かると言ったように感じた。そしてそれが正しいと言う様に、迷わずビーグルはある方向へ向けて飛行を始める。創慈はそれに追従しようとし、はたとまだ自分が拘束されていることを思い出した。


「これは、困りましたね。走るのに邪魔に……」

『シャーッ』


 如何に腕の縄を解除しようと悩んだ瞬間、今しがたホトの腕から逃れた鱗蛇が今度は創慈の腕に巻き付く。一体何をする気だと思えば、鱗蛇は腹から鎌を突出させ、縄を断ち切ったのだ。


「おぉ!ありがとうございます!えーっと……そうだ、君はゾルドです。今僕は君をゾルドと名付けました!」

『シャーッ』


 鱗蛇……もといゾルドは了承と言わんばかりに鳴いた。そしてビーグルからも甲高い声が放たれる。


『行こう』


 と、まるでそう言っているかのように。


「行きましょう!ユーラシ……今行きます!」


 彼らは……一人と二匹は闇へと、深い深い森の闇へと吸い込まれていった。







 それは洞窟だった。ぽっかりと大口を開けた洞窟だった。中はよく見えない。ただ落ちて行ってしまう様な暗闇が続いていた。

 ビーグルが創慈を促す。まるで、いや……間違いなくここだと。ここから"ユーラシの匂い"がすると言っていた。

 なのに何の音も感じない。人の気配が感じられない。創慈は無意識に唾を飲み込んだ。その踏み入れる一歩はまるで、夜の崖の外へ一歩踏み出すような、死を彷彿とさせる闇への一歩だった。


「ユーラシー……?」


 恐る恐る、声を出す。だが何者も反応しない。徐々に心拍数が上昇する。恐ろしい、何よりも恐ろしい想像が脳を過る。だが頭かぶりを振って、その不安を払いながら歩みを進める。

 魔物たちは外へ置いてきた。誰かがこの洞窟に入ってきたら知らせるために。


「ユーラシ-……?」


 もう一度名を呼ぶ。だが返事は無い。どんどんと中に進んでいく。徐々に、鉄の様な匂いが漂ってくる。不安が大きくなる。ふと、辛うじて残る蝋燭の火に照らされた何かが見えた。


「ユーラ……うわぁ!」


 それを見た時、創慈は思わず飛んで驚いた。何故なら、それは首の無い人間の上半身と下半身が別々の肉塊としてそこに存在したからだ。


 ドッドッドッドッと心臓が早鐘を打つ。足が震える。だが、下がらない。決して踵を返さない。汗で滑るメガネを乱暴に押し上げ、一歩また一歩と進む。どんどんと鉄の……血の臭いが酷くなる。


 その時、微かに声が聞こえた。か細い、呻くような……女の声が。


「ユーラシ?!いるのですか?!ユーラシ!ユーラ……シ……?」


 いた。


「なん……ですか……?これ、は……」


 夥しい程の血潮に沈む、ユーラシが。


「ソー……ジ……?」

「ッ!ユーラシ!僕です!創慈です!分かりますか?!」


 弾けるように創慈はユーラシの下に跪き、抱きかかえる。ぬるりと、生暖かい水分の感触が膝から、腕から、感じる。認めたくない程、血液の感触だった。


 血液は、主にユーラシの左胸……心臓のある位置から流れ出ており、今辛うじて息をしているのが不思議なほどの出血量だ。彼の持つ知識では嫌というほど理解できてしまう、完全に致死量だ。


「あぁ……ユーラシ……」

「へ……へへ……最期に……ソー、ジの……幻が見え、らぁ……」


 力無く笑うユーラシ。その笑みは血に塗れているが、いつも見ていたあの快活な笑みだ。


「ユーラシ……幻じゃありません……ほら……こうやってアナタに触れています、ユーラシ……」


 そう言って、創慈はユーラシの左手を強く握り、そこに強く存在を証明する。その手は、酷く冷たかった。まるで死人の様ですらあった。創慈の目が霞む。涙が、零れる。


「そ……かぁ……ほん、とだ……あった、け……ぇ……」


 細い糸を辿るような弱い呼吸の中で、なんとかユーラシは言葉を紡いだ。夢と現の間で、揺蕩っているかの様な感覚だった。冷たい死の間際に、何故か現れた創慈の体温がとても……とても心地よかった。


「……ねぇ、ユーラシ。僕、ユーラシのこと好きでしたよ。それは、今も変わりません……」

「ハ、ハ……それ、は……うれしぃ……なぁ……」


 仄かな明かりしかない暗闇の中で、男女の言葉のみが響く。


「……ねぇ、ユーラシ。僕、恨んでいませんよ」

「へへ……わる、か……ったなぁ……」



「……ねぇ、ユーラシ。僕、楽しかったですよ。ユーラシと出会ってから、何もかも……」

「あぁ……アタ、シ……もだ……」



「……ねぇ、ユーラシ」

「……なん、だぁ……?」




「好きですよ……」


「アタシ……も……」


 無残に折られた右腕を、最期の力を振り絞って創慈の胸元に掛ける。弱々しく引くと、自然と創慈とユーラシの顔は、近づいた。








 陽の光が洞窟を刺す。夜明け特有の強い輝きに、創慈は顔を顰めた。


 そして、ユーラシを丁寧に、横に抱きかかえてゆっくりと来た道を遡る。入口にはビーグルとゾルドが静かに主を待っていた。光に照らされる創慈の体は、酷く血で汚れていた。

 しかし創慈はそんなものには意を介さず、従魔たちに言い聞かせるように独白を始める。


「昔……大事な人が傷付けられたことがありました。僕は……強い憤りを感じましたが、何もすることが出来ませんでした。それは力が無かったからです。報いを受けさせる力が無かったからです」


 従魔たちは静かに聴く。


「ですが、今は違います。僕には力がある。奴らに報いを受けさせられるだけの力が……同じことをやり返してやる力があります……!」


 復讐を。

 心を通じて強く、歪んだ感情が走る。


「国を、王を、貴族を、騎士を、民を!アナタから全て奪ってあげましょう……ガーミナル・アズドミナぁ……ッ!」



 ユーラシを奪った罪は、重い。










『一定の感情値を測定、特異称号【導く者】及び称号【研究者】が変質進化します』


『変質結果……特異称号【冒涜に導かれし者】及び称号【狂研究者マッド】を入手しました』


『それに伴い特異技能【生物操作】の参照元の変質を確認。技能が派生進化します。特異技能――――――』



『"【生物錬成】"を入手しました』


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