第3話「魔術戦」

先に動いたのはシャルだ。

シャルは杖をアリアに向ける。


「行くわよ! 突風ウィンド!!」


目に見える程に風が集まり、アリアの方へ風の塊が飛んでいく。


「こんなもんじゃないわよ! 風切ウィンドカッター!」


アリアに向かっていた風が形を変え、刃のような形になる。

一眼見ただけで分かる。

あれは食らったらやばい。


「アリ…!!」


心配してアリアの名を呼ぼうとしたが、アリアの余裕そうな表情を見て、名前を呼ぶのをやめた。

アリアは、ゆっくりと風の刃に手を向けた。


「…炎砲フレイム・キャノン


アリアの手から放たれた炎の砲弾が、風の刃を消し去りながらシャルの元へ向かった。


「くっ…! 水壁ウォーター・ウォール!」


「無駄ですよぉ。 雷針サンダー・スパイク


炎の砲弾を水壁で消したと思ったら、今度は地面から雷の針が出てきた。

シャルは咄嗟に後ろに飛んで交わしたが、アリアはもう次の魔法を撃つ準備に入っていた。


炎雷ほのいかずち


右手から炎、左手から雷を出し、それらが同時にシャルの方へ向かっていった。

シャルはまだ空中におり、身動きが取れない。


このままじゃシャルに当たる。


そう思った時、突然炎雷が消えた。


「勝負ありですねっ! シャルさん、ありがとうございました!」


いや、アリアが消したんだ。

シャルの方を見ると、杖を持って呆然としていた。

そして、自分が負けたのだと気づくと、途端に悔しそうな顔になった。


「オリジナル魔法の炎雷ほのいかずち…流石は《神童》ね。 手も足もでなかったわ」


そう言って、シャルは校舎へ帰っていった。

アリアは笑顔で俺の元へ来ると、俺の手を取って歩き出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


周りの女子生徒にジロジロ見られながら女子寮のアリアの部屋に入ると、アリアはベッドに座り、足を組んで俺を見た。


「で? 感想は?」


「……はい?」


「だから、魔術戦を見た感想はって聞いてるの!

見るの始めてだったんでしょ!?」


アリアは外にいるときとは全く違う話し方で俺に言ってきた。

本当こいつ露骨に態度変わるなぁ〜…


まぁ、それはさておき、魔術戦の感想か…


「凄かった。 …としか今は言えない」


「はぁ〜…? あんなレベルの戦いを見て感想がそれだけ?」


「仕方ないだろ、基準を知らないんだから。 お前がどんなに凄いのかとかいまいち分かってないんだよ」


「この学校で私にそんな事言うの、絶対にあんただけよ」


「あ、学校で思い出した。 お前友達居ないの?」


俺がそう言うと、アリアはまた見事に顔を真っ赤にした。


「は? はぁ!? 友達なんて私には必要ないから!! 第一この学校に私と釣り合う奴なんていないし!

馬鹿みたいに中身のない会話で盛り上がりたくなんてないし!!」


そこまで言うと、アリアは息切れを起こす。


「そ、そうか…でも友達がいれば学校生活が楽しくなるかもしれないぞ?」


ま、まぁ…俺も友達あんまり居なかったからあまり言う資格ないんだけどね。

でも友達がいれば学校生活が楽しくなるってのは本当だ。


向こうの世界で友達と遊んでいる間だけは、家族の事を忘れられたからな。


「使い魔が余計なお世話よ。 それより、あんたの事よ」


「俺? 俺がどうした?」


「この私の使い魔になったのよ? 当然これから戦闘する機会も増える。 だからあんたには戦えるようになってもらうわ」


「…え」


いやいや…無理ですけど…?

こちとら現代っ子のインドア派だぞ?


喧嘩なんてした事ないし勝てる気もしない。


「さて、早速行くわよ! 私しか知らない練習場所があるの」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ここよ」


俺とアリアが初めて会った花畑をさらに進んだ先には、広場があった。

そこには、ボロボロの丸太、焼け焦げた地面があった。


「ここは私しか知らない、私だけの練習場所よ。

特別にあんたに教えておげるわ」


これを…アリアが1人で…?

丸太にはかなり魔法を打ち込んだようで、もう壊れそうだった。


「それもう壊れそうね。 いい機会だから新しくしましょうか」


アリアは魔法で丸太を地面から抜き取ると、端の方に積んである新しい丸太を魔法で地面に突き刺した。

そして古い丸太は、とある場所に置いた。


俺は、その光景を見て目を疑った。


古い丸太が置かれていた場所には、まだまだ沢山の使い古された丸太が置いてあったのだ。

その数は、20を軽く超えていた。


一つの丸太を使い古すまでに結構な時間がかかるはずなのに、この数…

こいつ、いったいどれほど……


「さぁ。 早速始めるわよ。

まずは…魔力量のチェックね」


「魔力量?」


「そう。 簡単に言えばスタミナね。 魔力量には個人差があるの。

魔力が少ない人は少ししか魔法を使えないし、大きな魔法を使うとすぐに魔力が切れる。

逆に魔力が多いと沢山魔法が使えて、大きな魔法をバンバン使えるのよ」


「ほぉ…で、その魔力量はどうやってチェックするんだ?」


「簡単よ。 はいこれ」


アリアは、俺に1枚の紙を渡してきた。

何の変哲もない普通の紙だ。


「その紙は特殊でね、魔力を与えれば与えるだけ増えるのよ。

これを使って魔力量を図るわ。

増える量が多ければ多い程、その人の魔力量が多いってわけ」


「ほう…ちなみにアリアは?」


「そう聞かれると思って、2人分持ってきておいたわ」


アリアはニヤッと笑ってもう一枚紙を取り出した。


「まぁ見てなさい? ご主人様の魔力量の多さをね!!」


アリアは両手で紙を押さえ、力を込める。


「はあああああああ…!!!!!」


アリアの周りが振動する。

草は揺れ、水は波打つ。

全て、アリアの仕業だ。


俺は、肌にピリピリとした物を感じる。

これが…魔力…?


アリアの紙が、どんどん増えていく。

1枚、2枚、3枚、4枚……その数はあっという間に数えきれなくなり、気づけば俺達の周りは紙だらけになっていた。


「ま、こんなもんかしらね」


アリアが紙から手を離すと、アリアが持っていた紙と辺りの紙は全て塵となって消えた。

これがアリアの魔力量…初めて見た俺でもアリアの魔力が多い事が分かる。


「さ、次はあんたよ。 10枚程度だったら今日のご飯抜きね」


「はぁ!?」


「ご飯が食べたいなら頑張りなさい。

あ、魔力を込めるコツは、魔力を込めたい場所に全神経を集中する事よ。

まぁ、そんなに難しくはないから」


アリアはそう言うと、俺から少し距離を取った。


少なかったら飯抜き…少なかったら飯抜き…


俺は、アリアに言われた通りに紙を持ち、目を閉じて両手に全神経を集中させた。

集中…集中…魔力を込める…

…そもそも…魔力ってなんだ?

俺に魔力なんてあるのか?


…まぁいい。 出来るか出来ないかなんて今は考えるな。

今やるべき事だけをやるんだ。


全神経を…両手に。


「…っと…!! ち…! ちょっと!!!!」


アリアの言葉で、俺は目を開けた。


「ちょっと!! 多すぎ!! 早く消して!!」


俺達の周りは紙だらけになっていた。

先程アリアがやったものよりも遥かに多い。


先程のアリアの紙は靴が隠れるくらいの深さだったが、今の紙の量は俺の腰くらいまできていた。

俺よりも身長が低いアリアは胸らへんまで紙に浸かっていた。


「わ、悪い!」


俺は急いで紙を放り投げた。

すると全ての紙が塵になって消えた。


「はぁ…はぁ…! 嘘でしょ…? あんた魔力多すぎじゃない…?」


「そ、そうみたいだな」


正直実感が湧かない。

なぜ地球人の俺が魔力が多いのだろうか。


「まぁ、魔力が多いに越した事なないわね! それじゃあ次は魔法を使ってみましょう。

はいこれ」


そう言ってアリアはまた紙を渡してきた。

渡してきた紙は5枚だ。


「また紙?」


「さっきの紙とは違うわよ。 それは魔法属性を見る紙なの。 その紙に魔力を込めると、属性によって紙に現れる効果が変わってくるの。

今渡した5枚の紙には、それぞれ火、水、風、雷、土の属性が現れるようにしてあるわ」


ほぉ…なんか便利な紙だなぁ…

とにかく、さっきみたいに魔力を込めればいいって事か。


「あ、ちなみにアリアはどんな属性を持ってるんだ?」


「私は火と雷の属性を持ってるわよ」


なるほど…火とかカッコいいから俺も火属性がいいな。


そう思いながら目を閉じ、俺は紙を持つ手に魔力を込めた。


ふぅ…このくらい魔力を込めれば効果が出てるはず…


俺は目を開けた。


「……嘘…」


アリアが、そう呟いた。


俺も自分が持っている紙を見てびっくりした。


5枚の紙には、なんの変化も現れていなかったのだ。


「あれ…おかしいな…ふん!! はああああ!!!」


魔力を込めるが、なんの反応もない。


「あ、アリア…? これって…」


「うん…適性無し…ね」


「で、でも魔力は多いんだろ?」


「魔力の多さと、魔法の適性は別なのよ」


つまり…俺は魔法を使う事は出来ないと…


俺は本気で落ち込んでいた。

魔力が多いと知って、もしかしたら俺には魔法の才能があるかもしれないと思った。


だが実際には属性適性は無し。


俺はこっちの世界でも才能が無いのか。


「ま、まぁ突然才能が開花する場合もあるらしいし? 今日はとりあえず戻りましょ!」


落ち込んでるのを察したのか、アリアが俺の手を握って歩き出す。

アリアに気を遣わせてしまったみたいだ。


俺が何も出来ないのは今に始まった事じゃ無いだろ。

落ち込むな。 他人に迷惑をかけるな。

そう自分に問いかけながら、俺達は寮へ戻った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「美味っ! 何これ美味っ!?」


現在俺とアリアは女子寮の食堂で夕食を食べていた。

俺が食べている料理は肉料理だ。

肉が好きと言ったらアリアがこれを頼んでくれたのだ。


この世界で初めて食べるご飯だったかは不安だったのだが、これがかなり美味い。

俺が今まで食べたどんな料理よりも美味い。

柔らかい肉によくあうソース…絶対にないがご飯が欲しくなる。


「もー行儀悪いですよぉ♩」


「い゛って…!?」


前に座っているアリアが笑顔で言いながら俺の足を踏んでグリグリしてくる。

周りを見ると女子達が俺の事をジロジロ見ていた。


あー…そうだったここ女子寮だった…普通なら男子はいないはずだもんなぁ…目立つよなぁ…

もうちょっと静かに食べよ。


「ちょっとアリアさん!?」


俺達が夕食を食べていると、茶髪の少女が話しかけてきた。

先程アリアと魔術戦をしたやつだ。


確か名前は……そうだシャルだ。


「なぜ男子がこの寮にいるの!?」


「えー? なんでって…私の使い魔だからですよ?」


「こ、ここは女子寮よ!? いくら使い魔だからって…!」


シャルが俺を指差して言う。


こらこらー、人を指差しちゃいけませんよー。


「ていうかー、学園長からは普通に生活していいって言われましたよー?」


「で、でも…!」


「まさか学園長が決めた事に反対なんですかぁ〜? 」


アリアが詰めると、シャルは悔しそうな顔をした後、俺の事を睨んで去っていった。


うわ怖ぁ…


「ふん…目障りな奴」


アリアがボソッと呟いた。


うわ怖ぁ…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夕食を食べて後、アリアの部屋に戻り、お互いに部屋に付いているシャワーを浴びた後、アリアは部屋の真ん中にカーテンを設置した。

カーテンはドア側と部屋の奥を分けるように設置された。


ちなみにアリアのベッドは奥側だ。


「いい? ここからこっちには絶対に入らない事! このカーテンは許可なく開けない事!」


アリアは部屋の奥側を指差して言った。

…なるほど、つまりお互いに住む場所を分けるってわけか。


部屋のドア側が俺の陣地、部屋の奥側がアリアの陣地ってわけね。


「勝手に開けたらその日のご飯は抜き! 分かった!?」


「りょうかーい」


「あと、明日は学校が休みだから、いろいろ買いに行くわよ」


「いろいろとは?」


「あんたの物に決まってるでしょ!

服とか毛布とか日用品とか!」


あー…確かに今俺が着てるのは普通のパジャマだった。

黒い長ズボンに白いパーカーと、ごく普通の服だったわ。


「了解」


「それじゃあ明日も早いからもう寝るわよ」


「え、早くね?」


時計を見るとまだ夜の8時だった。

まだ寝るには早い時間だ。


…っていうか時計あるのこの世界!?

今気づいたわ!


「何言ってるの…もうとっくに寝る時間よ?」 


そう言うとアリアは小さくあくびをした。

ま、まさかアリアって凄く健康的な生活を送っているのか!?

早寝早起きが出来る系の人間なのか!?


「それじゃあ電気消すわよ。 おやすみ」


「お、おう。 おやすみ」


アリアが部屋の電気を消し、部屋のカーテンを閉めた。


ふむ…どうしよう。

まだ全然眠くないのだが。


まぁする事もないので、仕方なく目を瞑った。

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