第2話「使い魔」
適当に散歩して分かった事は、ここは明らかに日本…いいや、地球ではない事だ。
根拠1、生き物。 ここには、地球では見られない生き物が沢山いたんだ。
羽のある小さなトカゲや、地面を歩く植物とかな。
根拠2、空。 空には、月が2つあったのだ。
今は夜だから、あれが月だとはっきり分かる。
普通の白い月と、青い月があった。
以上の理由から、俺はここが地球ではないと判断した。
やはりここは天界で、さっきの子は天使と考えた方が良いだろう。
だが…
「あんな自分勝手な奴が天使ねぇ…」
年齢は近そうに見えたが、言動がガキすぎた。
天使ならもっとお淑やかにしてほしいね。全く。
「…お、なんだ?」
突然、身体が光り出した。
まさか、本当の天使の元に呼ばれるのか!?
俺は、期待を胸に目を閉じた。
ゆっくりと目を開けると、身体を震わせ、目をパチクリさせているさっきの金髪天使と目が合った。
「な、なんでよぉ!!?」
「よ、よぉ? また会ったな」
「また会ったなじゃないわよ! なんでまたあんたが出てくるの!?」
「いや知らねぇよ。 突然身体が光ったらここに居たんだよ」
俺がそう言うと、目の前の天使は目を見開いた。
「え…えっ…? 今あんた…身体が光ったって…」
「おう」
「ち、ちょっと手見せて!」
天使が突然俺の右手を掴み、手の甲を見る。
俺の手の甲には、赤いアザが出来ていた。
アザっていうか…模様? なんだこれ?
「なんだこれ?」
「う、嘘…?」
金髪天使はガクリと地面に膝をついて座り込む。
「こ、こんなのが…私の使い魔…?」
「…あのー…どういう事?」
俺は、金髪天使から使い魔についての説明を受けた。
「ほー…つまりお前は俺の主人ってわけ?」
「…まぁそうなるわね」
「天使の使い魔って事は…天使の使い魔って何すんの?」
「て、天使って言うのやめて!! 私は天使じゃないから! 人間だから!!」
「はぁ? 何言ってんだ? ここは天界で、お前は天使なんだろ?」
金髪天使がやばい物を見る目で俺を見てくる。
「あんた…頭大丈夫…? 本気で心配なんですけど」
「俺は馬鹿だが頭に異常はないはずだぞ。 …ここが天界じゃないとすると、ここは一体どこなんだ?」
「そう。 …あんた、何を知ってて、何を知らないの? 記憶喪失って訳じゃないわよね?」
記憶はある。 過去の事も自殺した事も。
「知ってる事は…本名と過去の記憶。 あとは好物はハンバーガー。 今日のパンツは…」
「それ以上言ったらぶっ飛ばすわよ」
うわ怖っ…
「…んじゃ知らない事は…沢山あるな。
まずこの世界の事、この状況、あとはお前の事だ」
「この世界…って…? どういう事?」
「この世界は、俺が居た世界とは違う場所なんだよ。
俺が居た世界には空飛ぶトカゲは居ないし、月は一つだけだ」
「えっ…」
金髪天使が目を見開く。
余程衝撃だったんだろう。
「だからまず、この世界の事を教えてくれ」
「う、うん…この世界…っていうかこの国の名前はドラグレア王国。
ここは王都よ。 あ、王都っていうのは一番大きな街の事ね」
ドラグレア王国…ねぇ…
やはり聞いた事ない国だ。
「次に今のあんたの状況だけど、多分私の使い魔召喚が原因だと思う」
「まぁ、だろうな」
タイミング的にピッタリだもんな。
俺が向こうの世界で死ぬ直前、あるいは死んだ時にこっちの世界でこの金髪天使が使い魔召喚を行い、俺が召喚された…と。
「最後に私の事ね。
私はアリア。 アリア・アイネス。 一級魔法使いよ」
「アリア・アイネスね。 …ん? 一級…魔法使い…?」
魔法使いって…あの魔法使いか?
「あ、もしかして…あんたの世界に魔法は…」
「あぁ。 ない」
そう言うと、金髪天使…いや、アリアは肩を落とした。
「嘘ぉ…じゃああんた戦力にならないじゃない…」
「俺は普通の人間だぞ? あ、ちなみに俺の名前は日川陽太な。 名前が陽太で家名が日川な」
「変わった名前ねぇ…はぁ…これからどうすれば…」
「そりゃこっちのセリフだ。 いやマジで、これからどうすればいいんだよ…」
俺が言うと、アリアがオドオドしだす。
そしてチラチラと俺を見ている。
目は震えていて、俺に怯えているみたいだった。
…あぁ、なるほど。
俺はアリアに手を伸ばす。
アリアはビクッと身体を震わせて目を閉じる。
俺はそっとアリアの頭を撫でた。
「大丈夫だ。 別にこの世界に呼ばれた事には怒ってないから。 気にすんな」
「で、でも…」
「お前は俺の主人なんだろ? 使い魔に怯える主人がいるのか?」
そう言うと、アリアはハッとしたようで体の震えが止まった。
「そうよ! 私はあんたの主人! あんたは私の使い魔! これからは私の為だけに生きなさい!」
「はーい」
「軽!? え!? 軽くない!? あんた人間なんでしょ? 嫌じゃないの?」
「いや、別に」
元々捨てるはずだった命だ。
こんな命でも必要とされるなら悪くない。
「んで? 俺はどこに住めばいいんだ?」
「あ…そうだわ…あんたが住む場所…え、どうしよう」
「おいおい…野宿は勘弁だぞ? こちとら現代っ子のインドア派なんだ」
「わ、分かってるわよ…! ついてきて!」
そう言うと、アリアは顔を赤くして歩き出した。
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「…あのーアリアさん?」
「何よ」
「これは流石に…まずいんじゃない?」
今俺は、アリアの部屋にいる。
厳密には、アリアが通っている学校…えっと…マナリア魔法学校の女子寮にあるアリアの部屋にいる。
アリアの部屋は女の子らしく、ぬいぐるみがあってフカフカのカーペットが敷いてあった。
「べ、別に大丈夫よ。 あ、あんたは使い魔だし…」
「そうだけども…」
うーむ…落ち着かないなぁ…
「とにかく! 明日からあんたは私と一緒に学校に通う事になるから! それじゃあおやすみ!! はい!!」
アリアはやけくそ気味に俺に毛布を渡してベッドに入った。
俺は数秒迷った後、床で眠りについた。
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「…きて……お…て……起きなさい!」
「…んぇ?」
「早く起きて! 学校行くわよ!」
…あぁそうだ。 そういえば俺昨日コイツに召喚されたんだった。
「…それ、制服か?」
「ん? そうよ」
アリアは、白を基調としたワンピース型の制服を着ていた。
所々に黒が入っていて高級感がある。
そしてスカートから伸びるアリアの足が美し…おっと危ない。
あんまり見てると不審者扱いされちまう。
「ほら、早く行くわよ。 いろんな人にあんたの説明をしなきゃいけないんだから」
そう言ってアリアは扉を開けた。
女子寮の廊下を気まずさを感じながら歩く。
なんか変な感じだ。
「大丈夫よ。 まだ早いから誰も起きてこないわ」
「それを早く言ってくれよ…」
女子寮を出ると、昨日は暗くて分からなかったが、校舎の大きさがはっきりと分かった。
かなりでかい。
敷地面積はどれくらいなのだろうか…
アリアは、どんどん先に進んでいった。
「お、おいアリア。 どこに行くんだ?」
「学園長室よ。 あんたの説明をしにいくの」
学園長室…めちゃくちゃ緊張してきたぞ…
レンガ作りの校舎に入り、よく分からないまま階段を5階分登った。
そして長い廊下を進むと、立派な扉が現れた。
「ふぅ…」
アリアは一息つくと、扉をノックした。
中から「はい。 どうぞ」
と声が聞こえた。
声的におばあさんだろう。
「失礼しま〜す♩」
と、横のアリアが高い声で言った。
俺は思わずアリアの方を見たが、アリアは構わず中に入った。
え!? 誰!? 今の誰!?
何あの高い声!?
「あらアリアさん。 どうしたの?」
「あのぉ〜。 昨日使い魔を召喚したらぁ〜。 この人が召喚されちゃってぇ〜」
可愛こぶった喋り方をするアリアに笑いそうになったがなんとか堪えた。
「使い魔…? 人間に見えますが…」
「そうなんですよ〜。 でも、見てくださいこれ〜」
アリアが俺の右手を掴んで学園長に手の甲を見せる。
すると、学園長は目を見開いた後、俺の顔を見た。
「…失礼ですが、あなた、お名前は?」
「ひ、日川陽太です。 名前が陽太で家名が日川です」
「ヨウタさんですね。 私は学園長のマガリーです。 よろしくお願いしますね」
「は、はい」
学園長は、独特の雰囲気を持っていた。
近寄りやすい雰囲気なのに、接客的に近づこうとは思えない不思議な人だ。
「学園長〜。 質問なんですけど、こういう事ってある物なんですか〜?」
学園長は顎に手を当てて考える。
「…いえ、私は聞いた事がありませんね。
使い魔で人間を召喚するなんて…」
そんなに珍しい事なのか…なら尚更なんで俺が召喚されたのか謎だ。
「まぁ、人間であろうと使い魔は使い魔です。 普通に生活していただいて結構ですよ」
「えっ…!」
アリアがびっくりしたような声を出す。
「アリア、普通って?」
「えっと〜…使い魔は主人と同じ部屋で過ごして絆を深めていくらしくて〜…」
「えっ」
ま、まじ…? てっきり俺専用の部屋を用意してくれるもんだと思ってたんだが…
「使い魔としてヨウタさんを召喚したのは事実。 なら、主人としての自覚を持ちましょう」
「は、はい〜…」
アリアは渋々頷き、俺たちは学園長室を後にした。
「…おい。どうすんだよ」
「どうするって何よ?」
「これからの事だよ。 流石にずっとお前と同じ部屋ってのは…」
「し、仕方ないじゃない…! 本来はそういう決まりなんだから…!」
アリアは顔を赤くして言った。
…まぁ、仕方ないのか…
「あ、それよりお前あれ何? 」
「あれって何よ?」
「学園長ぉ〜♩ってやつ」
「あ…! あれは世間体を気にして…!!」
「ほ〜…お前他人の前だと猫被ってんのか」
「何よ! 悪い!?」
「いや、別に? ちょっと面白かったからさ」
アリアはまた顔を赤くしながら、とある教室の扉を開いた。
中にはもう他の生徒が座っており、皆こちらを見ていた。
もう学校が始まってる時間だったのか。
「アリア、遅刻とは珍しいな?」
メガネをかけたキツそうな女の先生がアリアにそう言った。
「モーナ先生ごめんなさ〜い! 学園長室に行ってて遅れちゃいましたぁ」
「学園長室か、なら良い。 …ん? お前は誰だ?」
先生の視線が俺に向いた。
ヤベックラス全員の視線もこっちに向いた…!
助けてアリア…!!
「この人は〜私の使い魔です!」
「…は?」
先生がそんな声をあげた。
クラス全員もザワザワしだす。
「正真正銘私の使い魔ですよ? ほら!」
そう言ってアリアは俺の手の甲を見せる。
「ふむ…確かに使い魔の刻印だ。
しかし…珍しい事もある物だな…」
「はい〜。 って事で! ほら、自己紹介!」
アリアが俺にそう言ってくる。
…マジ?この状況で自己紹介?
「え、えーと…日川陽太です。 名前が陽太です。 使い魔らしいです…よ、よろしくお願いします」
「先生〜使い魔の事もあるので、席を変えてもいいですかぁ?」
「あぁ。 構わん、そうだな…あの席に座るといい」
俺達は後ろの席に移動した。
俺が窓際の1番後ろで、隣がアリアだ。
「…なぁアリア、俺も授業受けんの?」
俺が聞くと、アリアはノートに文字を書き始めた。
そして何かを書くと、俺に見せてきた。
《当たり前でしょ。 あんたはこの世界の事何も知らないんだから。 ここならこの世界の常識が学べるはずよ》
日本語ではない全く違う文字なのに、何故か読むことができた。
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あれから数時間椅子に座り続け、ようやく放課後になった。
今日は午前授業らしく、皆帰りの支度を始めている。
「無理…もう無理だ…」
正直、この世界の授業は何一つ分からなかった。
まずは魔術基礎。
魔法の基礎を学ぶ授業らしいが、簡単な事しかわからなかった。
まず、人間は体内に生まれつき魔力を持っている事。
そして、魔法の属性は基本火、水、風、雷、土、光、闇の7種類がある事。
複数の属性を組み合わせることで新たな属性を生み出せる事くらいしか分からなかった。
そして世界史。
これは論外だ。
この世界の歴史の事なんて難しすぎて全く頭に入ってこなかった。
あと、これは授業ではないが、一つ分かった事がある。
…アリアは、皆に避けられている。
休み時間、アリアに話しかける奴は1人として居なかった。
俺に対する質問もなかったし…
「さ、帰りましょ〜」
アリアは俺の手を握って教室を出ようとした。
「待ちなさいアリアさん!」
教室を出ようとしたら、ある女子生徒に呼び止められた。
振り返ると、そこにはウェーブのかかった茶髪の女子生徒が立っていた。
「シャルさん? どうしたんですかぁ〜?」
シャルと呼ばれた女子生徒は、アリアを指差して言った。
「私と勝負しなさい! 今日こそは勝ってみせるわ!」
うわぁ…対戦申し込まれちゃってんじゃん…
アリアはチラッと俺を見る。
俺はよく分からず首を傾げた。
「…良いですよぉ〜。 それじゃあ、グラウンドに行きましょ〜!」
アリアはそう言うと、俺を連れて先に教室を出た。
「お、おい良いのか? あんな簡単に勝負受けちゃって…」
「良いのよ。 どうせ勝つし? それに、使い魔に主人の強さを見せつける良い機会だしね」
どうせ勝つしって…どんだけ自信満々なんだこいつは…
グラウンドに着くと、すぐにシャルもやってきた。
グラウンドはとても広く、周りにはギャラリーも集まってきていた。
「さて…アリアさん、やりましょう」
シャルはそう言って杖を構える。
対してアリアは何も構えていない。
「は〜い。 いつでもどうぞ〜!」
アリアはジェスチャーで俺に離れろと命令した。
戦いには加われないので大人しく離れる。
「…? 使い魔は使わないの?」
「まだ召喚したばかりで慣れてなくてぇ」
「そう。 まぁ良いわ。
それじゃあ…行くわよ!」
アリアとシャルの戦いが、始まった。
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