第82話 鳴り響く不協和音
「その事はさっき話し合っただろう?!今さら何故ほじくり返すんだ!」
ホレスは怒りの声を響かせた。
「そうですよ。私達はどうやら兄弟姉妹だったようではあるけれども、これまでと変わらずパーティーの仲間でいよう。そう結論を出したじゃないの。そして共にギルゴマを討ち果たすと誓ったじゃない」
レーナも少し冷静さを欠いた態度でアリシアに反論した。
「ホレス兄さん、レーナ姉さんも、二人は自分の父を…神を討つことに迷いはないの?」
アリシアは二人に訴えかけた。
「馬鹿馬鹿しい、俺は辺境の街イースで孤児として育った。今さら父や母の話など持ち出されても何の思いも抱かない。それに俺の信仰はこれまでの冒険で、とっくに枯れてしまった」
「そうね、私もエルフィンドワーフ族に孤児として拾われたわ。そして、私の信仰の対象はエルフィンドワーフ族の長老や族長であり、大賢者へ向けられるモノよ。私はエルフィンドワーフ族の為にこの命を捧げる覚悟を決めているわ」
「二人とも落ち着くんだ。アリシアは…中央のギルゴマ教が運営する孤児院出身だ。ある意味この中で最もギルゴマに近い存在なんだ」
カナタがアリシアを庇い、ホレスとレーナの二人を諫めた。
「…そうだったわね。アリシアは元々はギルゴマ教の熱心な信者だったわね…ごめんなさい」
「あ、あぁ、忘れかけていたが、そう言えばアリシアは元信者だったな。すまない。無神経ことを言ってしまったようだ」
ホレスもレーナも自分の非を認め、素直に謝った。
この世界では元々、単に「神」と言った場合はそれはギルゴマの事を指した。
あるいは、我らが主、世界の父などの表現もまたギルゴマの事を表す言葉である。
この宗教観を変えたのは先代の大賢者であるゴードンとそれに協力したエルフィンドワーフ族であり、現在ではその旗印をユーリィが受け継いでいる。
彼らが宗教の自由を掲げ挙げたのはそれほど昔の出来事ではない。
むしろ、この世界においてはホレスやレーナの宗教観の方が異端であった。
そして、いつの時代でも、どんな世界でも、宗教の問題と言うのは非常に繊細な事であり。
他人がみだりに触れてはならない禁忌であった。
「その…話してみても良いでしょうか?…父と…」
アリシアの問い掛けは、一体どちらの意味の父だったのであろうか?
「いや、駄目だ。申し訳ないが、今はアリシアの感傷に世界の命運を託して良い場合では無い。アリシア、お前は戦線を離れろ。これは命令だ。残りの五人でクロスファイヤー作戦を決行するぞ」
だが、カナタの決断は揺るがなかった。
他のパーティーメンバー達も仕方がないという反応を示した。
そして、アリシアもまた。
仕方がないと諦めた表情でこの提案を受け入れた。
これは、パーティー結成以来初めての不協和音だと言えた。
この物語の結末は再び揺れようとしていた。
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