第83話 あるいは父性
ギルゴマは能力を解放した後、自分の気持ちを悟られないように薄ら笑いを浮かべていたが、実はこう見えて非常に不機嫌になっていた。
第三世代との戦いに準備していた力を、このような場所で使う事は、ギルゴマの計算違いであった。
そして何よりも、この力を使う事で彼らとの力の差は比べる事すら馬鹿馬鹿しいほどに開いてしまう。
これでは結局、分かり切った結果が出るだけであった。
また同時にギルゴマは、この力を解放する事は…人間の言葉で表すのならば「大人げない行為」だと思ってもいた。
それはまるで、子供と戯れている時に、不意に子供の力が入り過ぎて、怒って本気を出した父親のような気分であった。
つまりギルゴマは自己嫌悪による不愉快へと陥っていた。
(あぁ、やはりと言うべきか。ホレスとレーナは立ち直れたようだが…アリシア、君はカンが良すぎるのだよ。それは絶望を知った人間の表情だ。可哀想に。あれでは今後、役には立てまい)
ギルゴマは自分でも理解しきれない己の感情を持て余してしていた。
(あるいはこれが、親の気持ち。父性と言われるモノでしょうかねぇ?)
ギルゴマは自分がそのような感情に陥った事に気が付き、不思議な感覚を抱いた。
(思えば私は、あのヴィジョンと言うモノを知った時から、彼らの冒険する姿を窺う事で、人間界の様子を知れたのでしたねぇ)
ギルゴマは回顧するように自分の考えに耽っていた。
(あのヴィジョンと言うモノは本当に面白い魔法でしたねぇ。思わず私もあの子達を応援してしまう程、夢中になって観てしまうくらいには楽しめましたかねぇ)
ギルゴマは初めてヴィジョンを観て以来、実はずっと欠かさずヴィジョンを観ていた。
他の人間が知れば「そりゃあ、ファンってやつだぜ?」と言われる程度にはヴィジョンについて詳しくなっていた。
(おや?ハイヴィジョンを通して、彼らが何か会話をしているようですねぇ。全く、私がまさかヴィジョンはおろか、ハイヴィジョンまで観ているとは、夢にも思わないのでしょうねぇ)
ギルゴマは奇妙なおかしみと、皮肉を込めた笑みをそっと浮かべた。
(なるほどねぇ。クロスファイヤー作戦ですか。とても残念です。もし私が知らなければ、上手くいったかもしれませんねぇ。おや?アリシアの様子が何だか変ですね。ふむ、なるほど。私に父としての自覚を問い質したいと言ったところですか)
ギルゴマはそれを聞いて、決して悪い気分にはならなかった。
自分でも驚くべき事であったが、先程までの不機嫌さが帳消しになる程度には気分が良くなっていた。
(これはアリシアと話してみる価値はあるかもしれませんねぇ)
ギルゴマはニヤリと笑みを浮かべアリシアを懐柔する事に決めた。
いや、それを通して、他の子達にも自分の真意を聞かせても良い。
そう考え初めていた。
(だが、まずはこの者達に絶望をあたえましょうかねぇ。それからの方がきっと懐柔がしやすくなるでしょう)
クックック、とギルゴマは笑いを堪えながら自分の計画を実行しようとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます