第11話 決戦前日譚、その1

「ペーター、ご飯よー」





優しそうな母親の声が道具屋の二階に響いた。





「ペーターのやつ、最近どうなってんだ?飯時になっても降りてこねえじゃねえか?」





頑固そうな父親が心配そうに聞いた。





「何でもヴィジョンとか言うのに夢中らしくてね、まあ宿屋の兄弟も同じだそうよ。今日女将さんがボヤいていたよ。ヴィジョンが始まったら手伝いにもならいって」





「あぁ、例の冒険者パーティーか随分と評判が良いらしいな」





「まあねえ、あたしも何度か見たけども、あれを見たら子供たちはみんな冒険者に憧れるだろうねぇ」





「なんだ、そんなに面白いのか?」





「なんだい、あんた見た事なかったのかい?」





「ああ、最近忙しかったからなぁ」





「…見ない方が良いよ。あんたもきっと夢中で見ちまうクチさ、そうなったら仕事になんなくてあたしたちゃおまんま食い上げだよ。ペーター!いい加減に降りてきな!」





母親が痺れを切らして怒鳴った瞬間二階から転げるようにペーターが降りてきた。





「大変だ!明日、大戦闘が起きる!!」





ペーターは大きな声で叫んだ。





「一体何の話だ?」





両親は驚いた顔をしていた。





「いいから!ヴィジョンを見て!今すぐに!!」





今日、世界中の家庭で職場で学校で似たような会話が交わされた。


曰く、明日の戦闘はやばい。明日は誰かが死ぬ。


明日もしかすると人類は滅びるかもしれない。


とにかくヴィジョンから目を離すな。


明日、何かが起きる。


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