第12話 決戦前日譚、その2~遺跡探索その前に~

「中央政府直轄の遠征軍からこんな連絡がきました」





アリシアはそう言って速達魔法で届いた手紙を見せた。


そこには遠征軍への参加を要請すると書いてあった。これは事実上の徴兵である。





「あー、これは断れねぇだろ?どう見ても」





ホレスはガシガシと頭をかきながら言い捨てた。





「そうですね、さすがに断るのはまずいと思われます」





いつもは必ず反対意見を述べるレーナも今回はおとなしく同意した。





しかし、アリシアは少し得意そうに、もう一つの手紙を出した。





「ここにもう一つ、この手紙より先に届いた依頼書があります!それも大賢者ユーリィ様からの緊急依頼です!冒険者原則に則った場合どちらが優先されるでしょう?」





「先に届いた緊急依頼だな」





「ええ、先に届いた“ユーリィ様”からの依頼が優先されるわね」





ホレスもレーナもしれっと答えた。





「その通りです!!なので我々は今から緊急依頼を受けて、偶然にもこの遠征軍駐屯地の北10キロほど先にある遺跡へと向かいます!」





「異議なーし」





「仕方ありませんね」





「カット!ベータも一回ヴィジョンを切って。ねえ、ちょっと、三人とも、やる気がなさ過ぎよ。まるっきり演技してる事がバレバレだわ」





アルファが三人の会話を止めた





「あー、アリシアは悪くなかったぞ」





彼が笑いを堪えながら言った。





「これは台本が悪い」





ベータがつまらなそうに呟いた。





「文句を言うんだったら貴女が書きなさいよベータ。言っとくけど想像以上に面倒な作業なんだからね!」





アルファがベータを睨みつけた。





「なあ、こんな茶番劇が本当に必要なのか?」





ホレスが心底嫌そうに聞いてきた





「私もこのような人を騙す行為には疑問を抱きます」





レーナも乗り気ではないようだ





実は今、パーティーは既にその遺跡に到着していた。


ここで明日の戦闘に必要な古代魔法文明時代のアーティファクトが手に入るとベータが予知したからだ。





パーティーは急いで今から遺跡の中へ入ろうしていた。


その時にちょうど遠征軍からの速達が届いたのだった。





しかもご丁寧に、「近くにいるのであれば至急参戦するように」と書いてあったのだ。


このまま無視するのも面倒だと思った彼の提案により、急遽このような茶番劇を繰り広げる事になったのである。





「しかし勝手にユーリィ様の名前を使って大丈夫なのか?」





ホレスが心配そうに聞いた。





「大丈夫、世間ではユーリィが私達のボスという設定になっている」





ベータが少しずれた返事をした





「あのー、ホレスが言っているのはユーリィ様にご迷惑を掛けるのではないか?という意味だと思います」





アリシアがクスクスと笑いながら言った。





「どちらにしても大丈夫よ、ユーリィには貸しがたくさんあるんだから。これぐらいは返済分の迷惑料よ」





アルファが堂々と言った。





「ま、申し訳ないが今回はユーリィに泥を被って貰おう」





彼もあっさりとそう答えた。





「ユーリィ様、申し訳ありません。本来であれば私が止めるべきなのに…」





レーナは祈るように空を仰いだ。





大賢者ユーリィ・エルフィンドワーフ、その名が示すように、エルフとドワーフのハーフであり。今世の大賢者である。


一部の人間からは信仰の対象として崇められている人物でもあるが、このパーティーの約半数の人間はユーリィを債務者と呼んでいる。


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