第7話 星降る停車場、知らない景色。
線路に揺られて、次の停車場に停まる。
宮沢賢治の知り得ない駅だった。星がたくさん降っている。彼女は電車を飛び降りて僕に向かって叫んだ。
「見てよ!流れ星!すごいね綺麗だね」
学生の頃、あんなに大人びてみえたはずの彼女の幼い姿に僕は自分の成長を感じる。
「天国でもアイドルやれますように」
「そんなにアイドルがいいの?」
僕は単純な疑問を投げかけた。
「本当は、本当はロックバンドがやりたかった。だけどアイドルだって十二分にかっこいいよ。死にたい人がいれば、真っ先に歌を届けられる仕事がしたかった。私自身歌に救われてきたの」
嘘をつけよ。歌に殺されたんだろうが。だけどそんなことは言えない。おそらく彼女は本当に歌を愛している。
「小学校の時は、なんだかみんな馴れ合いで仲良いじゃん。けど中学に入って、みんなと少しだけノリが違うことに気がついた。みんな本当に良い歌を知らないんだよ。売れたいだけの、キラキラした曲。もっと音楽は人を泣かせていいんだよって、ずっと思ってた。あの時はバカだったなぁ、人によって響く曲が同じなわけがない。私にとっては神様みたいなバンドも、他の人からしたらただただがなってるだけなんだ。アイドルだって、キラキラしてるだけじゃないと思う。強い女の子達が必死に歌って踊って汗をかいてることに魅力を感じる人だっている。私はどっちかっていうとそっち側だった」
彼女は、自分の好きなものを、ただ純粋に愛した結果、排他的になってしまって、居場所を失った。そこに寄り添う音楽が、万人に受けるはずがない。弱った人たちの心を強く揺さぶる音楽は、満ち足りた人間にはノイズでしかない。
「大好きなバンドの曲をね、ある大好きなアイドルの子がカバーしてたの。私とその子はすごく似てた。勝手に親近感を覚えた。私にもなれるかも知れない。いつしかそう思ってた。アイドルって大変だけど楽しいんだよ」
彼女に、自殺したときの記憶がないことをただ祈っていた。彼女が遺した言葉からは想像もできない、本音だと感じたからだった。
空に降る星達を見て祈る。天国では、彼女は『ほんとうのみんなのさいわい』を充分に享受してほしいと、願うばかりだった。
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