第23話
「よし、欄君に小生の強さを見せてしんぜよう」
田所君は、液晶のついた機械の前の椅子に座り、百円玉を投入する。対戦型の格闘ゲームというやつだ。
確か、向かい側でプレイする人間と対戦できるのだったか。
「今は、オンラインが常識でござるよ」
僕は変な感心を見せる。
つまり、相手がここにいなくても全国の人間と対戦ができるということか。ゲーム世界の進歩は、計り知れないものがある。
田所君は丸い先がついたレバー状のコントローラーを、逆手にした人差し指と中指で挟み、右側に複数個あるボタンの上に右手を置いて戦闘準備を整えた。
キャラ選択はランダム。
「誰が選ばれても、小生の手にかかれば最強になるでござる」
だそうだ。
数秒後、キャラが選ばれる。妙に露出の多い女性キャラ。田所君は一瞬にやつく。
画面上に、FIGHTの文字が浮かび上がる。
途端、田所君の両手が目に留まらぬ程の速さで動き出した。レバーの動く音と、ボタンが叩かれる激しい音が聞こえるが、どのタイミングの音なのか分からない。
音が、後からついて来ているようだ。
「――終幕波衝撃!」
田所君が叫ぶと同時に、画面上にKOの文字が映し出される。回りから拍手と喝采が響く。
何事かと思い周りを見渡すと、皆こちらに向いていた、
「「た・ど・こ・ろ! た・ど・こ・ろ!」」
喝采を浴びる男は、立ち上がり拳を突き上げた。歓声が響く。まるで、どこかの王様のようである。
僕は画面に再び目を落とした。
『WORLD RANKING FIRST』の文字が見える。どうやら僕が今目にしていたものは、世界一の職人技だったようだ。
「さあ、行こうでごさる」
背に歓声を受けながら、僕たちはその場を後にする。あまりにも突飛な状況に、僕は呆けていることしかできなかった。
奥に向かい少し進むと、中にいくつものぬいぐるみが入った機械を見つけた。僕は、その機械の前で立ち止まる。
「――ん? UFOキャッチャーがしたいでござるか?」
この機械がどういったものなのかを尋ねたところ、田所君曰く、上部についたキャッチャーを操作して中の景品を運び、それを左下部の穴に落とし込むことで景品を手に入れることが出来るらしい。
「簡単に取れるものなのか?」
「いや、ものによるでござるが、簡単ではないでござるよ。キャッチャーのアームと呼ばれる部分の挟む力は、意外と弱いでござるからな。引っ掛けたり、徐々にずらしていったりする技術が必要になってくるものもあるでござる」
「これは?」
僕は、目の前のUFOキャッチャーを指差す。
「これは……そうでござるな、一般的な難易度だと思うでござるよ」
それを聞いて、財布の中身を覗いた。残金的に、挑戦できて二回といったところか。
僕は財布の中から百円を取り出し、UFOキャッチャーの百円投入口に入れた。
「何か、狙っているものがあるでござるか?」
「あの、熊のぬいぐるみの小さいやつ」
「ほー、これまたえらく可愛らしいでござるな」
「蓮が、好きそうだなって思って」
田所君は「そうでござるか」と呟き、僕の肩をばしばしと叩いてきた。操作がくるうのでやめて欲しい、と心底思った。
結局、二回挑戦して取ることはできなかった。
ぬいぐるみを掴むことはできたけれど、田所君の言っていたとおり、挟む力が異常に弱く、するりとアームの間から抜け落ちて行った。
代わりに取ろうか、と田所君の申し出もあったけれど、断っておくことにした。なんとなく、自分で取りたかったのだ。
僕たちはゲームセンター内の椅子に腰かけ、小休憩に入ることにした。気付けば、ゲーム機が放っていた妙な光の輝きもすっかり慣れていた。
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