作戦開始ーロミアの場合ー
作戦開始が告げられた。
俺は久しぶりに弓を片手に、港が一番よく見える高い建物……時計台へ登り、双眼鏡を手にして待機していた。
まっっったくむちゃくちゃだ。
来てすぐに情報を集めたはいいが、少ない情報と人員で、こんな作戦考えるなんて。
ある意味レイさんは怪物かなにかだ。あの人の頭脳は、恐ろしいモンスターを飼ってるにちがいない。
今回の作戦はサーニャ主体で行われる。といっても、すごく簡単に言えば鬼ごっこだ。
海賊船は今、港に停泊している。もうすぐ海賊船員がやって来るだろうが、その前にサーニャが堂々と海賊船に乗り込む。
そしてできる限りの敵戦力を引き付けて街へ上陸。待ち構えているクレゼスさん、ゲルドルトさんで撃退する……とんでもなく簡単かつ、無謀な作戦。
……って思うだろ?
これがまた無謀じゃねぇんだよなぁ。
なにせあのサーニャだ。回避行動だけはずは抜けて高い。けど信頼してるのは普段の行動だけが原因じゃない。
実は俺とリーリア、サーニャの三人である実験をした。これはレイさんも知らないことだが、サーニャが自分の回避行動の限界を知りたいと言ってきたことが始まり。
玩具のナイフはもちろん、石すら避けやがった。最終的に刃のない柔らかい弓矢もかわされたときは、流石に目を疑った。
サーニャは飛んでくる矢すら何度も避けた。
俺も弓の腕には自身がある。かなり遠くの的だって当てられる。
だからこそ、サーニャに避けられたときはすごく悔しくて何度もやったが、結果は変わらなかった。
そんなサーニャだ、大抵の攻撃は避けられるだろうが、万能じゃない。だから何かあったときのために後方支援として俺がいる。
この時計塔は港に近く、弓の射程範囲内だからな。これなら支援は万全!
……と思ってたんだけどなぁ。
これ、俺の出番なくね?
双眼鏡で海賊船の甲板を見ているが、サーニャは無傷で走り回っていた。
相手のごついハンマーも、剣も、銃さえも。サーニャにかすることすらしていない。
……あいつ、俺の弓も本気で避けてた訳じゃなかったんだ。なんかそれはそれで、ムカつくと言うか複雑と言うか……。
考えてみれば、サーニャは元々が最上級ダンジョン攻略をしているパーティーのタンク兼アタッカー。
覚えてなくても体が覚えてるんだろうなぁ。そりゃ、人間の攻撃はモンスターに比べりゃすごく遅いし、避けやすいだろう。
そうこうしているうちにサーニャは甲板から降りて街へ降り立つと、勢いよく走り出す。それにつられて何人もの海賊船員が街へとなだれ込んでいった。
その数ざっと50人くらいか? すごい数だったが……まぁ、大丈夫だろう。
なにせ街には、鬼が二人も待機してる。可愛そうに、今からボッコボコにされるぞ、あいつら……。
ちょっと同情しちまうが、悪さする方が悪い。
さて、海賊船の人手がまばらになったところで、俺の出番だ。
体に泥と塩を塗り、薄汚れた格好になっている俺は時計塔を降りると、堂々と海賊船へ近づき……そしてこれまた堂々と、甲板から降りて来た厳つい兄ちゃんに話しかけた。
「すんません遅くなりました!」
「は? 誰だお前」
当たり前の反応をされ、剣を持つ兄ちゃんににらまれると、俺は苦笑いを浮かべてやる。
「ひどいっすね! 俺ですよ俺! 新入りのしたっぱの顔なんていちいち覚えてないでしょうけど……」
「あ? ……あぁ、お前か。って、こんなとこで油売ってねぇで仕事しやがれ!!」
厳つい兄ちゃんは一瞬困惑した顔をしたが、すぐにものすごい形相でしかってきた。
「すいません!! すぐいきます!」
こうして俺は逃げるように海賊船へと潜入した。
人間の記憶力って、限界がある。この海賊船はかなりの大所帯だし、はいりたての新人を装えばまぁなんとかなる。
堂々と当たり前のように振る舞えば、怪しいやつでも記憶に自信がないからいたことにされる。なんかこう言うのは詐欺とかに使われる手法なんじゃねぇかな。おばあちゃんとか騙されそうだし。
そうやって潜入し、慌ただしく武器を運び出す……ふりをして船内へと入った。
「ロミア」
廊下を走って慌てたふりをしながら進んでくると、声をかけられた。振り返ると部屋の扉から顔を出してこっちへ手招きしている一人の女性がいた。
派手な青色に色とりどりのメッシュが入った独創的な髪型。セルビリアさんだ。
実はサーニャよりも先に潜入してたんだよなぁ。よかった、合流できて。
「サーニャが来たのね。それじゃ、合図が出たら人質を逃がして。地下牢にみんないるみたいよ。はい、鍵。」
流石セルビリア姉さんだ……ちゃっかり牢屋の鍵をくすねたのか。いやどうやったのかは今は問題じゃねぇ。
俺はセルビリアさんから鍵をもらうと、地下へと走った。合図は派手なものを送るって前もっていってたけど、なんなんだろう……。
「大変だー! 侵入者だー!」
地下室につくなり見張りにわかるように叫ぶと、見張りは急いで甲板へと向かっていった。俺は物陰に隠れ見張りがいなくなったのを確認して牢屋へ向かう。
そこには、女性や子供たちが乱暴にひとまとめに放り込まれていた。
「もう大丈夫、助けに来たぜ!」
そう言ったときだった。
ドカーーーン!
派手な爆発音が上から響き、土ぼこりが舞い降りた。
な、なんだこりゃ……こんなの聞いてねぇぞ!?
『派手な花火を打ってあげるから、それが合図よ』
たしかセルビリアさんはそんなこと言ってたけど……まてまてほんとに花火打ったのか!?
けどこの混乱に乗じれば皆無傷で助け出せるかも知れねぇ!
「さぁ皆急いで!」
子供と手を繋ぎ、俺たちは脱出を図る。
甲板は火の海だったが、騒ぎが大きくて船員は俺たちに気づいていない。
こうして暑い中を突っ切って、俺たちは海賊船を見事に脱出したのだった。
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