こんな場所さっさと出るわよ!

 インスタントダンジョン


 それは突然現れる魔物が巣食う危険な空間。噂だと魔王軍が人間に嫌がらせをするために出している、なんて聞くけど、魔法だとか勇者だとかは令嬢の私には関係ないからよく知らない。


 インスタントダンジョンの中は魔物だらけで危ないけど、お宝とかもあるらしくて出現するとギルドに登録している冒険者たちがこぞってダンジョン攻略にいくの。一攫千金を狙ってね。


 因みにだけど、腕っぷしに自信のある冒険者……所謂タンクだったりナイトだったりの職業以外に、魔法職もあるわ。けど、基本的に魔法を使うには魔法使用許可書っていう免許が必要だから、そんなにもいないんだけど。この許可書は学園卒業者やギルドの試験を受けるともらえるわ。


 逆にいうと、免許がない状態で私有地以外で魔法を使ったら、法律違反で捕まってしまう。魔力を持つものは学園に必ず通わないといけないけど、何らかの事情で中退……学費が払えなかったり、そもそも入学試験に落ちたりした人は、ギルドの試験を受けるのよ。学園生徒に貴族が多いのは単に財力だけじゃなく、生まれもった資質が高いからっていうのもあるね。


 で、問題は……。なんでそんな危険なところに私がいるかってことよ! だってここは、精霊に会うための洞窟でしょう!?


「なんでインスタントダンジョンに入り込んでるのよっ!」


「えー、なんでって、妖精は基本、インスタントダンジョンみたいな、魔力の濃いところにしか居ないからだよ。」


 何を当たり前のことを、というようにあきれているファイは私の回りをくるくる飛行している。


「あの洞窟から、このインスタントダンジョンに迷い混む。これが精霊に会うために必要なステップ。っていうか、あの洞窟って所謂センサーみたいに、才能のある人しかこっちに飛ばしてこないからぁ、ここにこれるだけでそれなりに才能あるってことなんだよねぇ。」


 呑気なこといってくれてるけど、インスタントダンジョンは毎年ずいぶんな数の死者が出てるのよ!? そんな危ないところに生徒を放り込むなんて、学園はなに考えてるのよっ!!


「才能があっても、実戦経験がある訳じゃないわ。私じゃなかったら、きっと死んでたわよ……」


 学園の課外授業で死者が出ました、なんて笑えないわ! ここから出たら学園に文句いってやるんだからっ!


「君だからここに飛ばされたの、わかんないかなぁ。」


 旋回していたファイが止まると、私を見下ろしていた。小さいくせに私を見下ろすだなんて、ずいぶん高慢な妖精ねっ。


「どういう意味よ。」


「言葉のまんま。あぁ、エリザって、自信満々な癖に誉められなれてない感じなんだぁ。」


 は? 何言ってるのよ、こいつ。ニタニタしてムカつくわね。言いたいことははっきり言いなさいよ!


 なんて私の念が伝わったのか……いえ、たぶん顔に出てたんでしょうね。ファイは笑うのをやめ、私の顔の高さまで降りてきた。


「少なくとも、あたしがこのダンジョンに来てから、学園生徒が迷い混んだことはないの。だってここ、下級ダンジョンの中ではトップクラスの危険レベルだもん。」


 インスタントダンジョンには、内部の危険度によって上級、中級、下級の3つにランク分けされている。下級と言えど中級に及ぶほどの危険を持っているものもあるから、ランクが低いといえども侮ってはいけないのよ。


 確かにさっき戦ったビーストウルフは、中級ダンジョンによく出没するわ。下級でも少数個体が確認されていたけど、珍しいこと。つまり今私のいるこのダンジョンは、下手をすると中級ダンジョンクラスになるってわけ。


「殆どの生徒はインスタントダンジョンに入ることもできない。入れたとしても、下級ダンジョンの最下層クラスのダンジョンがほとんど。つまり、エリザはここに飛ばされてもクリアできると判断されたってわけだよ。ここまでいったらわかる?」


 首をかしげられたけど、さすがにここまで言われたらわかるわよ……っ


「つまり、私がすごいから此処に来れたってこと、でしょ」


「そういうことー。あたしが契約した人間なんだから、それくらい当たり前なんだけどねー」


 いちいち一言余計ね……っ。今いい気分だったのに。まぁ、いいわ。ルクシュアラ家の長女なんだから、才能があって当たり前だし?多少危険なことでも、華麗にこなしてこそね。


「きゅぅ……」


 洞窟の隅の方で鳴き声が聞こえた。ふとそちらを見ると、さっきまでビーストウルフにやられっぱなしだったドラゴンが、こっちを見ていた。ドラコンって、普通固い鱗におおわれてるはずなんだけど……この子は鱗じゃなくて、歯車と鉄板で出来ているみたい。鋭く薄い鉄板が衣の代わりになっているし、瞳は……たぶんガラス玉かしら?黒いのがそれっぽいし、間接には歯車がきちんと噛み合って動いている。


 こんな生物、どの書物にも載ってなかったわ……何かしら。襲ってくる気配はなさそうで、ずっと見てきているけど……


「何かしら? もしかしてついていきたい、なんて

 ……」


「キュウ!!」


 嘘でしょ。冗談でいったつもりが、ドラゴンは首を縦に振って、ドスドス音をたてながら四足歩行で歩いてきた。飛べばいいのに、土ぼこりが舞うから遠慮してるのかしらね。私の背丈くらいだから、ドラゴンにしては小さいのかもしれないけど、この大きさはちょっと……。でも、此処においていったらまたビーストウルフにやられちゃいそうね。


「仕方ないわね……まぁ、いいわ。精霊と契約しただけでも凄いのに、ドラゴンまで連れていたら注目の的間違いなしだし。庭に小屋でも建てれば、飼えるでしょ。」


 ドラゴンは飼うものじゃありません、って言うかもしれないけど、私が飼いたいって言えばその通りにやってくれるし、いいわよね。


 ようやくこっちに来たドラゴンは、嬉しそうに尻尾をどすりと振っている。それだけで地面が揺れるんだから、相当力はありそうね。なんでさっきやり返さなかったのかしら? 気弱な性格なのかもね。


「キュゥ!キュキュ!!」


 今度は何をするのかと思えば、鉄板の翼から一枚のプレートを咥えて私の前へ差し出してきた。手を出して受けとると、そこには歪に[ドス]という名前が刻まれていた。


「ドス? これがあんたの名前なの?」


「キュウ!」


 激しく頷かれたから、そうなのね。でも自分で掘ったのかしら?それても以前誰かに飼われてたのかもしれないわ。人馴れしてるし。ダンジョンに独りぼっちって言うことは、飼い主は死んじゃったのかもね。


「さ、こんなとこもうでましょう。そろそろ一時間経つし、また魔物に襲われるのは嫌よ。」


「なら出口はあっちだよー。」


 ファイが杖で指差した岩壁には、いつのまにか赤い扉が現れていた。さっきも出口がなくなったりしていたから、これもファイの仕業かしら。まぁいいわ。さっさと出ましょう。


 2人と1匹で扉を潜ると、いきなり日差しが目の前に広がって、眩んでしまった。慌てて目を掌で覆い、明るさになれた頃外を見ると……そこは洞窟の前だった。


 すでに洞窟から出てきた同じグループの生徒や、次の風属性グループがちらほら集まっていた。ようやく戻ってこれたようね。


 出てきた私に視線が集まり、辺りがざわめき出す。どうやら同じグループで精霊と契約できたのは、私だけのようね。しかもドラゴンを連れているんだから、余計に目立つわ。


「見て、ルクシュアラ家のご令嬢は精霊と契約できたみたいよ」


「さすが名門貴族。でも後ろにいるのって……」


「えぇっ、ドラゴン!? そんなのも手懐けてるのか!?」


 ふふ、皆して驚いてるわ。やっぱりいい意味で目立つのって、気分がいいわ! ファイも注目されているからかどこか誇らしげだし、ドスは恥ずかしそうにまた尻尾を振っている。


 けれど、ここはインスタントダンジョンじゃない。洞窟の壁だって、普通の岩。ドラゴンが尻尾を振って耐えられる強度ではないわ。それに気づいていなかった私は、ドスの尻尾振りのせいでヒビが入り、崩れた岩壁の一部に気づくのが遅れた。


「危ない!」


 咄嗟にまだ片付けていなかった杖を向け、魔法を放った。あんまり魔力を練る時間はなかったし、出力調整もしていなかった。それなのに……


 ーードガァン!!


 崩れた岩に向けた火球は岩を砕くどころか、爆発して辺りを火の海にしてしまった。


 ちょ、ちょっとどうなってるの……っ!? こんなに強い魔法放った覚えはないわよ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る