騒ぎを起こすつもりはなかったのよ!
辺りは一面火の海。回りにいた生徒には被害がなかったみたいだけど、皆驚いて呆気にとられていた。
「ちょっと何してんのよ!!」
火の海のど真ん中にいるけれど、全然熱くないのは私の魔法で生まれた炎だからでしょうね。その炎の中ファイが目を丸くして私の前まで飛んできた。ドスに関してはいきなり火が出たことに驚いたのか、辺りをキョロキョロしている。
「こ、こんな大きな技使うつもりはなかったのよっ。ちょっと魔法で岩を壊そうとして……っ」
あんな瞬時に発動させた魔法がこんな威力になるなんてありえない。今までだって火球を飛ばすのが精一杯だったのよ!? こんなに回りを燃やすことだってなかったのに……っ
「あんたはもう精霊と契約してるんだから威力事態も底上げされてるの!! 今までの感覚で魔法使ったらえらいことになるわよっ。」
なんですって!?
確かに威力が高まったのは感じたけど、ここまでコントロールがきかなくなるものなのっ。
「ていうか、そういう大事なことは先に言いなさいよ!」
「言う前に魔法発動させたのそっちでしょ!!」
「キュ、キュゥ……」
私とファイが言い争いを始めたので、ドスが間に入って宥めようとする。私の感情につられてか、なぜか炎の勢いも増してきていた。魔法がこんな風に後から威力を増したりしたことなんて今までなかった。
私の感情で炎に作用するなら、落ち着いたら消せるんじゃない? そうよ、私はルクシュアラ家の長女よ、自分の失敗くらい自分で何とかしないと!
深呼吸を数回して、回りに意識を向ける。ぐるりと私を囲う気配は、間違いなく私の魔力。それなら、その魔力を私に戻すようにコントロールして……。
ほら、できた! みるみるうちに火が鎮火されていくわ。一度放った魔力が戻ってくることはないけど、消し方はわかったわ!
炎が収まり監督していた講師が慌ててやってきた。怒られると思ったけど、なぜか誉められたわ。
なんでも精霊と契約してまもない生徒の魔法暴走は良くあるらしい。というより、ほとんどが暴走してしまってるので講師たちもそれを見越して準備しているのよ。確かに私も暴走はしたけど、自分で何とかできた生徒は珍しく、しかもすぐにコントロールができたからすごいって。
すごいもなにも、当然のことよ。自分の力なんだから。
「さすがお嬢様。精霊つれてきたんですねぇ」
講師との会話が終わった後で、頃合いを見てリーリアがやって来た。後ろには……何あれ、幽霊? 髪の毛ボサボサの見るからに不健康そうな奴が付いてきていた。
「ていうかぁ、その後ろのなんですか? ドラゴン?」
「ドスって言うのよ。洞窟で拾ってきたの。こっちの小さくてうるさいのが私の守護精霊のファイよ」
「誰が小さくてうるさいですって!?」
リーリアとボサボサ頭は珍しそうにドスを眺めていたし、ぷりぷり怒ってるファイには苦笑いを浮かべていた。
「ドラゴン拾ってくるってぇ、前代未聞じゃないですかぁ? さすが、お嬢様ぁ。」
怖がられるかと思ったけど、リーリアはドスに好意的みたいで、手を振った触ったりしている。仲良くなれそうでよかったわ。
「ねぇ、リーリア。その人は誰?」
「あぁ、紹介がまだでしたぁ。同じ学年のレンジュ君でーすぅ。さっき友達になりましたぁ。」
リーリアが手で彼を指すと、レンジュと言われた彼はペコリと会釈をした。毎回思うのだけど、リーリアって見かけによらずコミュニケーション能力が高いのよね。すぐに知り合いを作ってしまう。その辺り、私も見習いたいわ。
「友達……。」
「あれぇ? 違いますぅ?」
「……いや、友達でいい。」
そっぽを向いたレンジュ。なるほどね。あいつ友達少ないと見たわ。見るからに陰キャだもの。ちょっと嬉しそうにしているのが、初対面の私でもわかるわ。
さて、各々自己紹介はしたし、リーリアのグループは最後だからまだまだ時間があるわ。聞いたところ、レンジュもリーリアと同じ亜種属性らしいから一緒に行動することにしたわ。
「それじゃ、最終グループになるまで街で時間を潰しましょう。屋敷に帰るには距離もあるし、揺れるから嫌よ。」
「近くにリベラって街があるらしいですし、そこにいきましょうよぉ。レンジュもいい?」
「問題ない」
早速行き場が決まったところで待たせていた馬車に乗り込むのだけど、こので問題が発生した。ドスのことよ。この子大きいから馬車には乗れないし、かといって飛んだら飛んだで目立つわ。
「ドスは大きいですもんねぇ。というか、機械仕掛けってどんな仕組みですかぁ? ちゃんと生きてるっぽいですけどぉ。」
「詳しいことは私にもわからないのだけど、昔だれかに飼われてたみたいなの。ネームプレートを持っていたから。」
ドスはドスで、私についていきたいのか馬車に乗れずに四苦八苦している。どうやってもその大きさじゃ場所には入れないわよ……。
「キュ!!」
なにかひらめいたのか、ドスが馬車から離れた。そして翼を畳み、地面に座るとドスの体についていた歯車が一斉に回りだした。するとあら不思議。激しい摩擦音をあげながらどんどん鱗や翼の一部が収納されていく。一回り、二回りと小さくなっていき……気がつけばドスは、私の手のひらサイズまで小さくなっていた。これじゃ、機械でできた蜥蜴みたいね。
「……どんな仕掛けなんだ一体」
レンジュが突っ込みを入れるのも無理はないは。だって明らかに、収納された鉄板や部品より小さくなってるもの。格納した部品をどこにしまっているのか、全く謎ね……。この子に関しては疑問が尽きないけど、今この場でその謎を突き止めることはできないから、屋敷に帰ってから調べようかしら。
とりあえずこれで、ドスも馬車には入れるわ。ドスはこっちに飛んでくると、私の方に止まり頬を擦り寄せてきた。ひんやり冷たい金属の頬が、少しくすぐったい。
「それじゃ、いきましょうか。」
「はぁい。」
「街なんて久しぶり!! ねぇねぇエリザ! あたしお菓子食べたい!」
馬車に乗り込むとファイが目を輝かせていた。ずっとダンジョンにいたのなら、外の世界は珍しいものだらけでしょうね。
こうして3人と1妖精と1匹で街へ来たわけだけど、数時間があっという間にすぎたわ。
お昼をいただきにレストランに入ろうとしたら、高級すぎるってレンジュは入ろうとしないし。仕方ないからランクを下げたレストランに入っていったら、ファイが厨房まで迷い混んじゃうし。まぁお陰で、厨房のガス漏れに気づけて事なきを得たけど。
さらに街でショッピングと思ったら今度はドスが迷子に。レンジュが見つけてくれたけど野良犬に食べられそうになってたって言ってたわ。そのレンジュはレンジュでなんだかよくわからない奇妙な店ばかり入ろうとするのよ……ハプニングだらけだったわ。
こうして長いはずの空き時間はあっという間にすぎた。おやつの時間になった頃、ようやく最終グループ集合時間となった。
「二人とも気を付けなさい! さっきもいったけどインスタントダンジョンに放り込まれることもあるから!」
「それ、お嬢様だけですよぉ。そんな才能ないですもんー」
「右に同じ」
二人とも呑気なものね……確かに精霊に会えない可能性の方が高いかもしれないけど、必ずそうなるとは限らないんだから。
「手ぶらで帰ってくると思いますのでぇ。お嬢様は本当に先に帰らなくていいんですかぁ?」
「いいのよ。魔法の練習もしたいしね。一時間なんてあっという間よ。」
「わかりましたぁ。それじゃ、いってきまーすぅ。」
こうして私は、二人を送り出した。大して期待してない風な二人だったけど……。
一時間後帰ってきたときには、まさか二人とも精霊をつれてくるなんて。このときの私は知るよしもなかった。
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