E線上のまだ見ぬ君へ

 俺は独り、一‐二教室にいる。時刻は午前五時過ぎ。黒い雲はすっかり白い雲に代わり、朝日が天海島を心地よく照らしている。みんなとの青春が詰まった制服を脱ぐのは躊躇われたので、着たままだ。少しにおうけど我慢。これはみんなが必死で生きた証だから。


 今、俺は紙飛行機を折っている。小学生の時、よく折ってはクラスメイトとどっちが遠くまで飛ばせるか競い合ったものだ。何故折ろうと思ったのかというと、何となく、未来へのメッセージを届けてくれる気がするから。


「よしっ! できたぞ!」


 完成した紙飛行機を見る。やや複雑なやつもあるけど、シンプルな折り方にした。


 それを持って、天海島校舎を後にする。初日に通った道はぬかるんでいて何度も足をとられた。制服を泥だらけにしながら、何とか岸壁に辿り着いた。


「すーはー」


 海から心地よい風が吹いてくる。今飛ばせばたちまち墜落だ。タイミングが重要。


 この風や香り、海鳥の鳴き声、波の音……全てが虚構だとしても。


 俺は今、確かに生きている。この先もそれは変わらない。


「……いっけええぇぇ!」


 手を離れた紙飛行機は、風に乗りぐんぐん高度を上げていく。未来へ向けてのフライトは様々な困難もあるだろうけど、何とか順調に進みそうだ。


 間もなくして。


 はるか遠くの船から、トランペットの音色みたいな警笛が聞こえた。


 E線上のまだ見ぬ君へ――。


 君は今、どんな夢をもっていますか?

 

                                      完

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