幕間

あとがき

 テロメラーゼという酵素がある。


 これはDNAの末端にあるテロメア配列を伸ばす酵素。テロメア配列とは細胞が体細胞分裂してDNAが複製される際、徐々に短くなっていく言わば『あそび』の配列の事だ。この配列がなくなると細胞は分裂できなくなり、生命活動を維持できなくなる。


 これが寿命だと考えられている。


 余談だが、二本鎖DNAが複製され、一方でRNAポリメラーゼによって転写され一本鎖RNAがつくられ、リボソームやtRNAなどによってタンパク質がつくられる一連の流れは『セントラルドグマ』と呼ばれている。これは後に逆転写酵素(一本鎖RNAから二本鎖DNAをつくる酵素)の発見により、徐々に使われなくなってしまった。


 話を戻す。


 テロメラーゼが働けばテロメア配列を伸ばせる。


 短くなったら伸ばせばいいと思うかもしれない。もしそれが可能ならば人類長年の夢である『不老不死』が叶う。しかし、ヒトではこの酵素の活性が弱く、伸ばす能力よりも減っていくスピードの方が圧倒的にはやいのだ。


 これはきっと、天空の主が人類の遺伝子を設計した時に与えた期限なのだ。その小さき体に無限の欲望を抱かないために。


 限りがある命を生きてほしいから。限りがある命を無駄にしてほしくないから。

 結論を言う。


 ヒトはいつか必ず死ぬ。

 私も、あなたも。

 その間に、何をするかが重要だ。


 人生を一本の線に例えると、ヒトによってその長さは違う。


 長く険しい道のりの果て、ついにはテロメア配列が失われてしまうかもしれない。


 絶望し、疲弊し、希望を見失うかもしれない。


 そんな瀕死のテロメアに夢を見せたい。


 きっかけを与えたい。起源でありたい。生きる活力を見出してほしい。


 私の夢はテロメアに夢を与えるテロメラーゼになること。


 この小説が誰かにとってのテロメラーゼにならんことを――ここに切望してやまない。

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