悲鳴について(佐々木、上巣、辻の証言)及び保健室の調査
「悲鳴がしたとき」と上巣さん。「東館二階の進路指導室にいたけど別に普通だったよ?」
「え、センパイ気づきませんでした?」
バレー部女性陣は全員部屋でダンスの動画を見ていた。俺が訪ねると快く迎え入れてくれた。早速、今朝の悲鳴について訊いてみる。
すると、東館二階にいた佐々木さんと上巣さんで意見が食い違った。
「あの悲鳴、なんか波打つみたいに聞こえませんでした?」
「波打つように?」
説明を求めると、佐々木さんは「えーと、ですね」と言って考え込む。髪はまだ若干濡れている。先輩たちに注目され若干照れくさそうにしながら言葉を続けた。
「聞こえた後、徐々にボリュームが下がっていく感じでした」
「ふーん。私には普通に聞こえたけどなあ」
納得がいかない表情の上巣さん。
ちなみに彼女がいたという進路指導室は東館二階の一番南側に位置している。一方佐々木さんは、階段に近い生徒会室を調べていたという。
その横でもっと納得していない表情をしているのは辻さんだ。
「ていうかさ」早速、それを吐露する彼女。「悲鳴なんて、ほんとにしたの?」
目が合ったので相槌を打つ。俺も当該悲鳴を聞いていない。
「瑠香さ、あの時どこにいたっけ?」
「悲鳴がしたタイミングがわからないから曖昧だけど、私は西館を中心に探していたよ。中央館もちょっと調べたけど、大半は西館二階にいたかな」
「西館……?」
今朝の悲鳴を聞いていない者は俺、森川さん、辻さん。この三人に共通すること。それを含めて事実を挙げておく。
事実⑧ 東館二階において悲鳴は徐々に弱くなるように聞こえた。
事実⑨ 悲鳴は西館には届かなかった。
悲鳴は西館には届かなかった。偶然なのかそれとも――。
ひとまず三人の部屋を後にすると、中央館一階保健室へ向かった。昨夜、東村が最後に目撃された場所。それは朝倉の証言によってのみ成り立っている。疑うつもりはないけど、それが事実なら立証したい。
「失礼しまーす」
鼻をつく消毒液のにおい。保健室はいつもお世話になっている。なにせ砂場に特攻するので擦り傷なんて日常茶飯事。
生徒がいないとはいえきれいに整理された机。棚などの薬類のラインナップを見る限り合宿中はケガし放題といったところ。こんな状況で部活なんてしないと思うが。
入って左側にベッドが三つ。まるで病室みたいだ。カーテンは壁際で出番を待っている。右と左のベッドはメイキングされたままなので使われていないだろう。
「ってことは……」
中央のベッド。他の二つ同様、畳まれてはいるがシーツには皺が走り、明らかに使用された形跡がある。枕も真ん中がへこんでいるので、使用されたことを裏付けている。
「東村……やっぱり昨夜ここで休んでいたんだな」
ということは、朝倉の証言は正しかったことになる。
昨夜、あいつは弁当を持ってきて東村はそれを平らげ、空箱をあいつが回収した。その後上巣さんが訪れるまでのわずかな間に東村は失踪した。これが一連の出来事だろうか。そしてそのあと何者かに殺された。
「ころされた……」
初めて口に出した物騒な言葉。
小説やテレビでしか聞いたことがない言葉。しかしもう認めるしかない。今まで事実から目を背けていた。認めたくないから。
彼は殺されたのだ。ということは彼を殺した犯人がいるはずなのだ。
「認めよう……それが探偵になった理由だろう?」
きっと平田先輩も――。そのあとの言葉は吞み込んだ。言わなくてもわかるから。
改めて保健室を見回す。失踪前、東村がいた場所。ここに何か手がかりが残されているのなら俺は見つけなくてはならない。
その後、くまなく室内を調べてみた。薬学の本の間に何か挟まってないか、机の引き出しに何か不自然なものはないか、五感を研ぎ澄まし調べてみた。
「これは……」
手が止まったのはごみ箱の中を調べた時だった。
いくつかのゴミに混じってとあるものが捨ててあった。
「なんでこれがここに? いや、まああり得るか。でも確か昨日の昼……」
俺はすぐに保健室を飛び出した。駆け足で事実を挙げておく。
事実⑩ 保健室に***、*****が捨ててあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます