産声をあげた探偵

 続いて東村を覆っていた毛布をとる。唇は真っ青で、プールの冷たさを物語っている。


 以下、調べた結果。


 ①死体発見場所は東館南のプール内。

 ②寝間着姿。右上腕部に痣のような跡あり。

 ③首に絞められた跡。絞殺の可能性が高い。


 彼は昨夜、保健室で朝倉に目撃されたのを最後に行方不明になっていた。保健室に何か手がかりがないだろうか。


「うーん。調べることはたくさんありそうだけど、何から手をつけるか」


 今朝の死体発見前後から遡って調べてみるか。俺は二人に手を合わせて部屋を後にした。


 時刻は十時四十五分。


 まず、第一発見者の話を聞こうと思う。発見場所はプール。今朝は分担して東村と平田先輩を探していた。その際、プールに一番近い一階を探していたのは国枝さんと森川さんだ。


「うん。どうぞ……」


 二人の寝室を訪ねると、国枝さんが出迎えてくれた。俺は一言断って中に入る。布団は既に綺麗に畳まれていた。机から椅子を持ってきて座る。


「ごめん……私、お手洗い行ってくる」


 そう言って森川さんは出て行ってしまった。話を聞きたいと思ったが、彼女は悲鳴(俺は聞いてないが)がした時、俺と一緒にいたのでこの件については国枝さんだけで十分だろうと思い引き止めなかった。


「さつき……行っちゃったけどいいの?」


「うん。悲鳴がした時、俺と一緒にいたから」


 何故一階を調べていた彼女が西館三階に来たのかは置いておく。それは後で彼女に訊いてみることとして、俺は今朝の悲鳴について尋ねてみた。


「今朝の悲鳴って、国枝さん?」


「……うん、そうだよ」


 彼女は首を縦に振った。


 一つ、事実が明らかになった。


    事実① 死体発見時、悲鳴を上げたのは国枝さん。


「その時のこと、詳しく教えてもらっていい?」


 彼女は静かに今朝の出来事を語りだす。


「一階を調べ終わって見当たらなかったからプールを見に行ったの。そうしたら……」言い淀む国枝さん。「東村クンと平田先輩が、浮いてて……それで、私びっくりして……」


「悲鳴をあげたの?」


 こくりと頷く国枝さん。余程ショックだったのか、それとも肌寒さのせいか体は小刻みに震えている。その後みんなが駆けつけて……という展開だったのは俺も知っている。ちなみに悲鳴を聞いていない俺、森川さん、辻さんは深川に言われて駆けつけたので悲鳴を聞いたメンバーに遅れる形で現場に来たことになる。ここで明らかになった事実を挙げてみる。


    事実② 悲鳴を上げた場所はプールサイド。

    事実③ 悲鳴直後に駆けつけた人物は伊野神、森川さん、辻さん以外の全員。

    事実④ 伊野神、森川、辻の三名は当該悲鳴を聞いていない。


 俺と森川さんは西館の三階で話していた。中央館と東館三階にいた深川、岡本は当該悲鳴を聞いてすぐに駆けつけている。二階を探していたバレー部たちも同じだろう。一人、辻さんを除いて。


「伊野神くんはこれが殺人事件だと思うの?」


「今はなんとも言えない。けれどもしそうなら、暴かなくちゃいけない。それが二人に対するせめてもの礼儀だと思うからさ」


「そっか。私も出来る限り協力するね」


「うん、ありがとう」


 本当は信じたくない。


 けれど事実は変わらない。


 それならそれを受け入れるしかない。唯一の救いはこれから先の未来はまだ確定していないということだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る