超えるべき壁

 時刻は十二時半。


 校舎に到着して俺と深川は適当に荷造りを済ました後、一‐一に向かった。


 校舎は全部で四つの棟で構成されている。校門入って正面に中央館、右手に東館、左手に西館、さらに西館から校門側に渡り廊下を通った先に体育館。一‐一は東館一階にある。ちなみに隣の一‐二が俺と深川の就寝部屋だ。


 一‐一で昼食をとる予定になっていて、教室に入ると既にバレー部の面々は席について団欒していた。


 俺と深川は空いている席に座る。しばらくして他の部員たちが教室に入ってきた。


「あれ、平田先輩シャツ変えました?」


「おうおうさすが愛弟子、気づくのが早いな! 感心感心」と答える先輩の黄色のシャツ。胸で躍る文字は『I HAVE A DREAM』。食いついてくれと言わんばかりだ。この人はどんな夢をもっているのか。聞くのは止めておく。長くなりそうだから。


「平田先輩」と森川マネ。「脱いだシャツは篭に入れといて下さいね」


「うん……わかった。ありがとうな、さ……森川さん」


「…………」


 森川マネは軽く会釈した。目線は逸らしたまま。


「よーし! 全員揃ってるかー」


 張り詰めた空気を堂場顧問の図太い声が切り裂いた。横には寺坂顧問もいる。俺たちは着席し、二人の顧問に注目する。その手にはお弁当が!


 この後十三時から体育館で開会式。昼食中、去年のダンス映像を流すとのこと。用意されたモニターから映像が流れだす。


 去年のホムフェス。バスケ部選抜メンバーによるダンス。


 優しいオペラのセリフから始まり、妖艶な雰囲気を漂わせた圧巻のダンスだった。


 時刻は十二時五十分。急いで弁当をかきこむ。


 バスケ部の映像は終わり、今年のダンスコンセプト映像が流れる。


 印象的なピアノの旋律が心地良い。この曲はまさか――。


「おおぉーーーーーーーーーーーーー!!」


 そこで流れた曲。


 合唱コンで毎年取り合いになる大人気合唱曲だ。こんな偉大で神秘的な曲をバックにあろうことかダンスとは、ハードルが高すぎる。いつの間にか大合唱が始まる。

「お前たち、歌ってないでダンス見ろよ!」と堂場顧問。その声は無情にも俺たちの臨時合唱によってかき消される。

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