報告書71「年休届け、お休みの予定は計画的について」
激しい戦闘によりあちこちから火花を散らすサーバー室を駆け巡り、エクスカベーターの制御装置を探し回る俺達3人。ようやくフロアの隅に特別室なる扉を発見したので、キ影で斬り裂き中に押し入る。
そして見つけたエクスカベーター制御装置。壁に掛かっている大型モニターには、全国の駅ダンジョンに設置されているエクスカベーターが起動中なのが示され、隣に置かれているテレビからは、各地の隔離地域に展開している自衛軍に特別チームはもはや壊滅寸前という速報が幾たびも流れていた。
「もう時間が無いわ!どう!?やれそうイクノ!」
「今見る!少し待つのじゃ!……う〜む……」
「難しそうなんですか!?」
「うむ……複数の言語……何重もの防壁……張り巡らされたトラップの数々……さすがはBH社じゃ、ここまで悪どいプログラムは他では見ないの……じゃが」
「じゃが……?」
「わしにかかれば楽勝じゃ。独自性の無い、BH社の他のプログラムと似たり寄ったり。一から作るのをサボったようじゃの」
大型モニターに表示された全国のエクスカベーターが次々と停止を示す赤表示に。それと同時にリソーサーの大発生は止んだのか、テレビのニュースで大発生に恐慌するばかりだったリポーターも、突然の静寂に呆気に取られてやがる!どうやら本当にやったようだ!
「やった……やったんだ!俺達はついにやったんだ!」
「イクノ本当に偉い!んもう大好き!」
「あっ、こっこらやめんか」
イクノさんに思い切り抱き付き、その顔にキス責めをするチトセ。それを受けイクノさんは口では迷惑そうな事を言っているが、顔は満更でもなさそうだ。
「おっと、喜んでばかりもいられないようじゃ。資源庁の即応部隊が来たようじゃが、どうしたもんかの?」
「どうするって、そりゃ……」
「何はともあれここを爆破ね。そんでもって後は脱出手段を考える」
まず爆破、とりあえず爆破、何はともあれ爆破という相変わらずなチトセの爆弾女っぷりにガクッと来たが、ここはそれが一番のようだ。この制御装置を二度と使わせる訳にはいかないしな!
「どうせもう無人なビルだ、バーンとド派手にぶっ壊そうぜ!」
「そうこなくっちゃ!」
そしてチトセお得意の爆轟弾がクラフトされタイマーをセット。屋上のヘリポートからトランスポーターを奪取に走った。
俺達の乗ったトランスポーターが飛び立った直後に爆轟弾が爆発、BH社本社ビル50階が吹き飛び、屋上のヘリポートも壊滅、突然の出来事に右往左往している資源庁即応部隊のトランスポーター。その群れの間を、飛行記録を改竄しBH社の重役が乗る専用機に偽装した俺達が堂々と飛び去るという華麗なる脱出とあいなった。
そのまま自衛軍特別チームが投入された始まりの地、東京駅ダンジョン隔離地域前へとササヤさんを迎えに行ったが……
「リソーサーの大発生によって特別チームは半壊したものの中枢を発見……だが、そこで大振動が起き、生きて戻ってきた者はほんの一部だそうだ……」
隔壁前の臨時作戦指揮所で自衛軍兵士に聞いた答えはあまりにも絶望的だった。
「な……!じゃ、じゃあその戻ってきたメンバーの中にササヤさんは……MM社所属のスペキュレイターはいませんでしたか!?」
「そのような名前の者はいなかったが……詳しくは向こうのテントで寝ている者達に聞いてみてくれ。例の戻ってきた生還者達だ」
「行きましょう!何か何でも見つけ出すのよ!ササヤさんを!」
「もちろんだ!ここまで来て……ここまで来て、会えないなんてあってたまるか!」
猛然と負傷者用テントに駆け込み、端からササヤさんの行方を聞いて回る。だが、誰も行方は知らないという者ばかりだった。
「そんな……嘘だろ……」
「こんな……こんな事って……」
泣きそうになるチトセの肩を抱く。馬鹿野郎……泣きたいのは俺も同じだよ……そこへ聞こえてきたのはイクノさんの呼ぶ声だった。
「こっちじゃ2人とも!この方がササヤさんを見たと言っておる!」
「本当ですかイクノさん!ほら、行くぞチトセ!」
「えっ、えぇ!」
まさに転がりながらイクノさんの呼ぶ方に走り、ベットから身を起こしている特殊部隊隊員を取り囲んだ。
「あんた達は、あの聖霊使いのお仲間かね?」
「あっあぁ!我が社の大天才、精霊使いことササヤさんの同僚だ!」
「そうか……俺が今生きているのも彼女の能力お陰だからな、まさに命の恩人ってやつだよ……」
その隊員の話によると、リソーサーの大発生により部隊は半壊し、全滅も時間の問題と思われた時、ササヤさんの作り出す不思議なコードにより、死んだはずの特別チームのメンバーが死の淵から蘇り、共に戦ってくれたのだという。
「あれはまさに奇跡だった……死んだ戦友らが……立って再び俺の背中を守ってくれたんだから……!」
そう話す隊員さんの目からは大粒の涙が。死者を生き返らせる不思議なコード……池袋駅ダンジョンで見せたあれか……
「それで!その後ササヤさんはどうしたのよ!」
「くっ、苦しい!」
「こ、これ落ち着くのじゃチトセ!」
隊員の首を締める勢いで迫るチトセをなんとか引き離す。負傷者に止めをさす気か全く。
「ふぅ。そしてさらに先に進んだ俺達はついに見つけたんだ、中枢と呼ばれる場所……存在を。あれはまさに光そのものだった。だが、攻撃を仕掛けるには損害が大きすぎるとして、隊長判断で応援を待つ事になったんだ。なのに……」
「なのに……?」
「メンバーの内、聖霊使いを含めた特に強力な力を持った、変異人種と呼ばれる4人は俺達が止めるのも聞かず、その光の中に入っていってしまったんだ。呼び掛けが聞こえるって言ってな……その直後に凄まじい揺れがあって、落盤で死にそうになりながら脱出してきたので、ここから先は分からん……穴も塞がっちまったからな……」
「そうか……」
3人で隊員にお礼を言い、俺達は隔離地域を後にした。取りに戻ったコーギー号で帰る途中の車内、荷台に座るチトセはどんよりと暗かった。当然だ、俺達が戦ったのは第一にササヤさんに再び会うためだったのだから……
「元気出せよチトセ……まだササヤさんは死んだと決まった訳じゃ……」
「分かってるわよ……そんなの……」
そうチトセに言いつつも、俺の涙も留まるところを知らなかった。ササヤさんめ……帰ってきたら先輩らしく活躍を語って聞かせようと思ってたのに、なんだよ……特別チームを救う活躍って……帰ってきたらもう後輩なんて呼べないな……
溢れる涙を拭いた時、携帯端末が何かを受信したようだ。こんな時になんだよ……って、これは!?
「おっ、おいチトセ!イクノさん!この受信を見てくれ!」
「何じゃこんな時に慌てて……って、何じゃこれは!?」
「何よもう……これ送信者ササヤさんになってるじゃない!」
震える手で受信情報を開くと、そこにはこんなメッセージが……
「先輩へ。申し訳ありませんが今日はお休みを下さい。お休みは少し長くなるかもしれませんが、用事が済んだら必ず出勤します。シャチョーとイクノさんへもよろしくお伝え下さい。かしこ」
「ぶっ……なんだよこれ!突発休しやがって、理由も書いてねえ!」
「本当に!休むならまず私に連絡してくれないと!」
「全く、これは説教が必要なようじゃの!」
俺達は笑った。大いに笑った。涙を流し、声を上げて笑った。何故って、何よりも嬉しかったからだ。
ブレードステーション @Karesawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます