報告書66「因縁の戦い、今の自分と昔の相手について」
本社ビル39階、一般職員でも来れる階としては最も高い場所。この階より上の特別階に行くには、警備部門の詰め所にある専用カードキーを手に入れなくてはならない。エントランスでかなりの数を倒したとはいえ、まだ人員は残っているだろうから、簡単にはいかないだろう。
「それにしても、この会社の警備部門って随分と重装備なのね。機動鎧甲に高出力武器なんて、まるで山師じゃない。まっ、私達の敵では無かったけど」
<<この時代、BH社ほどの大企業は特例で企業犯罪に関して独自の警察機構を持つ事が認められておるからの。それを盾に、スペキュレイター以外にも諸々の争いのために独自の戦力を持つのは珍しく無いのじゃ>>
この時代とこの国はどうかしてるぜ。企業に武装はおろか私設軍隊の所有まで認めてるんだからな。と、この音は……
「……しっ、何か聞こえる」
チトセを手で制し、通路の角でしゃがみ込む。部屋の奥から聞こえてくる重々しい稼働音。それも一つじゃない、複数だ。スキャナーに映る熱源反応は、1つ、2つ……4体か。2体づつに分かれて、挟み込むつもりか。
「どうやら正式採用されたようだな……"ナンバンドウ"」
「因縁の相手再びって訳ね」
千葉駅ダンジョン地下エリアで散々俺とチトセを苦しめた重装機動鎧甲が、今また俺達の前に立ち塞がる。あいつには本当に苦汁を嘗めさせられたもんだ。その後の顛末も含めてな!
「いけるかチトセ」
「あったりまえよ!あの時のようには行かないってのを、見せてやりましょう!」
「やってやろうぜ!」
チトセの銃撃開始を合図に飛び出す。俺を見るや、相変わらずの重ブラスター砲の猛射による念のこもった挨拶をしてきたが、ここは室内、壁を蹴り天井を飛び地を馳せまんまと間合いに入り込む。
「気爆噴射片手突きーー"鬼雨"!」
そしてそこからの必殺の突き一閃、今回は肩部分の装甲と装甲の隙間に見事命中、奴の右半身を持っていた武器ごと吹き飛ばした。
と、そこへもう一体が大口径砲をこちらに向けてきやがった。こんな室内でぶっ放すつもりかよ!咄嗟に抜いた小太刀ヒトマルをその砲口に投げ刺すと、上手いこと発射と被ったらしく大爆発。よろけた所に合わせて右手に持っていた重ブラスター砲も叩き斬り、無力化してやった。
「くそっ!なんで奴だ!だがな、BH社に盾つくとは、命は無いぞ!」
倒れながらもそんな事を喚くナンバンドウの中の人。そんな言葉もどこ吹く風、ヒトマルを拾い上げる。さすがは俺の愛刀、全くの損傷無しだ。
「聞いているのか!貴様など我が社の総力を上げて潰してやるからな!」
見ると上体を起こしつつあるので、脚部の装甲の隙間に刃を入れて圧し斬ってやった。誘爆が及んだのか、中からは苦悶の声が。まぁ、死にはしないだろう。
「こちらは終わったぞ。そっちはどうだ?」
「こっちもよ。上に飛び乗って撃ちまくってやったわ。正面装甲は厚くても、案外隙だらけのようね」
それから詰め所までは、特に何の妨害も無かった。もしこの4体が最後の切り札だったのなら、何とも進歩しない会社だな。
そして辿り着いた警備部門詰め所。入り口の扉を斬り飛ばし、中にいた生身の警備員を追い払い、金庫の電子ロックをイクノさんに開けてもらい、専用カードキーを手に入れた。
「それで、あとは専用エレベーターとやらに乗るだけなんだけど、その特別階ってのはどんな所なの」
「さぁ、分からん。なんせ行った事無いからな」
「はぁ!?あんた本社の構造とセキュリティなら任せとけって言ったじゃない!まったく!イクノ、そっちで何か分かる事は?」
<<うーむ……どうやら40階より上は管理が別らしく、こちらからシステムへの侵入はできそうもないの……>>
「つまりは出たとこ勝負ってわけね。いいわ、向こうの戦力も出きったようだし、先に進みましょ」
そして見つけた専用エレベーターに乗り込み、先程手に入れた専用カードキーを差し込む。さて、ここから先は俺にとっても未知の世界。鬼が出るか蛇が出るか……もっと悪いもんが出てきたりしてな。
チーンと小気味の良い音を鳴らして開かれる扉。その先は、まさかの何も無いただただだだっ広いだけの空間だった。
「何?ここ」
「どうやら今度は40階で止まってしまったようだ。イクノさん、そちらで何か分かりますか?」
<<……ガガー……ピー……ガガ……>>
「特別階は外部との交信、アクセスは一切不可の完全遮断空間、故に助けを呼ぶ事も逃げる事もできない」
この声は……この抑揚の無い口調は……!忘れもしない、かつては親愛なる、今は憎き存在……!それが三度俺の前に姿を現すとはな!
「ヒシカリ……!特別階に出入りするご身分とは、随分偉くなったじゃないか」
「貴様みたいな死に損ないとは違うんでな。もっとも、貴様を斬ってさらに上に行くんだが」
キ影をゆっくりと抜き、構える。どうやら、真の切り札のお出ましのようだ。
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