報告書67「一騎討ち、勝敗を分けるものについて」
40階で止まってしまったエレベーター。開かれた扉の先、ただただ広いだけの空間にいたのは、かつての親友、今の仇敵、ヒシカリだった。装着している機動鎧甲は以前と同じカタハダヌギだが、手に持つ得物は池袋駅ダンジョンの時は打刀二刀流であったのに、今や穂先の両側に半月形の突起の付いた柄の長さ4メートルはある巨大な月形十文字槍、それも両手に一本づつ持っての二刀流ならぬ大槍二刀流という全くもって奇異で、ふざけた出立に変わっていた。
「あいつ……池袋駅ダンジョンにいた……」
「ここは俺がやる。チトセは先に行ってくれ」
「はぁ!?何言ってるのよ、ここは2人でーー」
チトセの言葉を遮り、話を重ねる。
「今は一刻も争う事態、先に行ってくれ。それに……」
一瞬目を瞑る。思い起こされるこれまでの怒り、恨み、苦しみ……そして決意。
「俺はあいつと決着を付けなくてはならないんでね」
「……分かったわよ。絶対後から来なさいよね」
ウィンク一つ残し階段のある部屋へと駆けていく、その背中を見送る。頼んだぞチトセ。
「さて女も逃したし準備はいいか?ここは試作装備の試験場、思う存分楽しめると言うわけだ」
「ふん……下らないお話しをするような時間も言葉も持ち合わせて無いんでね。とっとと来やがれ社畜野郎!」
俺達をここで足止めするのが目的のはずなのに、先へ行くチトセを止めようともしない。楽しむと口では言っているが、俺を倒すのに時間は掛からない、それから追えば充分とでも思っているのか?本当にふざけた野郎だぜ。
キ影を正眼に構え、ジリジリと間合いを測る。それに合わせてヒシカリも槍の刃元近くを持ち、構える。
先に仕掛けたのは奴の方だった。機動鎧甲の噴射推進機関を利用して大きく跳躍、右手の槍を振りかぶりながら伸ばし、こちら目掛けて叩きつけてきたのだ。横ステップで避けるものの、穂先が地面にめり込む衝撃が肌に伝わってくる。が、初手から誤ったな!
一気に駆け出し間合いを詰める。リーチの長い槍を、それも大振りとは懐に入って下さいと言わんばかりだからな!刀を振り上げ、渾身の一撃を繰り出す態勢に入る。
「バカめ……!」
奴の二の手は思いもよらないものだった。左手で刃元近くを持っていた槍を、態勢そのまま凄まじい勢いで突き出してきたのだから。
「がっ!?」
咄嗟に刀を下げ穂先を受け止めて防御をするが、その威力凄まじく、槍の柄分はもとより、衝撃でさらに吹き飛ばされてしまった。完全に体勢を崩され、膝をつきながら何とか止まる。くそっ、何だこの威力は!?奴は槍を突き出す動作すらしていないんだぞ!
「どうだ、この試作装備"ゲキクイソウ"の威力は?この長槍は俺の手の中で射出から戻しまで自由自在、隙は無いって訳だ」
「ふん……爪楊枝よりはマシなようだな」
しかしどうする?見たところ、槍の長さからして突き出しの射程距離は最低でも4m、大きく広がった穂先は攻撃範囲も広く、刃先にはご丁寧にプラズマが流されており威力も抜群、直撃を食らえば機動鎧甲と言えども容易に貫通するだろう。それを両手から連続で繰り出されようものなら、近づく事もできやしないな……くそっ、厄介なもんを持ち出してきやがった。
「ほらほらどうした!考えてる暇なんてないぞ!」
加速装置で距離を詰めてきたかと思いきや、またもや凄まじい左手槍による突き出し。なんとか再び横ステップで避けるものの、腕元を掠る。続けて身体を半捻りつつの右手槍による薙ぎ払い。
ただの防御じゃ崩される……咄嗟に右手に持った刀の背に左手を添え、防御と同時にロケット噴射を起動する。が……カタハダヌギの強化された右手に加え遠心力も乗った大槍の一撃は押し戻し弾く事もできず、衝撃を相殺するのがやっとだった。
「まだ終わりじゃないぞ!」
おまけにいつの間にか射出位置に戻っていた左手槍に始まる連続突き出しを食らい、さすがに耐えきれなくなり加速装置全開で後ろに数回飛んで距離を取る。くそっ、なんて威力に速さだ、間合いに入る隙もねぇ!
「最初の威勢はどうした?防戦一方じゃないか?」
「ふぅ……ふぅ……まだ初回の表だぜ……!」
こんなバカみたいな威力の突きを受け続けるわけにもいかないし、一体どうすれば……?精神揺さぶり作戦は池袋駅ダンジョンで逆効果だった以上、正面から攻略するしかないが……となれば、まずは敵を知り、己を知るのが先決だな。イクノさん、俺はあなたの言葉、忘れてませんよ。
「八龍開眼!」
身に纏う機動鎧甲ハチリュウに備わった高性能空間センサーが起動、ヒシカリを走査した情報が次々にスキャナーに流れてくる。ノーモションで繰り出されるあの槍の突きを先読みするのは難しいが、何か分かる事はあるはずだ。何か……ん……?あの手元の電流の流れは……?
「本当に悠長な奴だなお前は!」
「ぐっ!」
加速装置による前ステップに合わせる事でさらに速度の上がった突き出し、そこからのなぎ払い、跳躍からの叩きつけ……次々と繰り出される即死級な威力を持った連続技。受けるのと避けるのに精一杯で、防御に使うロケット噴射でバッテリーが容赦なく削り取られていく。こちとら必殺技の一つも使っていないのに、バッテリー残量はジリ貧だ。このままじゃな……!
その時、奴の手元の構造……即ち槍を射出する仕掛けの分析結果がようやくスキャナーに表示された。
これは……!
ふっ、己の腕っ節でなく最新兵器に頼った事、後悔させてやるぜ!
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