報告書65「本社襲撃、ついに来るとこまで来た俺達について」

 BH社本社ビル前。隔離地域近くのエキチカとは違い、周囲には廃墟ビルなんて一つも無い大都会のど真ん中にそれはある。地上50階地下3階の偉容を誇り、屋上にはトランスポート発着場、地下には駐車場を備えるまさに要塞だ。


「コード9発令中で周辺には人っ子1人いやしないのは不幸中の幸いね」


「あぁ……行くか」


「えぇ。それじゃイクノは目立たない場所にコーギー号を移動させて、そこからオペレーターお願い。いい?さっきみたいな危険な真似は、絶対に無しよ」


「分かっておるわい。お主らも気をつけるのじゃぞ」


 走り出すコーギー号を見送り、チトセと2人並んで入り口の自動ドアをくぐる。いつもなら人で溢れ返っているエントランスも、警備員が4人以外は誰もいなく、ガラんとしている。設置されている自動改札機の存在も相まって、まるで駅ダンジョンの中のようだ。


 と、俺達を見るや早速警備員が電磁バトンを手にお出迎えに来た。こちらは機動鎧甲を装着して腰には刀と銃をぶら下げているんだ、当然か。


「おっとお前ら、ここをどこだと思ってやがる。三流山師はとっとと巣に帰りな」


「巣?だからここへ"帰ってきた"んだ。リソーサー以上に醜悪なのが巣食うここをぶっ壊しにな」


「なんだと!?こい……」


 電磁バトンを振り上げるよりも早くキ影を一閃、強烈な一打を袈裟気味に入れて昏倒させる。機動鎧甲も装着していない生身の身体じゃ、峰打ちでもこうなるのは当然だ。


 ついで奥の1人が咄嗟にブラスターを構えるのを見てとった俺は、走り込み目の前で体勢を崩してしゃがみ込む事で発砲を回避、そのまま足払いをして倒した所にこれまた強烈な一打を与えて気絶させた。


「残りは……!」


 まだ2人いたはずと辺りを見回すと、そこには既に倒れている警備員が。


「スタンモードなんて久しぶりに使ったけど、生身相手なら一発で気絶させちゃうのね、これ」


「ちょっと待て、それじゃ今まで実弾モードのまま俺に向けて……」


「さって、次は本気モードで来るはずよ。準備して!」


 流されてしまった。よく生きて来られたな俺……


 そこへエレベーターの箱が到着した事を示す音が。開いた扉の中には獣達。


「来たぞチトセ!用意は……って、それはまさっ」


「いっくわよー!」


 目を向けた時には、既にクニクズシの弾頭が発射された後だった。真っ直ぐ真一文字に飛翔したそれはエレベーターの一つに直撃、巻き上がる絶叫に悲鳴を残し、そのまま真下に落下していく箱。まさに一網打尽……チトセ、恐るべし。


「……恐ろしい奴だよ。お前は」


「何悠長な事言ってんのよ!次、来てるわよ!」


 吹き飛ばしたエレベーターのとは別のから次々と降りてくる獣達……機動鎧甲にスキャナー、そして手には各々の武器を持った警備部門の連中が。それを見てチトセと顔を見合わせうなずきあう。もう俺たちの間に言葉はいらない。


 チトセが投げた発煙手榴弾から勢いよく吹き出した白煙に紛れ、警備員を次々と倒していく。赤外線探知も使えず、視界0でこちらの姿を追う事もできない状況では近接武器が有利って訳だ。おまけにこっちは1人、同士討ちの心配も無いから、とにかく出会い頭を手当たり次第斬ればいい。


 <<3時に1人、10時に1人飛び出したぞ!>>


「オーケー、任せときなさい!」


 そして白煙から抜け出ようとしようものなら、外側で待ち構えていたチトセが、付近の監視カメラをジャックしたイクノさんの指示に従って正確な射撃で出迎えるので完全に逃げ場は無いって訳だ。


 その調子で戦い続けた結果、白煙が完全に晴れる頃にはもうその場で立っているのは俺とチトセだけだった。床一面には倒された警備員の面々。思ってたより数は多かったようだな。


「ふぅ、それじゃ行くか」


「えぇ。とその前に、それでイクノ、制御装置の正確な位置は分かったのかしら?」


 <<うむ。電波の通りを良くするため当然と言えば当然じゃが、最上階に送信機とセットで据え付けられているようじゃ。探し出してケーブルを繋いでくれれば、後はこちらで停止するでの。頼んだぞ!>>


「りょーかい。階段……じゃ日が暮れちゃうか」


「誰かさんに壊されていないエレベーター探すとするか」


「何よ!不可抗力だったでしょ!」


 軽口を叩き合い、エレベーターに乗り込む。このまますんなり行くとも思えないが、何にしてもここまで来た以上、後戻りは出来ない。動き出すエレベーター……密室に2人っきりの俺たち。


「……なぁチトセ。最後になるかもしれないから、言っておきたい事があるんだ」


「そういうノリはやめて欲しいわね。縁起でもない」


「前から言おう言おうと心に決めてたんだが、なかなか機会が無くてな……」


「何よ……」


 と、軽い衝撃と共に急に止まると同時に箱の扉が開いた。制御版を見るに、どうやら39階で止まってしまったようだ。


「あら、ここが終点?」


「だな。本社ビルの40階より上は役員他一部の社員しか入れない特別階、専用エレベーターと専用のカードキーを探さないと」


「なるほど、その辺で役員をとっ捕まえて吐き出させればいいのね」


「待て待て!そんな事しなくても、警備部門の詰め所がこの階にあるからそこを漁ればあるって」


 意気揚々と走り出そうとするチトセの肩を掴む。さて、警備部門の連中程度ならなんとかなるだろうが、奴らも切り札の一枚や二枚あって然るべきか。

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