報告書58「コード9、戦場となったエキチカについて」
コーギー号に乗り込み、我らがMM社に割り振られている所定の場所……すなわち新宿駅ダンジョン隔離地域に向かうが、目的地に近づくにつれ地上を避難民にその誘導をする自衛軍兵士にそして装甲兵員輸送車が、上空はこれまた輸送ヘリやら攻撃ヘリが埋めつくさんばかりにひしめいていた。
「随分とこの稼業をやってきたけど、こんな光景は初めてよ……よっぽどの事が起きてるようね」
「あぁ、そのようだな……てっ、危ない!」
何かが勢いよくこちらに飛んでくるのが見え、慌てて伏せた次の瞬間、重量物がぶつかる音に車体全体を揺るがす大きな衝撃。何事かと見てみると、ボンネットの上にはリソーサーが。おいおい、ここはまだ隔壁の外側だぞ一体どうなってやがる……
「ちょっとちょっと一体何なのよ!コーギー号の減価償却まだ終わってないのよ!」
「どうやら破壊されたリソーサーがここまで飛ばされてきたようじゃが、隔壁を越えつつあるというのは本当のようじゃの」
「こいつは急いだ方が良さそうだな……」
それからなんとか隔壁前に到着したが、まだ降車もする前だというのに自衛軍兵士が駆けつけて来て窓をガンガン叩いてくるくらいなのでよっぽどの人出不足のようだ。
「はいはい今出るわよ」
「すぐに中に入ってくれ!奴らはもうそこまで来ているぞ!」
「他の同業者は来てないのか?随分と少ないようだが……」
「分からん!とにかく全く手が足りてない状況だ!このままだとここも突破されるのは時間の問題だぞ!」
そう言い残すと、さっさと他に行ってしまった兵士さん。よっぽど慌てているらしい。
「仕方ない行くわよ。イクノはいつものようにここで残って情報収集をお願いね。ここの事はもちろん、特別チームの方も……ね」
「了解じゃ」
「それじゃあ出発!」
「おう!」
ヒトマルにキ影を腰に差し、意気揚々と隔壁入り口前に向かった。特別チーム任せじゃない、自分達も作戦に参加している気持ちになってまさに心身ともに高揚した気分だった。目の前に広がる、簡易テントに並べられたベットの上でうめく負傷した自衛軍兵士と、それを診る衛生兵やら軍医の絶叫が飛び交う光景を見るまでは。
「山師だな!すぐに中に入って連隊と合流してくれ!」
「ちょっとちょっと、何か作戦の一つでも無いの!?」
「作戦だと!?詳しくは中で大佐から聞いてくれ!ほら早く行った行った!」
隔壁前の自衛軍兵士に蹴り出されるかのように半ば無理やりに隔離地域内に放り込まれる俺達2人。そこで見た光景は、まさに鬼哭啾々、地獄だった。押し寄せてくる種々も色々な大量のリソーサー、必死な形相でそれと戦う自衛軍兵士、そこかしこに転がる死体に残骸。おいおい、全くの冗談抜きかよ。キ影を抜いて構えると、積まれた土嚢の間から出てきた話に聞いた大佐らしき士官から怒声が飛んできた。
「そこの山師共!すぐにバスタ地区に向かえ!」
「ちょっとねぇ!あっち行けこっち行けって私達お使いに来た訳じゃないのよ!」
「なんだとぉ……この山師風情が!」
「何か目的があるのなら教えてくれてもいいだろ!」
こんな生き死にに直面した戦場なのだから致し方無いとはいえ、興奮しきってすっかり喧嘩腰だなこの大佐。
「チッ……!ここから3キロ先のバスタ地区で車輌部隊が立ち往生している!今救援部隊が向かっているところだが、お前らもすぐに行って合流しろ!」
「はじめっからそう言いなさいよ全く……これだから脳筋は」
「何か言ったか!?」
「いいえ!それではMM社所属スペキュレイター直ちに現場に向かいます!ほらっ行くぞチトセ」
「べーだ!」
イクノさんに頼んでマップ上の目的地にマーキングしてもらい、すっかりむくれてしまったチトセを引っ張って向かったが、一区画歩くどころか10m、いや一歩進むたびにリソーサーに襲われた。一体何なんだ、まだ隔離壁からそんなに離れてないはずだぞ。
「そっちにサラマンダー三体、行ったわよ!」
「任せろ!ってあちちち!?」
トカゲみたいな形をしたこのリソーサー、俺を見るなり火を吹いてきやがった。なんとか火を回り込もうと右に走ったり左に跳んだりしたが、向こうは三体ということもあってなかなか吹き出される火を突破できねぇ。
「こったは片付いたけどそっちはどう!?もう新手が来てるわよ!」
「ももももう少しだ!そっちを見張ってろ!」
くっそう!こうなりゃヤケだ!勢いよく走りこんだ俺は火を前にして思いっきり上に跳び、そこからの加速装置噴射での二段ジャンプで火を越えた!落下と同時にサラマンダーを踏みつけ、キ影をその頭に突き刺しいっちょ上がり。
「ふんっ、どうだ!さすがに真上には火は展開できまい!……って、あれ?」
そこにはこちらに向けてゆっくりと口を開く二体のサラマンダーが。そうだまだいたんだった……咄嗟にキ影を構えて防御姿勢を取るが、刀一本で火をどう防げばいいのか。そんな考えが頭を巡ったが、答えは"できない"だ。
だが、成り行きは俺が考えるようには転ばなかった。今回は良い意味で、だ。その二体のサラマンダーの大きく開けた口にブラスターが炸裂、火が逆流したらしく大きく悶え始めたのだから。
「もらったぁ!」
すかさず駆け込み、二体の首を続け様に斬り飛ばす。手間かけさせやがって。
「ふぅ……なんとかなったな」
「ちょっと、何が"ふぅ"よ。先に何か言う事あるんじゃない?」
「あーはいはい、ありがとなチトセ。お陰で助かったぜ」
「素直でよろしい。まっ、今回のもツケにしておいてあげるわ」
複数いたとはいえ、今更になってこんなたかが一般動物種のリソーサーに手こずるなんて……的確な支援があるのと無いのとじゃこうも違うとは、ササヤさんの偉大さが身に染みるぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます