報告書57「攻勢作戦、安寧の崩壊は突然の爆発と共について」
そしてそれからそんなに間を置かずのある日の午後、ついに国防省主導の対リソーサー大規模攻勢作戦が公式発表された。なんでも、リソーサーを生み出す"中枢"が東京駅ダンジョン隔離地域内の地下深くに発見されたので、それを官民合同の特別チームで破壊するのが、この作戦の骨子との事だ。
俺達がそれを知ったのは、事務所のテレビに流れた緊急記者会見でだった。お偉いさんが台本そのままに読み上げる言葉を、固唾を飲んで聞く俺達3人。
「ついに来たか……」
「ええ……ササヤさん無事だと良いんだけど」
「しかし……リソーサーの中枢ってなんだ?聞いた事無いんだが」
俺の発言を聞き、ガクッとするチトセ。
「あんたそんな事も知らないで、自分はスペキュレイターだなんて名乗ってたの?この業界に身を置いてもう随分経つでしょ」
「むぐっ、悪かったな。どーせ俺は誰かさんがてんで出来ない炊事洗濯以外何にも知らないですよーだ」
むむむとチトセと2人して睨み合っている俺達を見て、イクノさんがやれやれという感じで話に入ってきた。
「多種多様なリソーサーが様々な地域に出没してるのに、その進化があまりにも効率的で無駄が無い事から、それらを統制している存在があるんじゃないかと前々から噂があっての。その存在を中枢と呼んでおるのじゃ。言うなればリソーサーの神じゃな」
「リソーサーの神……」
「まあよくあるその業界特有の都市伝説なんじゃがな、まさか実在するとはの……」
「そんでもって、神たる存在のその中枢を破壊すればリソーサーの繁殖も止んでこの厄災もお終い、まさに現代の神話、伝説の完成ね。我が社から神を討ち倒す英雄の1人が出たのはいいけど、リソーサーいなくなったら我が社の経営方針考えないといけないわねー」
なんて言いながら、頭の後ろ手を組んで椅子にふんぞりかえるチトセ。ササヤさんの安否は当然心配しているが、この作戦の成否については全く心配していないという感じだ。とは言えそれは俺も同感。自衛軍と軍事資源回収企業から選り抜いた一流どころで構成された特別チームが事に当たるんだ、失敗する訳がない。いくら相手がリソーサーの……機械の神と言えどもな。
そしてリソーサーへの大規模攻勢作戦……"ブレード・ステーション作戦"……略してブレステ作戦の開始日となって。お偉いさんが直々に命名したという、なんとも微妙な名前を冠されたこの作戦は、しかしながら開始当初の経過は順調であった。俺達が作戦の経過を知るには、あらゆる情報伝達媒体に次々と流れる速報しか無く、詳細までは知りようも無いが、それでもリソーサーによる妨害も大した事なく、徐々に奥へと進んでいく特別チームの動向は把握できた。
「仕方ないとは言え、リソーサーが駆逐されていくのをここでじっと待つしかないというのは、なんというかもどかしいもんだな」
「できるなら、自らこの手でリソーサーを殲滅したかった?」
「まあ……な。そのためにスペキュレイターになったようなもんだし。とは言え、今はそんな事よりもササヤさんの無事のが大事だかな」
「この調子なら余裕でしょ。ササヤさんもあんたも心配症ね」
「それもそうか。それじゃ、ササヤさんが戻ったら作戦成功を祝ってまた盛大にパーティーでもするか」
「良いわね!前回は突然だったからお酒も料理も足りなかったけど、今回はしっかり準備して飲み明かしましょ」
「あれで足りなかったってのかよ……」
テレビから流れる耳あたりの良い情報にすっかり安心した俺達は、作戦の成功を全く疑いもしなかった。あの衝撃が走るまでは……
それは突然だった。駅ダンジョン方面から爆発音が聞こえてきたのだから、俺もチトセも、いや誰だって驚いた。そして端末から流れてきた、これまた耳をつんざくかのような大音量のメッセージ。
<<コード9!コード9!緊急事態発生!全登録スペキュレイターは完全装備にて所定の駅ダンジョンに集合せよ!繰り返す!コード9!全登録スペキュレイターは所定の駅ダンジョンに直ちに集合せよ!>>
「なんだなんだ今の爆発音は、一体何が起きた!?コード9ってなんだよ!」
「リソーサー絡みの災害震度よ!コード9は最高レベルで、全登録スペキュレイターを強制召集するって内容よ!発令された事なんて、今まで一度も無かったのに……」
話を聞くに、何かどえらい事が起きてしまったのは確実のようだ。チトセと2人して慌てて事務所を飛び出し格納庫に降りてきたが、そこには直ぐにでも着られるように整然と並べられた機動鎧甲をはじめとした装備が。
「イクノ!すぐにいけるかしら!?」
「こっちはもう準備万端じゃ!後はお前さん達だけじゃぞ!」
「さすがイクノ!とにかく急ぐわよ!」
もう分けもわからず、とにかく慌てて機動鎧甲を着込むが、その僅かな間にも次々と新しい情報が入ってきた。爆発の後、駅ダンジョンの中にリソーサーが大量発生……地表の隔離地域にまで溢れ出す……壁を越えるのも時間の問題……本作戦のために防御が手薄になってる今、自衛軍だけでは抑えられない……そして、特別チームとは音信不通に……
ちっくしょう、一体全体何がどうやってやがるんだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます