報告書59「銃火の果て、滑り込んだ先にはさらなる地獄が待っていた件について」

 群れをなして押し寄せてくるサラマンダーやらなんやらのリソーサーを相手に、時には倒しつつ時には姿を隠しつつでなんとか旧バスタ地区近く、新宿駅ダンジョン南口に辿り着くことができた。駅ダンジョン内部にあえて入らず、外周伝いに進んだからというのもあるが、ここまで来るのに全く一苦労した。それもこれもチトセがご丁寧にリソーサーからの資源回収を漏らさずしているからだ!


「なぁチトセ、もういい加減に資源は捨て置いて先に進むのを優先すべきじゃないか?」


「何言ってるのよ、ここで回収しておかないと赤字も赤字の大赤字よ。それに回収資源は各種補給物資にクラフトできるんだから、無駄にはならないわ!」


「そうは言っても、このままじゃ目的地に着く前に重量オーバーだぞ!」


「力だけが取り柄のアタッカーが荷物持ちもできないなら他に何ができるってのよ!」


「何をー!」


「何よ!」


「……」


「……」


 いい加減にせんかっ!といつもならこの辺で入るイクノさんの突っ込みが無いので、固まる俺とチトセ。そういえば隔離地域に入ってから、一向にイクノさんからの通信が無いが、まさか……


「イクノさん!そちらの状況は!?」


「ちょっとイクノ、聞こえる!?無事ならすぐに返事しなさい!」


 考える事はチトセとて同じか、ほぼ同時にスキャナーに呼び掛ける。


 <<おぉ、チトセ達か。今そちらに連絡するつもりじゃったんじゃが、丁度いい所じゃったの>>


「イクノ……!いるなら声ぐらい聞かせなさい!また寝てたんじゃないでしょうね!?」


 口ではそう言うチトセでも、イクノさんの声が聞けて明らかにホッとした感じだ。全く相変わらず素直じゃないな。


 <<すまんの、今回の件について調べてたんじゃが、気になるメッセージがあっての。今までウラ取りしてたんじゃ>>


「気になる事って、なによ?」


 <<それがじゃの……>>


 その時、道路を挟んで向こう側、かつてバスタ新宿と呼ばれていた建物前から立ち昇る黒煙が見えた。その煙付近をスキャナーで画像拡大してみると……


「あっ、おい!チトセ!車両部隊ってあれじゃないのか!?」


「って、どれどれ……確かに間違い無いようね。ごめんイクノ、先にこっちの任務を片付けちゃうから、後でまた話を聞かせてちょうだい」


 <<うっ、うむ……それは構わんが……>>


 何か言いたげなイクノさんであったが致し方無い、今は目の前にある任務の達成が最優先だ。


「この道路を渡ってしまえば、案外遠くなさそうだな」


「そうね……でもだだっ広い道路を渡るのは危険って事くらい、幼稚園で習ったでしょ」


「へいへい。そんじゃ右見て左見ておまけにもう一回右見て手挙げて渡るとするよ」


 まずは俺が、身を屈めつつ道の真ん中で焼け焦げ擱坐している装甲車の影まで走り込み、手を振ってチトセに合図をした。それを見て続いてチトセが走り込んできたので、お互い顔を見合わせてうなずきあい、また俺が先に隠れていた物陰から飛び出そうとする……とその時、何だか前方の道路を走っていた一筋の赤い光が徐々にこちらに向かって来て、今度は身体を登ってきた。これって……


「バカ!伏せるのよ!」


「え?って、ぐわっ!」


 チトセに思いっきり足払いをされ転んだ次の瞬間、目の前の地面が炸裂音と共に大きく抉られた。


「これってやっぱり……」


「バカバカ!見つかっちゃったって事よ!こうなったらもうあれっきゃ無いわね!準備は!?」


 そう言うと腰にぶら下げていた手榴弾を一つ取り出し、ピンを咥えていつでも引き抜ける態勢をとるチトセ。


「あっ、あぁ!いつでもいいぞ!」


「それじゃあ……全力ダァァシュ!」


 プッと引き抜いたピンを口から吐き出し、投げ込んだ手榴弾から勢いよく吐き出された白煙の中目掛けて猛然と駆け出す。そんな俺達を狙い赤やら青やらの炸裂弾に曳航弾混じりの実弾が雨霰と降り注ぎ、足元に着弾した時に飛び散る破片や耳元を掠める時のキンキンした音はもうやかましくてしょうがなかった。


「MM社所属スペキュレイター2名そっち行くわよ!」


 いきなり飛び出して自衛軍に誤射なんてされちゃ敵わないので、叫びながら目的地の戦闘車輌のいる旧バスタ新宿のある建物に、文字通り転がり込むように飛び込んだ。折り重なるように倒れ込んだ俺達を囲み、怪訝そうな顔で見つめる自衛軍兵士達。はいはい、こんなアホなスペキュレイターはさぞ珍しい事でしょうよ。


「驚いたな……まさかあそこを突破してくるなんて……」


「……へ?」


「"あいつ"は出るは、周囲の建物に潜んだリソーサーが十字砲火を浴びせくるわで、他の部隊は近寄れなかったんだ。それをたった2人でここまで来るなんて……」


「……当然よ。それが私達、地獄の掃除屋・MM社スペキュレイターなんですから。これ、名刺ね」


 手を貸してもらって起き上がりながらも、抜け抜けと調子の良い事を言うチトセ。なぁにが地獄の掃除屋だ。廃品回収業の間違いだろ。


「ゴホン。とにかく俺達は大佐さんから、脱出の援護をするよう仰せつかっててね。さっさとこんな所からは脱出しようぜ。見たところ装甲兵員輸送車に機動戦闘車までいるんだ、楽勝だろ」


「それがそうもいかなくてな、ここで缶詰状態ってわけだ……」


「なんだ、故障で動けないのか。そりゃ参ったな」


「いや、そうでは無く……」


 その時、大気を震わす大音響が辺りに轟き、思わず耳を塞いだ。なんだなんだこのデカくて不快な金属音混じりの咆哮は!?


「おいでなすった!アイツがいる限り、"この程度の戦力"じゃ、ここから出ることは敵わないって事だ!」


 巨大な何かが地に降り立ったらしく、地響きがまるで地震でもあっかのように伝わってきた。百戦錬磨な自衛軍すらも脅かすその姿を一眼見てやろうと外に出ると、そこには一体の巨大な影が。こいつは……


「リソーサー・ドレイク……まさかこんな所にいるなんて……」


 チトセが小さく呟いた。

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