報告書53「脱出、情けは人の為ならずについて」
俺とチトセが作った、なり損ないリソーサーの群の中に出来た一本の通り道。そこを全力で駆け抜けていくアラセ隊長。
「援護しろ!隊長に奴らを近づけさせるな!」
ライターことヒナガ少尉が火炎弾を飛ばし、カービンことコハレ曹長はもう立ち上がれないにも関わらず、壁に寄り掛かりながらもブラスターカービンを撃ち続ける。俺も最後のバッテリーの残量を残さず使い切るつもりで刀を振るった。
「あと50m……30m……10m……もう少しです!」
ササヤさんの叫びを聞き、手を止めて先を見た時にはアラセ隊長はもう爆轟弾に辿り着き、プラグを手に取った所だった。
「やったぞ!これで……っ!?」
知らせようと、叫ぼうとした時にはもう遅かった。今まさに手に持ったプラグを差し込もうとした隊長を、その背後からワーウルフの鋭い爪が貫くのをただ遠くから眺めていることしか出来なかった。そしてスキャナーから消える識別信号……
「隊長ぉぉお!」
ヒナガがそれを見て絶叫し、駆け出そうとするのを後ろから組み付いてなんとか押し留める。
「馬鹿野郎!お前までやられるぞ!」
「望むところだ!このまま隊長は見捨てられない!」
「カービンは、コハレさんはどうするんだ!その隊長さんになんて言われたのか思い出せ!」
「しかし……!しかし……!!」
ワーウルフは貫いた爪を引き抜き、プラグを手に持ったままドッと倒れ込んだ隊長のその身体を前に大きな口を開けてやがる。野郎、身体を喰らう事で遺伝子情報を奪う気だ!
「プラグはまだ繋がってない!どうするのよどうするのよ!?」
「こうなりゃ出口まで血路を開いて突破するしかないだろう!」
「それが出来るんだったら初めからこんな所で缶詰になったりしてないわよ!」
バッテリー残量もブラストガスも回復アイテムももう残り僅か。チトセの言う通り無謀だがもう他に手は……!
「とにかくみんなで離れず固まるんだ!散り散りになったらやられるぞ!ササヤさんもこっちに!……ササヤさん!?」
いつもなら元気な返事があるところながら、なにも帰ってこないのでまさかと思い振り向く。そこには、思い詰めたような顔をし、立ち尽くす姿があった。
「一体どうした!?早くこっちに!」
呼び掛けにも応じず、何やらしきりにごめんなさいごめんなさいと呟いている。ついに恐怖に耐えられなくなったのか?それとも……
「ごめんなさい……でもこれしか手は無いの……"天に昇りし魂よ、今一度降りて我に従え……!"」
「一体何を……!?」
見たこともないコードの流れがスキャナー越しに見える。そのコードの行き先を追うと、あり得ない光景を目にした。何と倒れ伏していた隊長が立ち上がり、手に持ったグラビティハンマーを大きく振り回しワーウルフを叩き潰したのだった!
「そんな……まさか……!?」
「隊長……!?」
スキャナーには未だ生体反応とリンクしている識別信号は表示されない。つまりもうとっくに隊長さんは死んでいるはずなのだ。じゃああそこで再び立ち上がったのは一体……!?驚きの光景を目の当たりにし、一瞬動きが止まった俺たちが見てる先で手に持ったプラグを差し込む隊長さん。そして周囲が光に包まれた……しかし俺は確かに見た。アラセ隊長の、最期の敬礼を……
「何あんたら全員ボッと突っ立てるのよ!隊長さんがやってくれたのよ!ほらコハレさんに手を貸して一気に走り抜けるわよ!」
「え……あっ、あぁそうだな!行くぞヒナガ!」
「おっ、おう!掴まれコハレ!」
「うっ、うん……」
俺とヒナガでコハレの両肩を持ち、そのまま駆け出した。直後に襲った爆風は凄まじく、なり損ないリソーサーは次々に閃光の中に消えて行き、天井や壁には亀裂が走り、あちこちで崩落が始まった。
「チトセ!出口はどっちだ!?」
「えーっと、えっと……」
「どうした!?早くしないと生き埋めだぞ!」
「仕方ないじゃない!もうあちこちで崩壊が始まっててスキャナーのマップが役に立たないんだから!」
「これじゃあこのフロアどころか駅ダンジョンごと崩壊するのも時間の問題だぞ!」
「さすが私ね!この威力の爆轟弾を現地クラフトできる山師なんてそうはいないわよ!」
「自慢している場合か!?」
などと言ってる間にも天井の崩落が始まり、次々と瓦礫が落ちてきているこの状況。全く一難去ってまた一難かよ!
「皆さんこちらです!」
その時、ササヤさんが先頭に立ち、俺たちを呼び寄せた。
「ササヤさん!道が分かったのか!?」
「"この子"が案内してくれるそうです」
見るとそこには、どこから現れたのか行きで助けたあのワン公リソーサーが尻尾を振ってワンワン吠えていた。
「こっ、こいつが!?」
「ええ!さあ行きましょう」
ええいもうどうにでもなれだ!ワン公を追いかけ右へ左へと走り、階段を登り、改札を越えた。周囲では壁や天井が次々と崩れ、大きな瓦礫が崩落してくる中、とにかく必死に走った。
「あそこが出口だそうです!」
ササヤさんが指差す方向を見ると、外光が、希望の光が差し込むのが見えた。天井から下がる看板に書かれたその名前、8番出口から滑り込むように外に飛び出した時には駅構内は完全に崩壊し、まさに間一髪だった……危なかったー!かっー!
「みんな無事!?」
チトセの声に周囲を見渡すと、みんな無事……と思いきやササヤさんがいない!
「ササヤさん!?ササヤさんがいないぞ!?」
「私はここです……」
慌てて周囲を探すと、とある銅像の横にいるササヤさんの姿を見つけ、ホッと息が出た。
「まさかリソーサーに助けられるとはな……それで我らが恩犬はどこに行った?今なら連れ帰って飼うのも大賛成だ」
「"あの子"なら……」
そう言いながら、ササヤさんが優しく撫でた銅像は、なんとワン公リソーサーとそっくりな姿であった。
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