報告書52「雷光の通り道、慌てればミスるのは必然な件について」

「がんばれコハレ!すぐに脱出だ!」


「ごめんヒナガ……」


 ライターがカービンを背負うのを見て、チトセが爆轟弾のスイッチを入れると、その隣にあるタイマーが起動、30という数字が29……28……と減り始めた。


「そらあんたも走った走った!」


「いつもの事ながら余裕が無いな!」


 チトセが言うには、この爆轟弾の爆発半径は驚きの100m。つまり、この30秒の間に何としてでもここから離れなければ、俺たちまで消炭になってしまうと言う事だ。徹夜明けの最後がこんな全力疾走とは、全く身体に悪いぜ。


 走りながらチラリと後ろを振り向くと、追いかけてくる成り損ないリソーサーがもの凄い数で迫ってきてるのを見て、もう振り向くのをやめた。さっきよりさらに増えてやがる。こいつはいくら何でも多すぎだっ。


「爆発、来るわよ!みんな衝撃に備えて!」


「備えてって言ってもなぁ!」


「5……4……3……2……」


 起爆までのカウントダウンをするチトセ。全力疾走中に、どう備えるんだとも思ったが、とにかく走った。リソーサーにも爆発にも巻き込まれるのは嫌だからな!


「0!」


 その声を合図に、一瞬目を瞑り身構える。そこに凄まじい衝撃が背後から……来ない。全く、何も来ないのだ。


「ストッープ!」


 チトセの声に、全員が慌てて止まる。


「どういう事だチトセくん!?爆轟弾は一体どうした!このままでは……」


「シャチョー!敵の数さらに増え続けてます!」


「チトセ!これは一体……」


 周りからの問い掛けに、一瞬悩む素振りをしたチトセ。しかしすぐに答えは出たようだ。


「イクノ……これはやっぱり……」


 <<恐らく、そうじゃろうな……>>


「どうやらミスっちゃったみたい♪」


 テヘペロとでもしたいのか、可愛く言うチトセ。その時、周囲の時が止まった気がした。


「ミスっただぁ!?それじゃあこれから……って、危ねぇ!」


 早速追いついてきた成り損ない共にすっかりと四方八方を囲まれてしまい、流れるままに応戦するが、障害物もトラップも無い中、さっきより明らかに状況は悪化したのは明白だ。


「爆弾女の爆弾が不発って、どういう事だよ!」


「シャチョー!私達ここでお終いなんですか!?」


「コハレは容態は一刻も争うんだぞ!やっぱりスペキュレイターなんて言う戦闘の素人に任せたのが間違いだったか!」


「だーうるさいうるさーい!最後にタイマーと繋いだプラグをちょ〜っとミスっちゃっただけよ!爆轟弾自体はいつでも起爆できるわよ!」


「それが出来ないから困ってるんじゃないか!一体どうするつもりだ!」


「あぁもう、分かったわよ!私がちょっと行って直してくるわ!プラグを挿す場所を直すだけだから余裕よ」


「ちょっと行ってって……」


 この完全に囲まれた中じゃあ、およそ100m離れた爆轟弾に辿り着く所か、10m進む事だって出来るかどうか……


「自分が行く。あなた達は先に行っててくれ」


 そう言い出したのは、ハンマーこと大尉さんだった。


「はぁ!?あれは私の爆轟弾よ、私が行くわ!」


「いやダメだ。救援に来た君達をこれ以上危険に晒すわけにはいかない。それに……」


「それに……何よ」


 牛頭を叩き潰したグラビティハンマーを肩に担ぎながら、フッと笑いながら言うのだった。


「これ以上民間のスペキュレイターに助けられたとあっては自衛軍兵士の名折れだからな!」


「大尉、それは……」


「いいんだヒナガ少尉」


 大尉さんに制止され、黙るライター……いや、ヒナガ少尉さん。まさかこの人達が自衛軍兵士だったとは!道理でクソ真面目な訳だ。


「やっぱりね……でもこんな所で民間人も自衛軍も無いんじゃない?」


 それでも譲らないチトセ。その様はまるでさも知っていましたとも言わんばかりだ。


「いいから社長くん、これを持っていきたまえ」


 そう言ってヒナガ大尉が投げてよこしたのは、ドッグタグだった。そこには、アラセと刻まれていた。


「それが有れば、今回の救出作戦について説明が付くだろう。それとヒナガ少尉にコハレ曹長、お前達の式、行けなくなりそうだ。すまんが挨拶は別の者に頼んでくれ」


「大尉……!」


「あぁもう!何死ぬつもりになってるのよ!私達がここから援護するから、あんたも脱出できるに決まってるでしょ!ササヤさん!」


「はい!」


 もう残りバッテリーも厳しい中、大尉に思いっきりのフル支援をするササヤさん。チトセはその間に手早く背中に背負っていた多目的ロケットランチャー"クニクズシ"の発射手順に入り始めた。


 きっと隊長さんは、この部隊の責任者としての"けじめ"を最後に付ける気なんだ。それが自衛軍士官としての……いや、人を動かす者に必要な覚悟なのだから。ならばここで俺に出来る事と言えば……


「道は俺達が切り開く!」


 技ぁ借りるぜ、俺の影。キ影を左義手で持ち、スゥッと息を吸う。そして柄頭付近を持った左手を後ろに下げ、腰を大きく落とす。握り込みに応えて刀身の上ではでは紫電が大きく荒れ狂う。


「気爆噴射雷光片手突き……界雷!!」


 高めに構えた刀をロケット噴射で加速、勢いそのままで突きを繰り出すと、目の前のワーウルフを貫いただけでは無く、刀身から極太の雷光が一直線に走り、その後ろにいたリソーサーの群れもことごとく貫いていった。


「今だチトセ!」


「オーケー、いっくわよー!」


 チトセの持つクニクズシから放たれた飛翔弾はその雷雨の通り道を抜けて行き、奥に残ったリソーサーに命中、大爆発で残りも吹き飛ばした。


「今よ大尉さん!」


 短いながらも俺達に敬礼、アラセ大尉は駆け出していった。

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