報告書51「爆轟弾、危険な深夜テンションに気がついた時には後の祭りについて」
「それじゃあ決まりね!クラフト開始するから、しっかり援護するのよ!」
そう言うとチトセは、持っていたバッテリーやらブラストガスの予備マガジンやらを床に広げ、柱の影にあった携帯型発電機を引っ張り出して来た。
「頼んだぞ!」
今は少しでも時間を稼ぐのが第一だな。俺は再び障害物を越えたが、丁度そこへ今度は上半身は人間、下半身は馬のケンタウロス野郎が、手に持った槍を真っ直ぐ前に突き出してもの凄い勢いでこちらに向かってきやがった。
「あっぶねぇ!」
なんとか横に転がりその突進を避けられたが、危うく串刺しになる所だった。ケンタウロスはと言うと、少し離れた所でUターンし、再びこちらに狙いをつけてやがる。ちくしょう!あの猛スピードでの突進にどう対処しろってんだ。などと思ってる内に再び駆け出してくるケンタウロス。こうなりゃ一か八……
その時、背後から飛んできた火炎弾がケンタウロスに命中、爆発と共にその身体を業火に包んだ。
「今だ!」
その声でハッとし、炎に包まれ突進の勢いも完全に削がれたケンタウロスに接近、正面から真っ二つにしてやった。完全に機能を停止し、崩れ落ちるケンタウロスを見ていると背後から声がした。
「全く危なっかしいな。スペキュレイターさんは」
「ライター!すまない、助かった」
「だが、爆轟弾をこんな所で使うなんていう命知らずな所は気に入ったぜ!」
「あっ、あぁ……」
そう言い残すと、再び火炎弾を飛ばすライター。爆轟弾、そんなにヤバい代物なのか?
「……所でイクノさん、爆轟弾ってのは一体どんな武器で?」
<<なんじゃ、知らんでチトセに賛成しとったのか?簡単に言うと、発電機に使われておる小型融合炉を崩壊させる事で、周囲に膨大な熱を放出する爆弾じゃ>>
「融合炉を崩壊……?それ、どれくらいの破壊力があるんですか?」
<<以前チトセが使った時は、駅ダンジョンのフロアを丸ごと一つ吹き飛ばし、資源庁に厳重注意されたくらいの破壊力じゃ>>
フロアを丸ごと一つ……消し飛ばした!?そんなヤバい物だなんて聞いてないぞ!
<<これから発電機から融合炉を取り出す大事な作業じゃ!集中せんと、失敗したらその場で大爆発じゃから一旦通信を切るぞ!>>
……やっちまったー!!みんなが大反対していた理由がようやく理解できた!何が命を投機するのが〜だ!深夜テンションのノリでチトセのとんでもない案に乗っかってしまった事を激しく後悔する。
「こうなりゃ破れかぶれだ!どいつもこいつもかかってきやがれ!」
もう開き直るしかなかった。ハンマーの一撃により倒れたワーウルフの顔面にキ影を突き立てて止めを刺し、牛頭と馬頭二匹仲良く得物を振り上げて襲いかかってくるので、その間に転がりこんで背後に回り込み、二匹まとめて横一文字斬り。横から突進してきたケンタウロスはライターが炎壁で防いでくれている内に、カービンの銃撃で沈黙。周囲に倒したリソーサーの残骸が山を成していたが、それでも数は一向に減る気配は無かった。
「あぐっ!」
「コハレ!」
叫びで振り返ると、そこにはマンティコアの針弾が突き刺さっているカービンが。
「こんのぉ!」
すかさず横からマンティコアの胴体を両断したが、肝心のカービンは倒れ込み、ライターに抱き抱えられていた。
「大丈夫かコハレ!」
「ごめん……ヒナガ……また足引っ張ちゃった」
「馬鹿野郎!しっかりしろ!」
ヒナガ?コハレ?名前に疑問は尽きないが、今はそれどころじゃ無いな。
「ササヤさん!」
俺が呼ぶが早いか、素早く駆け寄ってきたササヤさんが既にカービンに修復コードを送信し始めていた。
「……えっと……機動鎧甲の応急措置機能を強化したので一命を取り留めましたが……」
何やら暗い顔をしているササヤさん。あまりいい状況では無いのが、その顔を見るだけでも分かる。
「……取り留めたが?」
「損傷はかなり深いです。一刻も早く設備の整った所で治療をしないと危険です!」
マジか……て事はやはりあれをやるしか無いのか。
「チトセ!もう一刻の猶予も無いぞ!爆轟弾とやらは完成したのか!?」
「ちょっと待ってなさい!後はこのタイマーにプラグを繋いで……え〜っとここだったわよね……これで完成よ!これでスイッチを入れて30秒で周囲百メートルは跡形もなく消し飛ぶわ!」
嬉しそうに狂気の報告をしてくる爆弾女。しかし今はその狂気にかけるしか無い。
「大尉!」
「よし、!爆轟弾でリソーサーが侵入してくる南側の通路を封鎖、その隙に北側から脱出!ライターはカービンに手を貸せ!殿は私、行動開始!」
「イエッサー!」
大尉と呼ばれたハンマーの矢継ぎ早の指示を受け、皆それぞれ動き出した。
「大尉ねぇ……やっぱり」
そんな中、チトセだけは何やら納得のいったと言う顔をしていた。
「急げチトセ!ようやく脱出だとよ!」
「え?えぇ分かってるわよ。そんじゃ行くわよ!」
そう言うとチトセは、タイマーにあるスイッチに指を掛けた。
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