報告書50「仮装行列、成り損ない共のお祭り騒ぎについて」

 暗闇に光る目が次々に増え、聞こえて来る唸り声や奇声が徐々に大きくなることからも、得体の知れない何かが周囲を取り囲みつつあるのは確かなようだ。それもかなりの大群で、だ。


「来るぞ!配置につけ!」


「「イエッサー!」」


 ハンマーの指示に従い、やたらキビキビと動く2人。今まで何人もの同業者を見てきたが、その動きはスペキュレイターと言うよりも、まるで軍隊式だ。


「君達も援護を頼む!スペキュレイターならリソーサーは本職だろう!?」


「ちょっ、ちょっと!一体何が始まるってのよ!」


「もちろん戦争だ!」


 そう言うと、背負っていた巨大な戦鎚を手に持ち、ガラクタを積んで築かれた障害物の前へと立つハンマー。その後ろでカービンは障害物に身を隠しつつブラスターライフルを構え、ライターは手から炎を燻らせている。


「しょうがない、脱出はあいつらを倒してからね。イワミは前!ササヤさんは後ろ!私はここで援護するわ!」


「りょーかい!」


「はっ、はい!」


 刀を抜き、ハンマーの隣で構える。何かが闇から駆け出して来る足音が段々と近くなってきた。一体どんな化け物リソーサーが出てくるんだ……?


「来るぞ!」


 奇声を上げながら飛び出してきたのは、身体はトラのような獣そのものであるが、その頭部を見て驚いた。なんとまるで人間の顔をしているのだ。


「ひっ!なんだこいつはっ!?」


 ニタリと笑ったような顔をしたそのリソーサーに驚き、思わず技が出ずに怯んでしまう。なんとか飛びつきを躱したが、デカさと言い顔と言い、まるでマンティコアのような不気味な様相に目が離せなかった。ヒトガタにも驚いたが、まさかこんなのがいるとは……


「危ない!」


 チトセの声で我に返り振り向くと、そこには巨大な戦斧を振り上げたこれまた巨大な……牛!?人の身体をした牛がいたのだ!


「うぉぉ!」


 咄嗟に刀で防御しようとするが、これじょあ防ぎきれない!そう思った矢先、その牛頭だかミノタウロスだかのリソーサーの背後から脇腹に強烈な打撃が入り、その身体を押し潰した。


「大丈夫か!?」


「えっ!?あっ、あぁ……すまない……」


 助けてくれたのはハンマーだった。手に持つのは巨大なグラビティハンマー、加重力を加えて高い攻撃力を発揮する武器か……本当に危なかった。って、マンティコアみたいのと戦ってるんだった!慌てて振り返ると、チトセとカービンの集中砲火を受け、既に沈黙したその姿が。倒されてなお薄ら笑いを浮かべているその顔には、もはや恐怖しかない。


「一体なんなんだこいつらは!こんなリソーサー見た事ないぞ!」


「自分も見るのはここに来て初めてだ。断片的だが回収できた情報によると、こいつらは中途半端に得た人間の遺伝子情報を基に、欠陥部分をその他の動物ので補った、文字通りの成り損ない共のようだ」


「成り損ない……」


「そして奴らは欠陥部分を補おうと、人間に対して群れをなして凶暴に襲いかかってくる。これがここから出られない理由だ」


「マジか……」


 見ると次々とこちらに向かってくる、成り損ない共の姿が。こりゃあ救援に来たつもりだったが、ミイラ取りがミイラになってしまったか?


「とにかく生き残りたければ戦えって事だ!」


 手から火炎放射器のように棒状の炎を飛ばしながらライターが叫ぶ。もうそれしか無いのか!今度は馬の頭をしたリソーサーが火達磨になりながら巨大な鉈を振り上げて襲いかかってきたので、そいつの側面に高速でんぐり返しで回り込み一撃を外すと同時に、立ち上がる勢いで胴体を斬り上げた。そこからハンマーを狙うワーウルフの背中に斬りつけ、マンティコアの飛び掛かり噛みつきを咄嗟に左手で抜いたヒトマルで防ぐ……こう次々と来られちゃ全く休まる暇も無いじゃないか!一旦障害物際まで下がり、乗り越えようとしてる牛頭を斬りながらチトセに叫ぶ。


「チトセ!バッテリーも少なくなってきたしこのままじゃヤバイぞ!何か手は無いのか!?」


「こっちだってブラストガスがもう……あぶなっ!?」


 マンティコアが尾から飛ばしてきた針弾を間一髪遮蔽物に引っ込んで避けたチトセ。あの人面トラ、こんな攻撃もあるのかよ!?


「こんのぉ!吹き飛ばすわよ!」


 立ち上がり両手のブラスターで反撃するチトセ。


「吹き飛ばす……吹き飛ばす……?」


 ふぅふぅと息を切らせながら何やらヤバイ言葉をぶつぶつ言うチトセ。怒りで壊れたか?


「そうよ!吹き飛ばせばいいのよ!イクノ!あれをクラフトするからサポートお願い!」


 <<……>>


「ごるぁ!さっきからずっと静かだと思ってたら、寝てるんじゃないわよ!」


 <<むぉっ!?なっ、なんじゃ!?>>


「爆轟弾!クラフト!サポート!以上!」


 <<了解じゃ……いやいやいや、こんな所でまたあれを使うなど本気かチトセ!?>>


「爆轟弾って、あんなのを使ったら我々もただでは済まないです!」


「だー!なら他にあの大群を相手にする方法あるの!?」


 爆轟弾が何なのかは知らないが、イクノさんにカービンも名前を聞いただけでこの反対ぶり、きっとロクでもない物なのは想像に難くない。


「いくらなんでもこんな閉所で爆轟弾は自殺行為だ!賛成できん!」


 倒れ込んだリソーサーを叩き潰しながらハンマーも反対、荒々しい行動とは反対に出てきた言葉が慎重なのは驚きだ。そこにササヤさんの叫ぶような報告が。


「リソーサーどんどん増えています!完全に囲まれました!」


 まーた爆弾女に振り回されることになるのか……だが……


「……やりましょうみんな!一か八か、命を掛けて投機をするのが俺たちスペキュレイターだ!」


 チトセの"とりあえず爆弾で解決"、略して爆決に賛成する日が来るとは……


「スペキュレイターか……面白え!俺は乗ったぜ!」


「ライター!?正気!?」


「もちろん正気だ。俺はこの任務、何としてもお前と一緒に生還したいからな」


「ライター……」


 見つめ合うライターとカービン。おやおや、お熱いようで。


「うむむ……他に手は無いのか……」


 ハンマーも渋々了承したようだ。こうして俺達は生き残るため、チトセに全力で振り回され作戦を実行に移す事となった。







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