報告書49「闇の底、地下深くにて逃げ場を失った件について」

 暗中模索、まさに暗闇を手探りをするかのように彷徨い歩き、ようやく俺達は通れる下行きの階段を発見した。マップによると階段は多数あるものの、瓦礫で塞がっていたり、バリケードを築かれていたりと、中々通れる階段が無く、ただでさえ複雑な構造を、さらに難解にしているこの造りは全く嫌になるぜ。


「ここから下の階に行けそうね。周囲に注意して」


「注意と言っても、今のところ異形のリソーサーとやらもさっきの二体だけで全然出てこないし、こりゃ救援対象もとっくに脱ふわぁぁぁ……」


 いかん、そう思うと緊張の糸が途切れたのか、あくびが止まらん。


「シャキッとするシャキッと」


 そう言いながら、青と白に色分けされ、中央には赤い猛獣がデザインされたエナジードリンクを投げて寄越すチトセ。ここはこれのがぶ飲みで乗り切るしか無いのか。


「ササヤさんも飲むかしら?耐性が無いうちはなかなか効くわよ」


 耐性って……


「……」


「ササヤさん?」


「え?あっ、えっと、はい……いただきます」


「どうしたササヤさん?何か気になるものでも?」


 歩きながらカシュっとエナジードリンクの蓋を開けながら、ササヤさんの方を見るに、あまり楽観的とは言えない顔をしていた。


「いえ……なんだか周りの騒めきが段々と大きくなっている気がして……」


「騒めきって、何も聞こえないけど……もしや……」


 飲み終わった缶を握り潰し、壊れた自販機の隣にあるゴミ箱に投げ入れ辺りを見渡す。もちろんスキャナーには何の反応も無い。だがよくよく注意を傾けると、壁の割れ目から覗く光る目……排気ダクトを何かが走り回る音……今捨てた缶に伸びる腕……道の向こうを一瞬何かが横切った影と、不審な気配をあちこちに感じた。


「チトセ、こりゃあ……」


「えぇ、ここはひとまず……」


「ひとまず……?」


「全力ダッシュよ!」


 そう言い一気に駆け出すチトセ。慌てて続く俺とチトセだが、角を曲がり、階段を降り、また降りるを繰り返すチトセに引き離されないように付いていくのがやっとだ。ようやく追いつい……


「ストッープ!!」


「なっ、ちょ!?」


「危ない!」


 急に止まったチトセの背中に激突、さらにその後ろからササヤさんが激突、そのまま3人揃って倒れ込んでしまった。


「あいたた……ちゃんと前見て走りなさいよ!」


「無理言うなよ!急に駆け出したと思いきや、今度はいきねり立ち止まりやがって!」


「一体どうしたんですかシャチョー……?」


「よーく足下を見なさい……地面にワイヤーが張ってあるのが見えるでしょ?」


 と言うチトセの目線の先を見ると、なるほど確かにワイヤーが張られている。その先には、壁に張り付いた爆弾が。


「これは警戒線……?てことは……」


「動くな!」


「ひぇ!?」


 そこに横に前にと人影が飛び出してきて、各々手に持った武器を俺達3人に向けてきた。突然の事で、思わず重なり合って倒れたまま手を上げる俺達3人。


「人!?ついに救援がきてくれたの!?」


「けっ、ようやくこの地獄とおさらばだぜ!」


 武器を突き付けてきたかと思うと、今度は倒れ込むこちらに手を差し伸べてくるその人達は、顔全体を覆うメットのため表情は見えないが、言葉からは緊張と不安、そして安堵が感じられた。


「ふぅ、よいしょっと……ありがとう」


「どわぁ!」


 上に倒れ込んでいた俺を横に転がし、さも何も無かったかのようにその手を取って立ち上がるチトセ。


「あなた達がここで籠城してるっていうパーティーかしら?私は今回の救援任務を受託したMM社代表のチトセよ、よろしく。そんでもってそっちの転がってる男がアタッカーのイワミ、女性の方はヒーラーのササヤよ」


「うぐぐ……よろしく」


「よ、よろしくお願いします……」


 立ち上がりながら挨拶をするが、向こうはどうやらこちらの有様よりも、ようやく救援が来た事を喜ぶのに忙しいようだ。


「救援感謝する!自分はこの隊を率いるハンマーだ」


「ライターだ。全く散々待たせやがって」


「コ……カービンです!自分の担当兵科はガンナーです!」


「……随分変わった名前なのね」


 本当に変わった名前だが、当然本名ではあるまい…とも思うが、スキャナーの敵味方識別情報にも同様の名前が出てる辺り、どうやら単なる中二病達が勝手に名乗っている訳では無いようだ。とにかく今分かる事と言えば、メット越しの声からするにハンマーとライターは男性で、カービンは女性のようだと言う事くらいか……む?見るとカービンは右手を負傷しているのか、機動鎧甲が大きく損傷しているではないか。


「すぐに治療しないと!ここは俺に……ふぐぅ!」


 足に激痛が走る。見るとチトセが踏みつけているでは無いか。


「あんたは引っ込んでなさい。ササヤさん、え〜っと……カービン?の治療をお願いするわ」


「はいっ、任せて下さい!」


「治療感謝します」


 カービンに走り寄り、コード送信による回復を開始するササヤさん。後で俺の足も回復して欲しいものだ。


「ついさっきまで大量のリソーサーが押し寄せて来ており、物資は尽きかけ、もうダメだと思っていたところだ。それで、他のメンバーはどこに待機しているのですか?」


 辺りを見渡すハンマー。よく見ると、身にまとう機動鎧甲は傷だらけ、通路にはガラクタで築かれたボロボロの障害物に、柱の陰には散乱したブラストガスやら携帯型発電機と、激戦の跡が窺える。


「他に依頼を受諾した企業は無いから救援は私達3人だけよ」


「たったの3人だと……!?」


 それを聞き声を失い、明らかに動揺したかと思うとガックリと肩を落とした。


「何はともあれ、すぐにここから脱出しましょう」


 それを聞き、力無く肩を落としたまま俯く3人。一体なんだ?せっかく脱出できると言うのにこの暗さは?


「残念ながら……合わせてたったの6名では到底脱出は不可能です……」


「そんな事ないわよ。現に道中、リソーサーにほとんど遭遇しなかったし、今なら脱出できるわよ」


「ほとんど遭遇しなかったのは……皆さんを逃がさないようにこの奥地に誘い込むため、敢えて攻撃の手を緩めたのでしょう……」


「え?それって……」


「シャチョー!付近から強い敵意を持った膨大なリソーサーの信号が感じられます!」


 見ると暗闇の中に一斉に光出す無数の目が。どうやら、俺達はまんまとリソーサー共の罠に掛かってしまったようだ。




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