報告書48「空間のねじれ、物理法則を超える駅ダンジョンについて」

「えいっ!」


 ササヤさんが勢い良く振り下ろしたロッドが、異形のリソーサーの背中を捉える。そして振り返ったそのリソーサーの姿は、爛々と目を妖しく光らせ、口からは鋭い牙を覗かせた、狼の顔をした機械の人間とも言えるものであり、まさにワーウルフそのものだった。最初の打撃は正確にヒットしたものの、そもそもロッドはコード送信に特化した杖タイプの武器、攻撃力はそんなに無いためか、どうやらただ怒らせただけのようだ。


「あわわ……!」


 攻撃対象を犬のようなリソーサーから怯むササヤさんに変更し、鋭い爪が突き出た両手を振り上げるワーウルフ。その爪が今、振り下ろされ……


「大丈夫かササヤさん!」


「はっ、はい!なんとかっ!」


 間に合ったか!振り下ろされた爪を大きな金属音が辺りに響かせながらキ影の刃で何とか受け止めたものの、もの凄い力で押してくるのが、徹夜の身には何とも辛いものだ。刀と爪の押し合いをしていると、もう一体までもがこちらに向けてその妖しく光る目を向けてきやがった!


「あんたの相手は私よ狼男さん!」


 その一体は俺に向かって飛びかかったその瞬間、チトセのブラスター乱射により撃ち落とされた。こうなったら俺もウカウカしてられないな!


 鍔迫り合いで拮抗しあう力、そこで重心を左にずらしながら左義手を外す事でその均衡が破れ、勢い余って俺の身体の右側を鋭い爪撃が通り過ぎる。


「気爆噴射小太刀居合ーー片時雨ッ!」


 そこにすかさずワーウルフの横っ腹に一閃、ロケット加速させた左義手による小太刀ヒトマルの逆手居合を決めた。


 胴体を半分以上斬られ、唸るような呻き声を上げ、どっと倒れ伏すワーウルフ。目からも光が消え、どうやら完全に機能停止したようだ。やれやれと、大小二刀を鞘に納めつつ改めてその姿を見回す。


「ふぅ……一体なんなんだこいつは?」


「さぁね、私が知るわけないでしょ。イクノ、聞こえる?任務概要に出てた異形のリソーサーと思しき奴と交戦したんだけど、そっちで何か分かる?」


 返ってこない返事。まさか……


「イクノ!聞こえるかしら!?」


 <<わっ、とっとと!一体どうしたのじゃ!?>>


「あんた……寝てたわね?」


 <<まさか、そんな事ある訳なかろうて!軽く目を休ませておっただげじゃよ。こうモニターばかり見てると目に悪いからのぅ>>


「はいはい……それでこの狼男みたいなリソーサーなんだけど、何か分かるかしら?」


 <<こいつは……わしも初めて見る種類じゃのう……じゃが、最近ではこのような新種のリソーサーが次々に確認されており、リソーサーの階位に大型動物種と伝説種の間に新たに異獣種を設けるという話じゃからな。おそらくこやつもそういった類の新種じゃろうて>>


「新種のリソーサーねぇ。ぞっとしないわね。と、ササヤさんはどこいったのかしら?」


 そう言われ、辺りを見渡すと、しゃがみ込んで何かをしているササヤさんを見つけた。まさかさっきの戦いで負傷かっ!?


「ササヤさん!」


 慌てて覗き込むと、負傷よりも更に驚く光景が目に入った。なんと、先程ワーウルフに追われていた犬型のリソーサーの損傷部を、コード送信により修復していたのだ。


「サ、ササヤさん何を……!?」


 2、3歩下がりつつ、キ影の柄に手を掛ける。


「この子、可哀想に怪我しちゃってるみたいで……ほら、もう大丈夫よ」


 ワンワンと吠えながら尻尾を振る姿はまさに犬、ワン公だ。


「この子からは害意は感じられません。リソーサーにも色々いるって事ですよ」


「うむむ……しかし、なぁ……チトセはどう思う?」


「散歩やら食費やらと手間も世話代もバカにならないから、ウチでは飼えないわよ」


 ワーウルフ型のリソーサーの頭から、記憶媒体を引き抜きながらチトセが答える。


「分かってます!」


 どっかの母ちゃんかチトセは。そう思っていると、そのワン公リソーサーはお礼を言うかのように3回クルクル回った後、ワン!と吠えて何処ぞへと走り去ってしまった。敵意の無いリソーサーなんて初めて見たが……あれなら確かに飼えそうだな。


「ばいばい、ワンちゃん」


「さて、先を急ぐわよ。リソーサーの数が少ないとはいえ、救援対象がどういう状況かまだ分からない以上はのんびりしてられないわ」


「りょーかい」


「はいっ!」


 チトセの言葉に、ワーウルフからの資源回収もそこそこに先へ急ぐ俺達。金になる資源よりも救援対象との合流を最優先するとは、チトセのこの任務に対する本気具合が伺える。


 足早に先へ進むと、東京メトロ銀座線の入り口を見つけたが、メトロって確か地下鉄って意味だよな?それで現在位置は地上3階のはずだが、なんでここに入り口があるんだ?もしやこの駅の構造はエッシャーの騙し絵のようになっていて、俺たちは既に地下にいるのかもしれない……


「ほらほら、立ち止まってる暇なんか無いわよ。先を急ぐと言ったでしょ」


「気を付けろチトセ……この駅ダンジョン内は空間がねじれている。上へ登ると下へ、下へ降ると上へ出る仕組みのようだ」


「何バカ言ってるのよ。ねじれてるのはあんたの頭の中でしょ」


「嫌だっておかしいだろ!なんで地上3階に地下鉄のホームがあるんだよ!?字面だけでも明らかに矛盾してるぜ!?」


「あんた知らないの?地下鉄も日光浴するのよ。ほらさっさと先へいったいった」


 チトセに背中を押され、とにかく先へ進む事になった。それにしても納得いかねぇ……









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る