報告書47「渋谷駅ダンジョン、地上3階地下5階構造の迷宮について」
周囲の状況が耳から入ってくるのに、それが人の声なのか、それとも単なる物音なのか、区別できずにただ雑音に種別され、それも徐々に聞こえなくなってくる。例えるなら、ゆっくり段々と暗闇に沈んで行く、そんな感覚。この感覚は……
「ほら到着したわよ。起きなさいっての」
チトセに身体をガクガク揺さぶられ、暗闇から一気に引き戻される。あぁ寝てたのか……
「ふが……到着?どこだここは?」
「どこって、寝ぼけてんじゃないわよ。目的地の渋谷駅ダンジョン、隔離壁前に決まってんでしょ?ほら起きた起きた!」
目を擦りながら周りを見渡すと、同じく寝起きなのか、伸びをするササヤさんに目薬をさしているイクノさんが目に入った。それに比べ、コーギー号から降りて念入りにストレッチをしているチトセの何と元気のいい事か。こいつ本当に同じ人間か?そう思い、先程までチトセの座っていた席に目をやると……そこには大量に転がっているエナジードリンクの空き缶が。あの量を飲んだというのか……?こいつ本当に人間か……?
「それじゃイクノ、コーギー号を駐車場に止めてオペレーターよろしくね。言っとくけど、寝るんじゃ無いわよ?」
「ふぁふぅ……分かっておるわい……」
俺達が降車した後、頼りない返事を残してコーギー号を転がしていくイクノさんを見送り、隔離地域を進んで行く。真夜中と言う事もあり、スキャナーの暗視装置を起動し注意深く進むが、目に入るのはひっくり返った軽トラの他は廃墟になったビルばかり、不気味なほど静まり返っているのが返って恐ろしい。そして、交差点を前にした角地に立つ、もはや半分崩れ落ちている建物へと到着した。
「それじゃ、任務開始といくわよ。現在位置は渋谷駅ダンジョン新南口前。ここから内部に侵入して、地下5階で籠城していると言う救援対象のスペキュレイターと合流、一緒に脱出よ」
「へいへ……地下5階だと!?またそん地下奥深くにいくのかよ!?」
「しょうがないじゃない。文句はそこで身動き取れなくなってる奴らに言いなさいよね」
以前潜った東京駅ダンジョンでもそうだったが、リソーサーってのは、地下に行くほど強く多くなる傾向があるからな。良い予感がしないぜ全く。
「仕方ない行くかササヤさん……ササヤさん?」
返事がないので振り返ると、そこには立ったまま寝落ちしているという、何とも器用な姿が。
「ほら起きてくれササヤさん。出発だぞ」
鼻ちょうちんを膨らませながら、今にもよだれを垂らしそうな、およそうら若き乙女がしてはいけない顔を見てられず、思わず頬をペチペチ叩く。
「ふぁ……?もう朝ですか?」
「しっかりしろササヤ!君が要なんだぞ!」
「ふぁ、はいっ!」
驚きでようやく目が覚めたのか、直立不動状態になってしまった。やれやれ、冗談抜きでササヤさんは俺達3人パーティーの要、彼女の索敵と支援が無ければ、この先大分苦しくなるのは確実なんだから、シャキっとして欲しいものだ。
「ふぅ……それじゃ行くわよお寝坊さん達」
チトセに言われ、とにかく気を取り直し、キ影の柄に手を掛けて駅ダンジョン入り口入っていきなりの階段を登って行く。にしても随分あるなこの階段。スキャナーに表示されるマップによると、これで一気に3階まで上がるのか……目的地が地下5階だから、随分と下がる事になりそうだ。
「ふぁ……やっぱりまだ眠いですね……先輩は眠く無いんですか?」
「ん?あぁ、15分くらい寝たからかな、今は何とか。と言っても、この先辛くなるのは確実だけどな……」
戦いの中では、一瞬の判断ミスが命取りになる。ここは気を引き締めていかないとな。と思った所で3階に到着、改札口を越えて先へ進むと、今度は下り階段が。本当にアップダウンが激しい駅ダンジョンだな。
「今のところリソーサーの姿は無し……おかしいわね、異形のリソーサーが大量にって話だったんだけど……」
「任務の事前情報が正確だった試しがないからな。大方、連絡が来てないだけでその救援対象はとっくに脱出してるとかじゃないのか?」
「ならいいんだけど……」
楽観的にはどうしてもなれないらしいチトセとそんな話をしながら道を下がって上がってさらに進むと、中央口と書かれている場所へと出た。出たはいいが、もうここまで来るとスキャナーのマップは地上に地下へと構造が入り乱れており、もう訳が分からない。左右真っ直ぐに道があるが、どちらへ進むのが正解なんだ?
「マップは崩落していて通れない道までは反映してないから、とにかく手当たり次第行ってみるしかないわね」
「やっぱりそれしか無いか。今のところリソーサーも出てきてないし、なんとかなりそうだが……どう思うササヤさん、何か感じ……」
と話しかけたササヤさんの方を見ると何かを見つけたかのように歩いて行ってしまった。
「お〜い、ササヤさん?何か見つけ……」
「シャチョー、先輩!あそこにリソーサーが!」
見ると、そこには3体のリソーサーが。ようやくお出ましか……と思ったが、何だか様子が変だ。と言うのも、どうやら人くらいの大きさの異形の姿をしたリソーサーが、犬のような見た目のリソーサーを追いかけ回しているのだ。
「あの子……怯えてる……助けなきゃ!」
「いや助けなきゃって、あれはリソーサーだぜ?どうせリソーサー同士の縄張り争いか食物連鎖だ。助けたところで手噛まれるのがオチだって」
「そうね……それにあの追いかけてる方のリソーサーはデータにも無いし、ここは慎重に……」
なんて俺達の言葉もどこ吹く風とも言わんばかりに、既にササヤさんはもう飛び出して行った後だった。
「あっ、ちょ!ええい仕方ない!やるぞチトセ!」
「分かってるわよ!」
そして俺はキ影を鞘から抜き去り、勢いよく駆け出した。
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