報告書38「東京駅ダンジョン再び、血に染まる駅舎について」
東京駅ダンジョン。忘れもしない、いや、忘れたくても忘れられない場所。俺はそこで憧れの職場、苦楽を共にした仲間に裏切られ、全てを失った。そして性懲りもなく再び全てを失った俺がまたここに来ることになるとは、なんとも皮肉というか、複雑な気持ちだ。
「東京駅ダンジョンか……」
トランスポーター、高機動装甲車のコーギー号での移動中についつい思い出してしまう。あれから随分と経ったが、ヒシカリに手も足も出ないあたりどうやら俺は成長していないようだ。
「懐かしいわね東京駅ダンジョン。今度は前のようにはいかないわよ」
「シャチョーは前にも来た事あるんですか?」
「まだイクノと2人でやってた時に何度かね。そんで最後に来た時に拾ったのがそこのイワミってわけ」
「という事は先輩とシャチョーが初めて出会った場所なんですね!?」
「ゴリアテに襲われてチトセも危ない所じゃったのを、助けられての」
「ゴリアテってあの伝説種の……!?」
「ちょっとイクノ、私"が"助けたのよ」
「そうじゃったかのう?」
「なんにしても次あのゴリアテ見つけたら粉々にしてやるんだから」
ゴリアテか……あの時は奴の片腕を無意識にとは言え斬り落として撃退したんだが、全く俺は良くやったよ。まっ、その直後に俺も同じ目にあったんだがな。
「隔離壁前に到着じゃ。コーギー号はわしが駐機場に止めてくおくんで、皆はここで降りるのじゃ」
「いつも悪いわねイクノ。それじゃお二方行くとするわよ」
「はい!」
「あぁ……」
あまりこの場所には来たくはなかったのだが、ここまで来ては是非も無い、腹を括るしかないか。そう思い隔離壁を越え歩いて行くと、全く異様な、一目で周囲の廃虚とは異質である事が分かる建物が視界に飛び込んできた。
「この建物は……!?」
「到着ね。ここが東京駅ダンジョン丸の内口、通称赤レンガよ」
「これが……赤レンガ……!?」
そびえ立つその巨大な建物は、これまで見てきた無機質で角張ったビル群の廃墟とは明らかに違う、まるで古の城、要塞を思わせるような姿をしており、そして何よりもまるで血を浴びたかのように真っ赤なその色は、恐怖すら感じさせるではないか。そこから発せられる存在感は、さながら魔力とも言えるものでこちらを圧倒してくる。
「何立ち尽くしてるのよ。初めて来たわけでもあるまいし」
「いや、まぁ、前は別の口から入ったから……」
「別の口って言うとヘリの駐機場がある八重洲口ね。贅沢な事で。ほらさっさと行くわよ」
そう言うと相変わらずまるで恐るものなんて何も無いと言わんばかりにズカズカと進んで行くチトセ。全く、今はこいつの度胸が羨ましい限りだ。
「イクノ、丸の内中央口から中へ入ったわ。例の未確認リソーサーにはどこに行けば会えるかしら?」
<<うむ、影と呼ばれるだけあって地下エリアの奥の奥、京葉線エリアでの目撃情報が多いようじゃ>>
「りょーかい。あそこか……」
「シャチョー、京葉線エリアってあの夢の国に行くのに使われてた……」
「えぇ……これは長い道のりになるわね」
長い道のりって、いくら駅ダンジョンと言っても結局は同じ駅内のエリアじゃないか。何を言ってるんだ?
「エリア間の乗り換えなんてどうせ5分かそこらだろ」
「だったら良かったんだけどね……仕方ない、行きますか」
南口側の下り階段が潰されていたので、イクノさんの指示通り北口側に向かう事になった俺達。ここら辺はまだ入り口付近もあってか出てくるリソーサーもマウスなどの一般動物種ばかりなので、難なく進む事ができた。
そして到着した丸の内北口は駅の中とは思えないくらい広く、見上げると所々壊れているとは言えドーム状の天井には様々な模様が彩られ、本当に美しい造りだった。そこを越え、長い長い階段を降りた先は、薄暗くいかにも地下と言う感じの構造となっていた。
「さて、こんだけ地下に降りたんだ。目的地の京葉線エリアとやらももう少しだろ?」
「なに言ってるのよ。まだ半分どころか、1/3も来たかどうかよ」
「何!?そんなに遠いのかよ!」
「だから言ったじゃない。長い道のりになるって」
同じ駅内なのにこうも路線間の距離が離れているとは……まだここが東京駅ダンジョンになる前、普通の東京駅だった頃は乗り換えで力尽きる奴がさぞ多かっただろうな。
「長い道のりもそうですが、地下エリアは薄暗くて不気味ですね……」
「リソーサーは金属製の機械部品を喰らうからな。大方照明周りも喰われてるんだろう」
<<地下エリアは地上よりも強力なリソーサーが出るんじゃが、特にそこから先はもう何人もスペキュレイターがやられておる。気をつけて進むのじゃぞ>>
「りょーかい。暗中戦闘準備、先に進むわよ」
チトセに言われ、スキャナーの暗視装置を起動して先に進む。これさえあれば暗闇の中でも戦闘は可能だが、どうしても地上よりも視界が狭まるのは避けられない。なので、常にリソーサーの奇襲に備えて周囲を警戒しなければならないのだが……
「あれは……同業者か?」
前方に暗闇から浮かび上がる人影を一つ見つけた。その見た目からどうやら同業者のスペキュレイターのようだが、何やら様子がおかしい。と言うのも、何もせずただ突っ立っているのだ。
「駅ダンジョンのど真ん中でボーっとしてるとは、随分と不用心ね」
同業者と言えば競合者であると同時に協力者だからな。ここで会ったのも何かの縁、せっかくだから挨拶だけでも……と思い歩を進めようと思ったところでササヤさんに腕を掴まれた。
「どうかしたか?」
「……先輩……あれは同業者では……人間ではありません……」
怯えた顔に震え声のササヤさん。彼女の表情の訳は、すぐに判明するのだった。
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