報告書39「ヒトガタ、人は神に似せられ機械はヒトに似せられた件について」

 ササヤさんに言われ、例の同業者風の人影をスキャナーで拡大して観察してみるが、パッと見は機動鎧甲を装着したスペキュレイターだ。しかし、唯一生身の身体が露出しているはずの顔を見ると明らかに人のそれでは無く、機械部品で構成されているではないか。


「つまりあれが噂のリソーサー・ヒトガタって訳か……」


「えぇ……リソーサー特有の信号が漏れ出しているのが感じられますので間違い無いと思います。ただ、何故かは分かりませんが、機動鎧甲から出る信号とよく似た物も感じられます……」


「つまり詳しい正体はあいつを倒して解体してからって訳ね」


 <<そう言う事になるの……>>


 話が終わるが早いか、チトセがブラスターを抜き二丁撃ちによる攻撃をヒトガタに叩き込んだ。口より先に手が出るよりもさらに先にブラスターが出るのは相変わらずのようだが、その攻撃でこちらに気が付いたヒトガタはチトセ目掛けて突っ込んできた。その早さたるはかなりのもので、距離を詰めるのも一瞬だった。


「こんのぉ!」


 それに反応し、俺はチトセの前に出て小太刀で攻撃を受け止める。それにしてもヒトガタの持つトンファー状の武器は、芸の細かい事にスペキュレイターが扱う武器のそれと同じように青い電撃を発しているでは無いか。


「先輩!負けないで下さい!」


 ササヤさんから声援と共に送られた腕力強化のコードの受信を確認、一気に押し込んでトンファーを上に跳ね上げヒトガタの体幹バランスを崩し、横一閃を決める竜尾返しを繰り出す。が……


「くそっ!浅かったか!」


 やはり今までとは刀身の長さが違う小太刀での攻撃のため、後ろに飛んで体勢を立て直す余裕を与えてしまった。


「オーケー!逃がさない!」


 しかしそこはさすがのチトセ、その隙を見逃さずブラスターの連射で地に叩き伏せたのだった。


「とりあえずはやったみたいね。ナイスフォローよササヤさん」


「えへへ、ありがとうございます」


「俺には?」


「はいはい、あんたもがんばったわね」


 どうも俺への労いは適当な気がするが、まぁ労いがあるだけマシか。


「さてと、それでは正体を拝ませてもらうとしますか」


 <<可能であれば、スキャナーの人機共通端子ケーブルを繋いでみてくれんかの。記憶媒体が生きていれば、上手くすればそのリソーサーの構成情報が抜き出せるかもしれん>>


「りょーかい。と言っても派手に撃ちまくっちゃったから期待しないでね」


 確かにチトセの攻撃で文字通り蜂の巣にしちまったから、その記憶媒体とやらが胴体にあったとすれば手遅れだろうな。そう思いつつも、小太刀を片手にゆっくりと倒れたヒトガタに近寄る。急に起き上がって攻撃するホラー映画風攻撃を警戒しての事だが、どうやら完全に機能停止をしているようだ。そうと分かれば、後は記憶媒体とそれに繋がる端子を探しつつ資源の回収をするだけだ。


「リソーサーなのは分かっているんですが、あんまりいい気分はしませんね……」


「確かにヒトガタの解体ってのはちょっとな……」


「何言ってるのよ。人は人、リソーサーはリソーサーよ。割り切ってさっさと仕事しなさい」


「へいへい……」


 本当に凄いよ女だよチトセは。


「あっ!シャチョー、先輩!この頭の部分、記憶媒体じゃないでしょうか!」


 見てみると、確かにササヤさんの言う通り頭部の中にそれらしき物が収まってそうな黒い箱と、口に当たる部分に端子らしき物がほぼ無傷のまま付いてるじゃないか。チトセの銃撃は主に胴体に加えられたのが偶然とは言え功を奏したようだ。


「どれどれ、それじゃお喋りしてみるか」


 スキャナーから伸ばしたケーブルをその口の端子に差し込む。後はイクノさんがこのリソーサーの構成情報をダウンロードして解析してくれるので、それを待つだけだ。


「どうイクノ?何か分かった?」


 <<うーむ……まだ全てを解析できた訳では無いんじゃが、どうやらこの場所でやられたスペキュレイターを取り込んで得た遺伝子情報と機動鎧甲の戦闘情報を基に構成されているようじゃ>>


「それって……つまり……」


 <<倒したスペキュレイターを喰らうことで、人を模したリソーサーがついに現れたと言う事のようじゃの……>>


 マジかよ。そんな話、ササヤさんで無くたって震え声になるぜ。機械が人を食う事でヒトとなるか……ゾッとしないな。


「それにしても変ね。任務内容によると、撃破対象の未確認リソーサーはかなりの強さって事だったけど。それに扱ってた武器も違うし……」


「まぁ、こいつも調子が悪かったんじゃないか?もう終わりにしてさっさと帰ろうぜ」


「あのね、もうちょっと物事に疑問を……」


「あ、あの、シャチョーに先輩……」


 チトセのありがたい説教を遮って、もうさっきから声が震えっぱなしのササヤさんが暗闇の先に何かを見つけたらしく、半泣きで振り返る。


「どうしたササヤさん?もう任務終了、帰ろうぜ」


「それが……そうもいかないようです」


「……?」


 そう言うササヤさんの視線の先、暗闇の向こうを見ると、何かが蠢いてるのが見えた。スキャナーを目一杯拡大してみたが、視界に入った物を見て一瞬ドキッとした。なんと、ヒトガタが朝の通勤時間帯、若しくは土日祝日のコンコース並みの密度でいたのだから……


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