報告書25「新入社員初実戦、それは運か実力かについて」
準備も完了したところでいよいよ上野駅ダンジョンに出発だ。コーギー号にオペレーターのイクノさんを残し、徒歩で移動する事数十分、上野駅ダンジョン正面玄関口へと到着した。それにしてもこの半壊してもなお重厚な佇まいからは、威圧感までも感じられる。
来るのはまだ2度目なので思わず見上げてしまったが、いかんいかん後輩の前だ、しっかりしないと。そのササヤさんの方を見ると、少し悲しそうな顔で上野駅ダンジョンの建物を見上げていた。
「上野駅に何か思い入れでも?」
「えっ?」
「なんだか訳ありな顔で見てるけど」
「あっ、えっと……私、昔は親に近くの動物園によく連れてきてもらってたのでこの駅にも何度も来てて……それでこんなに変わり果ててるのに少し驚いちゃって」
「この辺りは昔は動物園の他にも美術館や博物館が多くある公園だったんだけど、リソーサーのせいで今は見る影も無いわね。さっ、感傷に浸るのは後にして行きましょ。リソーサーを倒す事がこの駅を取り戻す事にも繋がるんだから」
「はい!」
ずんずんと前に進むチトセにとたたっとついて行くササヤさん。良かった、どうやらそこまで緊張していないようだ。一階からダンジョン内部に侵入したが、真っ直ぐ中央改札に行くか上下階どちらかに行くかの分かれ道にいきなりぶち当たってしまった。
「それでチトセ、前回はトータス狙いで地下の水没ホームに行って追いかけ回されたわけなんだが、今回はキメラの出没するエリアの当てはあるのか?」
「うーん……キメラみたいな伝説種は形態元の生物の生態通りとはいかないから難しいわね。イクノ、何かいい考えは無い?無ければ端から探すしか無いけど」
<<そうじゃのう……>>
「端から……」
駅ダンジョンがどれほど広いと思ってるんだ。周辺エリアも含めたらとてもじゃ無いが俺達の手に負える広さじゃないぞ。
「あっ、あのっ!キメラは動物園から得た数多くの遺伝子情報から生まれたリソーサーなので、動物園に近い公園口周辺を探すのはどうでしょうか!?」
思い切ったように発言するササヤさん。
<<なるほど、より多くの遺伝子情報を集めようとリソーサーが情報元付近に出没するのはよくある事じゃからな。まずは公園口から当たるのは良い考えじゃ>>
「さすがササヤさん、リソーサーの生態に詳しいわね。それじゃ公園口向けて出発よ」
「はいっ!」
「りょーかい」
そう言えば、ササヤそんは前に動物の生態とファンタジーが好きだと言ってたが、その2つが合わさったのがまさにリソーサーじゃないか。そう考えるとリソーサー博士とも言えるな。もしかして、これがチトセの言っていたササヤさんの秘められた力って事なのだろうか?そんな事を考えながら正面玄関口横の階段を登り二階に出たが、そこでカニのような形態をしたリソーサー数体に出くわしてしまった。
「気を付けて、キャンサーよ!数も多いわ!」
そう言うと、素早くブラスターを抜き攻撃を始めるチトセ。俺も遅れじと抜刀し斬りかかるが、生意気にもこのキャンサー、鋏で刀を受け止めてきやがった。
「くそっ、マウスとは違うな!ササヤさん、俺に腕力強化を!」
「あっ、えっと、はいっ!」
隣で戦うチトセの様子も伺うが、なかなか有効なダメージが与えられていなく、キャンサーに距離を縮められつつあるようだ。
「さすがにトータス程では無いけど、なかなか硬いわね。ササヤさん、距離を取るからこっちに脚力強化を!」
「えっ、あっ、はい!えっと、えっと……」
ササヤさんからの支援が来るまでの間、鋏を振り回すキャンサーの攻撃を刀で受け止めるが、その度に金属と金属がぶつかり合う鋭い音が辺りに響き渡る。どうやらこいつの鋏はなかなかの硬度を持った素材で出来ているようだ。鬼雨ならこいつの鋏ごと装甲を貫くのも訳なさそうだが、バッテリー消費が激しいのでできれば温存しておきたい。
「ササヤさん用意は!?」
「えっと、できました!」
との言葉と同時に、スキャナーに機動鎧甲の一部性能が上がったとの表示が出た。って、これ脚力強化じゃないか!
「ササヤさん!脚力強化だよこれ!」
「私には腕力強化が来てるわ!」
「あっ、ごめんなさい……また間違えちゃいました」
ええい!こうなりゃなんとでもなれだ!とにかく鋏攻撃の瞬間に合わせて、強化された脚力で背後に回り込んでみたが……
「おや……?」
なんとこのキャンサー、振り向こうとノロノロ動くばかりで無防備な背中を晒し続けているのだ。さすがカニと言うかなんと言うか、横移動は得意でも急な方向転換は苦手らしい。そこから易々と装甲の薄い背部を攻撃して撃破、その要領で手近にいるのを全て片付ける事ができた。
「チトセ!今援護に……!」
チトセの援護に回ろうと思い見てみると、そこには既にスクラップとなったキャンサーが数体転がっていた。
「……行く必要は無いみたいだな。結局正面から全部倒しちまったのか、凄いな」
「腕力強化のお陰で反動の強いバーストモードを正確に弱点の口付近に叩き込めたのよ。もし脚力強化を貰ってたらこうはいかなかったわね……」
そう言われると、俺ももし腕力強化を貰っていたとしても、キャンサーのあの鋏を破壊できたか疑問だ。もしかしたら、ササヤさんはこれを狙って……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます