報告書26「パンダ橋、出会い頭には注意を要する件について」
偶然か必然か、結果的に最適な支援をササヤさんに貰えた事でキャンサーを手早く処理できた俺たち。あのササヤさんがいつの間にか冷静な判断ができるようになったのだろうか?
「ササヤさん、さっきのだけど……」
そう言いながらササヤさんの方に振り返ると、そこには既に頭を下げているササヤそんの姿が。
「すみませんすみませんすみません!」
「じゃなくて、なんでああいう支援をしたのか聞きたくて……」
「ひぃっ!すみません!一度に言われたんであべこべになっちゃたんです!次からは気をつけます!」
「いや、だから……」
支援先を取り違えた事を注意されているのと勘違いしているのか、しきりに頭を下げて謝るばかり。うーむ……やっぱりさっきのは偶然か?
「ササヤさんナイスよ。次もお願いね」
「えっ、あ、はいっ!えっと、がんばります!」
しかしそんな事も、チトセが後ろからウインク混じりにササヤさんにグッドをするのを見ていると、考えても仕方ない事だと思えてくるのだった。
倒したキャンサーの素材を回収後、階段を登り2階から3階へと進むと、そこには頭上には曇った空が、目の前にはガランとした空間が広がっていた。
「ここ3階だよな?こんなだだっ広い道路が宙に浮いているとは……」
「ここが上野駅東西自由通路、通称パンダ橋よ。公園口はこの連絡橋を渡った先ね。こうだだっ広いのは、かつては災害時の避難経路として使われる予定だったからだそうよ。まっ、今やリソーサーという災害のど真ん中になっちゃったんだけどね」
「随分詳しいんだな」
「当然でしよ、駅ダンジョンは私達の"職場"なんだから。ほらさっさと行くわよ。ここはリソーサーからも丸見えなんだから」
そう言うと、すたすたと前を行くチトセ。単なるお転婆暴力爆弾女だと思っていたが、意外にも仕事に対する姿勢は真面目なのかもしれないな……
「って、うおっ!?」
チトセに付いて橋に向かうとしたところ、ふと視界の端に入った巨大な影に驚き、咄嗟に刀の柄に手を掛ける。
「何!?リソーサー!?」
俺の絶叫を聞き、チトセも両手にブラスターを構え振り返る。
「あっ、先輩。これはパンダのおっきな縫いぐるみですよ。懐かしいな〜、まだ残ってたんだ」
おっきな……縫いぐるみ!?なんだ、驚かせやがって。その巨大縫いぐるみに駆け寄り懐かしそうに眺めるササヤさんの横で、チトセが俺の方をジトっと見ている。
「あんた、まさかこれに驚いたんじゃ無いでしょうね」
「ぐっ……仕方ないだろ、こんな大きなのがこんな所にっ!」
「はいはい、しっかりしてよね、セ・ン・パ・イ」
くぅぅ、いらん恥をかいてしまった。ササヤさんが見てなければこの縫いぐるみ、バラバラにしてやる所だったのに。命拾いしたな。あーくそっ、暑い……
仕方ないのでパンダ橋を進む道中、出てきたマウスやらキャンサーにこの向けどころの無い怒りをぶつける。
「こんにゃろこんにゃろ!」
ガキンガキンと激しい音を立てているのにも構わず、キャンサーの鋏に何度も刀身を打ち付ける。
「先輩、なんだか激しいですね……」
「ササヤさんはああいう人みたいにはなっちゃダメよ」
「わ、分かりました……」
そうこうしながらリソーサーを倒しつつ進むと、ようやくパンダ橋も終わりが見えてきた。
「あっ!先輩、あの石を見て下さい!橋の通称名が掘ってあるんですけど、パンダに合わせて白黒の石が使われてるんですよ!」
ササヤさんの指差す先を見ると、台に乗った確かに黒っぽい石が見える。
「行ってみましょうよ!」
そう言うと、タタっと駆け出すササヤさん。俺も後を追いかけようと思ったが、さっきの今だ。またどんなビックリが仕掛けられているとも限らんからな、ここは用心して周囲をよく観察して……
「……!止まるんだササヤさん!」
「えっ?」
一瞬遅かった。俺が声を掛けた時には、ササヤさんは丁度そこにいてしまった、キメラのその尾に生えた蛇が吐いた毒々しい色をしたブレスをもろに受けた所だった。
「きゃぁ!」
「ササヤさん!チトセっ!ササヤさんが……!」
「見れば分かるわよ!目ぇつぶって!」
そう言うチトセを見ると、既に手榴弾を投げつけた所だった。キメラの目の前に落ちたその手榴弾は炸裂すると同時に、爆音と目をつん裂くばかりの閃光を辺りに轟かせた。
「今の内にササヤさんを!一旦退いて態勢を立て直すのよ!」
「さすが爆弾女!やるじゃないか!」
「誰が爆弾女よ!」
周囲を包む閃光に紛れてササヤさんの元に駆け寄って肩を貸し、何とか引っ張って来る事ができた。
「チトセさん大丈夫か!?」
「うぅ……ごめんなさい私のせいで……」
「まだ何もごめんなさいな状況になってない!それより大丈夫なのか!?」
「目……目が……?スキャナーが真っ暗で何も映りません!」
マジか。各種情報を映し出すスキャナーは、俺達スペキュレイター、ましてやヒーラーにとっては必需品なのに。
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