報告書24「上野駅ダンジョン再び、初陣がいきなり伝説種なのは飛ばし過ぎについて」

 今日もいつものようにササヤさんとトレーニング室で教練に励むが、彼女の動きも大分良くなってきた。もう以前ほどコード入力を間違えないし、リソーサーを強化してしまう事も少なくなってきた。


「あぁ!すいません先輩……反応速度向上Lv1のコード間違えちゃいました……」


 ……まぁ今でも間違える時は間違えるんだけどな。


「うーん、大分慣れてきたと思ってたけど、やっぱり難しいか」


「えっと……このコード入力なんですけどなんだかもどかしくて……もっとすっきりしたのだったら良いんですが……」


「なら入力言語を変える手もあるからな。後でイクノさんに相談してみるか」


「はい!」


「どう、順調?」


 声の方を振り返ると、チトセがトレーニング室に入って来る所だった。ドタドタ足音させずに来るとは珍しいな。


「チトセか。どうしたそんなに物静かにして珍しい」


「失礼ね、私はいつだって物静かよ。それでササヤさん訓練は順調?」


「あっ、えっと、はい!たまに間違えちゃいますけど、基本技はできるようになりました!」


「すごいじゃない!私なんてブラスターを人に当てないようにするのに半年は掛かったわ」


 さらっと恐ろしい事を言いやがる。こんな奴に銃器を持たせて大丈夫なのか。と思いきや、今度は妙に神妙な顔付きをするチトセ。


「それで、本題なんだけど早速S.O.U.R.CEから次の依頼が来たわ……」


「どうした?ササヤさんの初陣だろ。張り切って行こうぜ」


「任務場所は上野駅ダンジョン、回収対象は最近出現が観測された……キメラよ」


 それを聞いて思わずブッと吹き出す。


「キメラだと!?伝説種のリソーサーじゃないか!俺達でもやれるかどうか分からない相手なのに、いくらなんでもササヤさんには荷が重過ぎるだろ!」


「分かってるわ。でもね、伝説種の出現が観測されるのは本当に珍しいの。そして、回収できる資源もまた貴重なものばかりで、回収に成功した企業は漏れなくS.O.U.R.CEから高評価される。私、この機会を逃したくないの」


「いや、しかしだな……」


「先輩」


 声で振り返ると、そこにはこれまで見た事無いほどキリッとした顔のササヤさんがいた。


「私なら大丈夫ですので、やらせて下さい。私、ずっと伝説種と戦うのが夢だったんです」


「でももしもの事があったら……」


「良いんです。最後に夢が叶うんなら満足です」


 ニコッと笑うササヤさん。しかしその言葉には、今まで聞いた事無いほどの覚悟が込められてるのが感じられる。


「はいはい、そんなに心配しないの。イクノの分析によると、今回観測されたキメラは比較的新しい個体で、力もまだまだ弱いらしいわ。だから私達でもなんとかやれるはずよ」


 それを聞きガクッとする。余計な心配させやがって。


「……あのなぁ、それを先に言えよ」


「まっ、でも危険である事には違いないけど、ササヤさんが秘めたる力に期待ね」


「秘めたる力って……」


「さぁさ、さっさと準備して!とっとと出発よ!」


 何言ってるんだか。まぁ俺もササヤさんの真面目さとへこたれなさは一流だと思うけどな。


 各々機動鎧甲を装着し武器を点検、必要な物資を持ち、いよいよ準備は整ったところで出発のためコーギー号に乗り込むが、運転席にイクノさんに助手席にササヤさん、そして後部荷台の座席に俺とチトセが座る事となった。


「そんじゃいつものブリーフィング始めるわよ。場所は上野駅ダンジョン、回収対象資源はキメラの外殻及びテクノロジー他全てよ。伝説種はその全てが上質な資源だからね。依頼主はS.O.U.R.CE、つまりは取り敢えず資源回収してから販売先を見つける緊急任務ってことね。そもそもキメラってのは……」


「周辺に多種多様な生物がいる場合、それらの遺伝子情報を取り込んでまるで合成獣のような容姿となったリソーサーですね!上野駅ダンジョン周辺でよく観測されるのは、近くに大きな動物園があったからと言われてます!」


「その通りよ。やっぱり詳しいわねササヤさん」


「えへへ、私伝説種のリソーサーが大好きなんで」


 キメラと言う単語を聞く度にパッと笑顔になるササヤさんだが、大丈夫だろうか。好き過ぎてやられるのも本望なんて言い出さないと良いが……


 上野駅ダンジョン隔離地域手前の駐車場に到着、コーギー号を降りて準備をするが、そこでササヤさんが何やら慌てながら装着しているヘッドギア型のスキャナーを弄っていた。


「どうかした?」


「えっと、何だか調子悪くてノイズが走るんです」


「どれ、見せてみるんじゃ」


 イクノさんが受け取ったスキャナーにプラグを繋ぎ、携帯端末で動作確認をするが難しい顔をしている。


「ううむ……いかんのう、何せ古いタイプなんでガタが来たようじゃな。こりゃ修理には時間がかかるぞ」


「そんな……」


 落ち込むササヤさん。各種情報を映す視覚補正デバイスであるスキャナーは、スペキュレイターの必需品だからな……無いのは大変困る。


「大丈夫よ、これを使うといいわ」


 そう言うと、コーギー号の荷台に積んであるコンテナから眼帯型のスキャナーを取り出すチトセ。


「えっ、でもそれってチトセさんのスキャナーでは……」


「これは私の予備だから心配要らないわ。ほら遠慮しないで装着してみなさい」


「あっ、ありがとうございます!私眼帯型のスキャナーずっとカッコいいと思ってたんです!」


 半ば涙目になりながら何度も頭を下げるササヤさん。なんだ、チトセも優しい所があるんだな。そしていそいそとスキャナーを着けるササヤさんだが、うーむ……似合ってる。





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