報告書22「VR訓練、ホログラム相手じゃなかったらとっくに死んでいた件について」
ヒーラーの実力を見るのなら前衛役が必要となるのは必然ということで、俺もこのVR訓練に参加することとなった。機動鎧甲を装着するには、まず信号伝達素材で作られたインナーを着る必要があるのだが……
「もう着替え終わったのかの?そっちに忘れ物を取りに行きたいんじゃが……」
「あっ、待ってくださいイクノさん!もう少しですから」
ここには更衣室は一つしかないのでササヤさんが使っている間、俺はこうして格納庫の物陰でインナーやらなんやらに着替えるハメになるのだ。全く、女ばかりの会社ってのに昔は憧れたもんだが、実際には肩身が狭いだけだ。
「そうそう、言い忘れてたけど……」
そこに飛び出してきたチトセとバッチリ目が合う。こちらは絶賛ズボンをおろし中。そして時が止まったーー。
「いやあああ!何してんのよ変態!」
という叫びにより再び動き出す時。そしてチトセが次にとった動作は、腰のブラスターピストルを抜きこちらに乱射してくる事だった。
「やっやめろー!そっちが悪いんだろー!」
両手で頭を抱えて伏せるが、バシュンバシュンというブラスターの発射音、そして壁やらテーブルなどに命中して響き渡る炸裂音、その後に漂う焦げ臭い匂いに、俺の頭の中には今までの思い出が駆け巡るのだった。あれ……あんまりいい思い出が無いな……
「全く……ササヤさんは準備できたようじゃぞ。チトセ達も遊んでらんと、さっさと支度するのじゃ」
そんな俺達を見て、呆れ顔のイクノさんに驚き顔で慌てるササヤさん。結局、チトセのブラスターピストルが発熱過多で止まったためなんとか助かったが、危うく死にかけた。全く、こんな酷いシャチョーと同じ職場じゃ命がいくつあっても足りないぜ。
その後、ようやく落ち着いたチトセとイクノさんが見守る中、俺とササヤさんはトレーニング室に入り、頭にVR訓練用のモニター一体型のヘッドギアを装着、準備万端となった。
「こほん、さぁて2人とも準備出来たかしら。これから始めるVR訓練は、リソーサーの動きをコピーしたホログラムと戦う形式だから遠慮なくビシバシやりなさいね。それじゃイクノ、投影お願いね」
「了解じゃ」
「えっと、よろしく願いひます!」
両手でヒーラー用の携帯型送信機、通称・ロッドを握りしめるササヤさんは、もう一目で分かるくらい緊張しきって言葉もカミカミだ。
「訓練だから怪我はしないさ。気楽にやろう」
「ひゃ、ひゃい!」
大丈夫かな……なんて考えてると、ヘッドギアの画面中央に白く小さなポリゴンが集まり、一体のリソーサーを形作り始めた。こいつは……
「今回の相手はジラフにしたわ。上野駅ダンジョン周辺エリアに出没するキリン型の大型リソーサーよ」
「いきなりこんな大物とかよ!最初はマウスとか段階を踏んでだな……」
「それじゃあ、はじめ!」
「聞けよ!」
くそっ、チトセの無茶振りは今に始まった事では無いとは言え、こんな大物相手にしなきゃいかんのか……いや、今はヒーラーのササヤさんがいる。2人ならジラフ一体どうとでもなるはず!
「ササヤさん、キリン型リソーサー・ジラフはその長い首全体と頭部から突き出した角が合わさって、大型の槍首となっている強敵だ。正面から行くとまともに突撃を喰らうことになるから、反応速度向上と加速力向上を頼む。それで奴の背後に回り込めば、勝機はある!」
…… ……
背後にいるばすのササヤさんに話しかけるが、返事が無い。おかしいな、聞こえなかったかな?
「ササヤさん……?」
振り向くと、そこには驚きでで目を見開き、カチンコチンに固まっている1人の少女がいた。
「ササヤさんしっかりして!あいつはただの幻だ!反応アップと加速アップをお願い!」
「えっ、はいっ!えっと、は反応速度向上はこのコードで……あぁ!」
手からロッドを落としてしまうササヤさん。カランカランと音を立てて転がるロッドをなかなか掴めず、四つん這いで追いかける姿は一周回って可愛らしい。
「落ち着い……ぐふぉ!」
余所目していた所にジラフの得意技、チャージという名の頭突きを思い切り受けてしまった。訓練モードの機動鎧甲が生み出す衝撃も弱く痛みも無いが、実戦だったら死んでたかもしれないと思うと冷や汗が出てくる。現に今の一撃でスキャナーからは損傷警告が鳴り響いている。このままじゃやばい、やばい!
「ササヤさん!とりあえず回復を!このままじゃやられる!」
止めを刺そうとジラフが振り回す首を刀で受けるが、くそっ、一撃が重い。
「ササヤさん!早く!」
「はっ、はい!できました!」
ようやく拾えたのか、ロッドを向けて信号を送信するササヤさん。あぁ、でもその向いてる先は……
「あっ、間違えちゃいました……イロイロと……」
反応速度向上を受け、凄まじい速さで振り下ろされるジラフの槍首。その一撃をまともに受け、俺は地面に伏した。
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