報告書21「新入社員、新たなる戦力と新たなる受難について」

 面接とは名ばかり、会って1分でササヤさんの採用が決定してから1日が経った。俺が一晩寝ずに作った相当問答集は一体何の意味があったのか。いや意味なんてなかったのだ……そんな事を考えながら朝から事務所のデスクでうなだれていると、トーストを咥えながらチトセが走り込んできた。


「おっはよー!今日から期待の新人が我が社に来るので、よろしくね!」


「おはよう……ってそれどころじゃ無いだろ。なんなんだ昨日のは、あれのどこが面接なんだ」


「何よ。意味も無くグダグダ続けるよりも、こういうのはスパーンと一思いに決めちゃった方がいいのよ」


「いやしかし、他の志望者の面接はどうするんだよ」


「そんなもんいないわよ?ウチへの就職希望を出したのは、あの子だけなんだから」


 マジかよ。いやここはやっぱりというべきか。にしても、何が"就活生が群れをなしてやって来る"だ。


「しかし、もう少し即戦力になるのかとか人間性を見た方が……」


「あんたねぇ、養成学校出たてが即戦力になる訳ないでしょ。本当に即戦力が欲しければ他社からの転職組を募集するわよ。それに人間性なんかちょっと話しただけで分かるわけないでしょ。大事なのは、どう教え、何を経験し、どんな成長するかよ。その点、彼女は私の見たところ成長余地大有りなのは明らかよ」


「それはそうかもしれないけど……」


 いつもの適当さから即断したのかと思いきや、意外とチトセなりに考えているようだ。それにしても豪胆に過ぎるとも思うが。


「いいから任せときなさいって。なんせ私の人を見る目に間違いは無いんだから」


 そう言うと、コーヒー片手に自信満々なドヤ顔を極めるチトセ。それが本当だということを切に願う。何も今回の事だけじゃないからな。なんて話をチトセとしていると、扉にノックの音が。どうやら話題のササヤさん初出社のようだ。


「どうぞ!」


「失礼します」


 丁寧にお辞儀をして入ってきた、スーツに身を包んだササヤさんの顔は、未だ緊張しているのかやや強張っているのが見て取れた。


「えっと、今日はお世話になりますササヤですっ!誠心誠意頑張りますのでよろしくお願いします!」


「私がこのMM社シャチョーのチトセよ、よろしくね。そんでもってこっちは平社員のイワミ。後もう1人いるんだけど、今は格納庫に篭りっぱなしでね、後で挨拶しましょう」


「よろしく。こんな見ての通りの零細企業、辞めるなら今……おぐっ!」


 腹にチトセの肘打ちをくらい、衝撃で言葉が詰まる。くぅいてて……


「と、とんでもないです!沢山の企業を受けたんですが、私ドジだから全部落ちちゃって……だからもうここが最後のチャンスなんです!」


 あぁなんて健気な子なんだ。シャチョーと名乗るこの女も見習って欲しいものだ。


「見る目が無い企業なんて気にする事なんて無いわ。さて、早速だけどササヤさんは養成学校では対応支援部……要はヒーラーを専攻していたそうだけど、間違いないかしら」


「あっ、はい!えっと、私昔から入院ばっかりで実際の戦闘は苦手なんですが、少しでもみんなの役に立てればと思って……」


 なんだ、チトセのやつちゃんとヒーラーを選んで採用してたのか。いや待てよ、たった1人の希望者が偶然ヒーラーだったと言った方が正確か。


「それじゃ早速だけど、VR訓練と行きましょう!」


「えっと、今すぐですか?」


「もちろん思い立ったら吉日の今すぐよ!ほらこっちよこっち!」


 戸惑うササヤさんの背中を押して格納庫へと向かうチトセ。朝っぱらから大変だな。俺はうるさいのがいない隙に優雅な朝飯でも食べてから見に行くとするか。


「何ボサッとしてるのよ!ヒーラーの腕を見るんだからあんたも来ないと始まんないでしょ!」


「俺もかよ!」


 チトセに言われて仕方なく渋々格納庫へ向かう。結局今日の朝飯は起き抜けに飲んだコーヒー一杯だけだよ全く。


 格納庫に降りると、イクノさんがササヤさんと挨拶を交わしていた。


「今日からお世話になりますササヤです!えっと、がんばりますのでよろしくお願いします!」


「うむ、技術担当のイクノじゃ。よろしくの、ササヤさん」


 イクノさんはつい今さっきまで機動鎧甲の修理をしていたのか、着ているツナギや顔にも汚れが付いてた。いやはや本当にお疲れ様です。


「それでどうしたのじゃチトセ。修理ならあらかた終わったところじゃぞ」


「それは丁度良かったわ。早速ササヤさんの力、VR訓練で見せてもらおうと思ってね。ヒーラー用のヨロイを彼女に用意して貰っていいかしら?」


「おぉ、それならお安い御用じゃ。今出してくるので、少し待っとるのじゃ」


 そう言ってイクノさんが奥から出してきた移動式ハンガーに乗った機動鎧甲は、濃いオリーブ色で心無しか俺たちの持つ機動鎧甲よりもやや細身に感じられた。


「MCL-08"オケガワドウ"じゃ。防御力と出力は控えめじゃが、その分バッテリー容量に余裕があるヒーラー、ソーサラー用の機動鎧甲じゃ」


「早速装着してみてササヤさん」


「えっと、あっ、はい!」


「装着の仕方が分からないといけないな。俺が手伝うぎぃぃ!」


 今度は足に激痛が。見るとチトセが踏みつけ、グリグリしてるではないか。


「何が''手伝う"よっ。次セクハラしたらコ・ロ・スか・ら」


「俺はただ……あぐぁあ!」


 俺とチトセのやり取りを、目を丸くして見ているササヤさん。何にしてもヒーラーが新たに入社したってのは、戦略の幅が広がるしいい事尽くしだ。もちろんこれから披露される、ササヤさんの腕による所もあるけどな。

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