報告書14「新機能、職場の技術者が狂気の発明家だった件について」

 チトセの温情により貰った備品購入手当を使いイクノさんに義手の改造を頼んでいたが、ようやく完成したとの事なので早速受け取りに向かうことにした。やはり左腕が無いってのは不便で仕方ないからな。それにしても、以前の任務でのハウンドとの戦闘記録を参考にしたと言うが、果たしてどのような新機能が追加されたのだろうか、楽しみだ。


「イクノさん、義手の改造終わったんですって?」


「おぉ、待っておったぞ。これが新機能搭載義手じゃ」


 と言われ、作業台に置かれた義手を見てみたが、早速変わった部分が一つあるのに気がついた。肘部分に追加されたロケット噴射口のような部品だ。ってこれはもしかして……


「え〜っと……取り敢えず新機能について説明してもらっていいですか」


「うむ、前回の戦闘記録を見ていてわしは気付いたのじゃ。接近戦を仕掛けてくるリソーサーに対しては、太刀以上に取り回しのいい武器が必要じゃと」


「確かに。組み討ちになった時を考えると、太刀の他にも脇差とか、そういう武器が必要ですね」


 ハウンドに食い付かれた時は、引き剥がすのに中々苦労したからな。解体用プラズマナイフも戦闘用では無い以上、多用は出来ないし。さすが現場派の天才、目の付け所が違う。


「そこでじゃ!わしは考えた結果、最も取り回しのいい武器をこの義手に加えたのじゃ。いや、正確に言うとこの義手自体を取り回しの良い武器にしたのじゃ!」


「それってもしかして……」


「この肘部分の噴射口から瞬間的にロケット噴射をする事で、パンチの威力を飛躍的に向上させるのじゃー!」


「やっぱりロケットパンチか!」


 噴射口見た時から薄々感じていたが、まさかその通りだったとは……さすが天才、発想が斜め上過ぎる。


「さぁさぁ、早速装着して試してみるのじゃ」


「いや、しかし、リソーサー相手にロケットパンチなんて……」


 かなり渋る俺に構わず、慣れた手つきで義手を装着させてくれるイクノさんを見たら、もうそれ以上何も言えなかった。なんて輝いた目をしてるんだ……


「はぁ……仕方ない。それで、どうやって起動するんですか?」


「ロケット噴射も神経接続しておるからの、手を動かす時のように、ただ意識すれば良い」


「ただ意識するって言っても……」


 そう言われてもピンと来ないので、手をぐっぱした後、少し肘部分に力を入れてみると……


「どわぁぁぁあ!」


 義手のロケット噴射が起動、凄まじい推進力によりそのまま身体ごと引き摺られて壁際の棚へと突っ込み衝突。ガラガラと音を立てて崩れるガラクタに埋もれてしまったのだった。


「ふぅむ……起動手順には少し制限が必要なようじゃのう」


 それを見て冷静な分析をするイクノさん。


「はいはい、遊んでないでみんな集合して。新しい任務が来たわよ」


 丁度事務所から降りて来たチトセも、ガラクタに埋もれた俺を見て呆れたような顔をしている。ここには身を張った俺を労ってくれる奴はいないのか。


「もう次の任務じゃと?これまで任務の斡旋なんて一週間に一度、あるかないかというペースじゃったのに」


「それがね、前回ブラッド・ハウンドを倒したって事でS.O.U.R.CE内での私達の企業評価も上がってるらしいのよ。このまま行けばランク上昇も間近ね」


 ランク、つまりはスペキュレイターランクとは、軍事資源回収企業に所属するスペキュレイターを任務達成率や回収成績、強さを基に格付けしたもので、特1級から5級までランク分けされているものだ。ランクが上がれば高難易度高報酬の依頼が斡旋されるようになり、より儲かるという仕組みだ。ちなみに今俺とチトセは4級、駆け出し同士なので、まだまだ頑張らないといけないと言う事だ。


「なんと、すごい進歩じゃのう。それで次の任務はなんじゃ?」


「場所は千葉駅ダンジョン、回収対象資源はサーペントの外殻よ」


「なんだ、また千葉駅ダンジョンか」


 2人とも俺には目もくれないので、仕方ないので自力でガラクタをどかしつつ、何とか這い出す。それにしても、機動鎧甲装着無しの生身の状態でよく無傷で済んだな。我ながら自分の強運に驚く。


「なんだとはご挨拶ね。同じ千葉駅ダンジョンと言えども、エリアが違えば様相もガラッと変わるのを知らないようね。まあいいわ、詳しくはブリーフィングで説明するからさっさと準備しなさい!」


 チトセが急かすので、仕方なく機動鎧甲の装着を始める。それにしてもこのロケットパンチ機能、出力は高いので、何かもっとまともな攻撃に応用できないだろうか。

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