報告書12「変異個体、赤い猟犬には要注意な件について」
より多くの資源を回収するため、上階を目指す事となった俺たち。イクノさんの指示通り、一旦改札口を出て、向かいにあるかつての商業スペースから階段を使い、3階から4階まで登ってきたは良いが、それより上へと向かう階段は完全に瓦礫で埋まってしまっていた。
<<フロアの中に入って通れるエスカレーターを探すのじゃ。フロア内は当然リソーサーの巣になっておるじゃろうから気をつけるのじゃぞ>>
「りょーかい。やっぱりそう簡単にはいかないか」
薄暗いフロアをスキャナーに映し出されるマップを頼りに、出てくるリソーサーを倒しつつ進んで行く。途中、フロア中央部にある吹き抜けから下の階が見えたが、ハウンドが数体、何かの機械部品を奪い合っているのが見えた。まさかやられた同業者の装備じゃないだろうな?俺もやられたらあんな風に食われるのだろうか。そんな不安が頭をよぎる。
「ちょっと大丈夫?顔色悪いわよ。まさか今更になって怖くなってきた?」
「そ、そんな訳あるか」
「心配しなくても相手は所詮普通のハウンドよ。気軽にいきましょ。あんた筋はいいんだから、ごちゃごちゃ考える暇があったら斬る。それで何とかなるわよ」
「分かってるよ」
まるで俺の不安を見透かしているようなチトセ。いけないいけない。何をビビってるんだ俺は。
ようやく崩れていないエスカレーターを見つけ、上へと昇る事ができた。5階もまた荒れ果てた店舗跡が通路の脇に並ぶ構造だったが、一部崩れて通れなかったので迂回すると、急に曇った空が見えてきた。
「ここは……?」
「駅上広場、かつては屋上庭園があった場所よ。今では荒れ果てて見る影も無いけど」
そこに例の独特な機械音のような遠吠えが辺り一面から聞こえてきた。
「来たようね。周囲を警戒して!」
「あぁ!」
またチトセと背中合わせに立ち周囲を見渡すと、ハウンドの群れが続々と姿を現した。
「あれは……?」
群れの中に通常色の黒いハウンドに混じって、一体だけ赤い色をしたハウンドがいるのに気がついた。おまけに色だけでなく、体格も一回り大きい。
「チトセ、あの赤いの、あれもハウンドなのか?」
「あれは……!イクノ、大変よ!ハウンドの"変異個体"が出たわ!」
チトセの慌てぶりからも、あの赤ハウンドが尋常じゃ無いってのが分かる。
<<うむ、ハウンド変異個体、通称チー……ブラッド・ハウンドじゃな。レアメタルを多く摂取する事で強力化した個体じゃ。目撃例が少なく、データもあまり無い!気をつけるのじゃ!>>
「とにかく強いって事か!取り巻きのハウンドも多いし、ここは一旦退いて囲まれないように中の通路で戦おう!」
「ダメよ!逃げられたらどうするの!ここであいつを仕留めるのよ!」
「しかし……!」
「納期も迫ってる今、安全第一なんて言ってられない状況よ!やるっきゃ無いのよ!」
「あぁもう、分かったよ!」
無茶苦茶言うシャチョーの銃撃を合図に、群れへと斬り込む。しかしこちらから攻撃を仕掛けると、ハウンドは後ろに跳んで斬撃を避けやがる。やはりじっくり攻めなきゃダメだ。
「危ない!」
「ん?……うおっ!」
チトセの声でなんとか避けれたが、なんとあの赤ハウンド、背中の銃火器が機関銃から高威力のプラズマ砲に換装されてやがる。あんなの当たったら機動鎧甲といえども大ダメージだぞ。
「くそっ……!このままじゃジリ貧だぞ、どうする!?」
「どうするって、こう開けた場所じゃあの動きの速いハウンド相手じゃ中々捕捉できないし、どうするのよ!」
「考え無しかよ!ここで殉職なんて最悪な結末だぞ!」
「私だって犬の餌なんて嫌よ!」
だぁぁ!これだから利益追求しかない経営者は!お前なんて犬も食わないっての!……ん?犬の餌?
「そうだ!チトセ、デカ物の発射準備だ!」
「はぁ!?あんた話聞いてた!?いくら私でもこの状況で当てるなんて……」
「俺が一箇所に集める!いいから急げ!」
「わ、分かったわよ!」
背負っていた多目的ロケットランチャー"クニクズシ"の発射手順に入るチトセ。こいつの榴弾は攻撃力と加害範囲に優れているから、ハウンドを一箇所に集めればまとめて倒せるはずだ。問題はどうやって集めるかだが……
「ほら犬共!餌だぞ!」
俺はコンテナから引っ張り出した、マウスから回収した資源やら予備のバッテリーやらを次々と放り投げた。すると一目散に駆け寄り、群がるハウンド。やっぱりだ。吹き抜けで見たハウンドは随分飢えていたが、こいつらも同じのようだ。
「今だチトセ!」
「オーケー!行くわよ!」
激しいバックブラストを巻き起こしながら発射された弾頭は真っ直ぐハウンドの群れに飛翔、そして着弾。大爆発と共に、ハウンドの群れを一網打尽にした。
「ふぅー、なんとかなったな」
「さすがアタッカー!なかなかやるじゃ無い」
アタッカーは関係無いんだけどな、と思いつつ煙立つハウンドの残骸の山を見ると……
「危ない!」
咄嗟にチトセを押し倒した直後、その上スレスレを閃光を曳いてプラズマ弾が飛んで行った。なんとあれだけの爆発にも関わらず、あの赤ハウンドはまだ立っていたのだ。
「さすが変異個体、一筋縄ではいかないようね……いいから早くどきなさいっ」
そう言いながら、上に覆い被さる俺を足で退かすチトセ。助けてやったのにあんまりな扱いだ。
「やっぱり最後は正攻法だな。俺が行く、チトセは援護してくれ」
「ふっ、ビビリはもう消えたようね。気張って行きなさいよ!」
その言葉を背に、赤ハウンド目掛けて一直線に駆け出す。正面から放たれるプラズマ砲の攻撃を、一発目は横になぎ払い、二発目は真っ直ぐ下に斬り落とし、三発目は左下から斬り上げた。そして四発目を撃たれる寸前で間合いに入り、砲身を左手の義手で掴み無理やり軌道を変え、右手に持った刀を胴体に突き刺してやったが、それでもまだ機能停止しない。それどころか、首筋向かって噛み付いてきやがった。
「くそっ、こいつ!」
なんとか両手で抑えるが、電撃が走る剥き出しの牙はもうすぐそこだ。しかも背中の砲塔が回転、こちらを捉えやがった。
「くっ……!」
目を瞑った次の瞬間、無数の爆発音が鳴り響き、目の前に激しい閃光が走ったのが、瞼越しにも感じられた。恐る恐る目を開けると……炸裂ボルトを何発もくらい、焼け焦げだらけの赤ハウンドが崩れ落ちる所だった。
「お疲れさん、今度こそ倒したようね。さすがは変異個体って所かしら」
そう言うチトセのブラスターは緊急冷却中らしく、湯気を勢いよく吐き出していた。どうやら砲身の限界まで撃ち切ったらしい。
「ふぅ〜……全く勘弁して欲しいぜ」
解体した赤ハウンドからレアメタルにハイテクノロジーが回収できたと大はしゃぎするチトセを尻目に、疲れて座り込んでしまった俺は、ただ天を見上げるばかりだった。
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