報告書11「ハウンド、社畜を追い回す猟犬について」
次から次へと湧いて出てくるマウスを倒しつつ、ようやく3階改札口前広場へと出た。かつては行き交う乗客で活気に溢れていたであろう場所も、今では目に入るのは瓦礫と機械部品を取り合うリソーサーばかりだ。
「こちらチトセ、改札口前まで来たわよ」
<<うむ、その改札口を越えた先がハウンドの出没地域じゃ。ハウンドは群で連携して襲いかかってくるのでの、気をつけるのじゃぞ>>
「心配いらないわ。期待の新人くんがヘマさえしなければ楽勝よ」
見え透いたお世辞と圧力を同時にかけてきやがる。何が期待の、だ。と思いつつも、やっぱり内心少し嬉しい俺はどうやら単純な人間らしい。
「で、新人くん。ハウンドくらいはもちろん知ってるんでしょうね」
「あったり前だろ。猟犬型で、主な武装は電磁牙と背中の銃火器、群での戦闘を得意とするリソーサー……だろ。と言ってもVR訓練でしか戦った事は無いけどな」
「さすがね。と言いたい所だけど、実物はVR訓練のようにはいかないから気をつけなさい」
「へいへい」
2人で話しながら改札口を越えると、そこは左右前方と広く見通しの良い通路上の場所だった。駅ダンジョンと言う割には、あまり迷わない単純な構造だ。とは言っても、通路脇はかつてエキナカ商業施設だったらしく崩れた店舗があり、そこにリソーサーが潜んでいるとなれば奇襲を受けかねない造りだ。
ブラスターを両手に持ち、ジリジリと進むチトセ、その後ろから背後を警戒しつつ続く俺。すると構内にギアが軋むような音が混じった遠吠えが響き渡った。
「来たわ!正面3体!」
「こっちからも3体だ!」
「早速挟まれたようね……そっちの3体、いけるわね!?」
「あっ、ああ!いけるぞ!」
それを合図に、それぞれ正面のリソーサーと戦闘を開始した。ハウンドの背部機関銃の攻撃を、横へのとんぼ返りで避けつつブラスターを撃ち込むチトセ。
対して俺は、正眼で構え、焦らずハウンドを常に正面に捉えるよう動いて位置取りをした。そこに飛びかかってきたのを横に身を翻しつつ両断、まず1体。すると離れた所にいたのが銃撃してきたので、スキャナーに表示される予測弾道に刀を合わせ弾きつつ駆け寄り、頭部を斬り飛ばす、これで2体目。さて残り1体は……と思い周囲を見渡そうとすると、死角からいきなり飛びかかってきやがった!
「くそっ!」
咄嗟に防御した右腕に食らいつくハウンド。その牙からは火花が散り、スキャナーには機動鎧甲の損傷警告が鳴り響く。
「このヤロッ、離しやがれ!」
右手を振り回してなんとか振り払おうとするが、食いついて離れやしない。そんな事をしていると、今度はスキャナーに攻撃警告が。見るとさっき頭部を飛ばした2体目が火花を散らしつつふらつきながらも立ち上がり、こちらに赤い照準用のレーザー光を飛ばしてきているのだ。
「まじかよ!」
ハウンドの連携攻撃がここまでとはっ。密着状態では使い難い太刀型のヒトマルに代わり、後ろ腰に装備されている解体用のプラズマナイフを引き抜くと食らい付いて離さないハウンドの頭部に左手で深々と突き刺してやった。すると左手の義手は凄まじい力を発揮し頭部を貫通、そのままもぎ取ってしまった。
「くそぉ!次はどいつだ!」
もぎ取った頭を投げ捨て、刀を構え直し先ほどの2体目に向き直る。が、その2体目は発砲する瞬間、横から飛んできたブラスターの炸裂ボルトで今度こそ完膚無きまでに破壊されたのだった。
「ふぅ、危なかったわね。大丈夫?」
ブラスターの構えを解くチトセ。冷却中なのか、銃身からは湯気が出ていた。
「あっ、ああ。なんとかな。すまない、助かった」
そう言いながら、まだ動いていた先ほど頭をもぎ取ったハウンドに刀を突き刺し止めを刺す。頭部を失ってもまだ戦闘を継続するとは……確かにVR訓練とは違うな。
「それじゃさっさと資源回収しちゃうわよ。日没までには終わらせないと」
そう言いながら、何事もなかったかの様にまた鼻歌混じりにハウンドを解体しだすチトセ。全くウチのシャチョーは大した人だ。
「うーん、規定量までまだまだね。ペース上げていくわよ!」
「えっ、あっ、あぁ……全く人使いが荒いな」
「文句言わないの!働かざる者飯抜きよ!」
またチトセにゲシゲシと尻を蹴られながら、折畳式コンテナに回収した資源を詰め込む。しかし、あんだけ苦労したにも関わらずコモンメタル製の外殻にコモンテクノロジーばかり。確かにこれだとまだ大分倒さないと。全く、働くってのは辛いな。
「それでイクノ、ハウンドがもっと多く湧く場所は無い?」
<<少し待っとれ……うーむ、やはりペリエエリアを上階に行くほど、リソーサーはより多く強くなっていくようじゃ>>
「それじゃ決まりね、上に行くわよ。納期も迫ってるし、ビシバシ回収するわよ」
初任務からこれとは、OJTという制度はこの会社には無いらしい。とは言え、俺もこの千葉駅ダンジョンを舐めたような事を言ってしまった手前、やるっきゃ無いか。俺のバカ。
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