報告書10「千葉駅ダンジョン、真・初任務について」

 コーギー号を走らせる事数十分、視界を遮る高い壁が見えて来た。どうやら千葉駅ダンジョン隔離地域へと到着したようだ。


「さてと、ここからは徒歩よ。それじゃイクノ、留守番とオペレーターお願いね」


「うむ任せておけ。チトセ達も気をつけるのじゃぞ」


 そう話すと車から降りて積んでいたコンテナを引っ張り出すチトセ。おいおい、駅ダンジョンまでまだ距離があるぞ。


「なんだ、直接隔離地域に乗り付けるんじゃないのか?」


「そんなわけないでしょ。リソーサーに車潰されちゃったらどうするのよ」


 なるほど、確かに足が無くなるのは困る。と思いながらチトセを見ていると、両腰にブラスターピストルは良いが、なんとコンテナから多目的ロケットランチャーを取り出し、背負い始めたではないか。


「おいおい、そんなデカブツ持ってくのか?」


「当たり前じゃない。前回この"クニクズシ"を積み忘れるなんてヘマしなければ、ゴリアテなんか粉々にできたんだから」


 ガンナータイプのスペキュレイターなのは良いが、何というか性格が如実に現れた武器チョイスだ。なんとなくだが、ロングレンジブラスターライフルで後方支援なんてのはチトセには似合わない。


 そして俺たちは隔離地域に唯一つだけある出入り口まで歩いて行き、警備している自衛軍にIDを提示、遂に駅ダンジョンへと踏み出した。背後から聞こえる二重の隔壁が閉まる重々しい音は、まさに任務開始の合図だ。


 そこから既に廃線となっている高架線路沿いに歩いて行くと、一際大きな建物が見えてきた。ただ高いだけで無く、何というか、分厚い建物だ。


「見えたわ、あれが千葉駅ダンジョンよ。現在出現するリソーサーは確かにトシンエリアよりかは一段下がるけど、地上7階に地下で構成された通称ペリエエリアを中心に、複数のエリアに別れたなかなか規模の大きいダンジョンよ。本当はあんたみたいな素人が来ていい場所なんかじゃないんだからね」


 ゴクリ。話で聞いていたよりもずっと迫力のあるその威容に、思わず息を呑む。これは気引き締めていかないと生きて帰れそうにないな。なんだか急に心配になって来た。千葉駅ダンジョン〜?なんて調子乗った事言うんじゃなかった。


 周囲を警戒しながら外階段を登って2階から中に入ると、そこにはまた大きな階段が上まで続いていた。


「イクノ、聞こえる?中に入ったわ」


 <<聞こえるぞ。こちらでもそちらの位置は確認できておる。ますばその階段を登って3階改札口前に出るのじゃ>>


「りょーかい、ほら行くわよ」


「へいへい」


 ゆっくりと歩き出すチトセの後ろについて階段を一段また一段と登り始める。それにしても随分と長い階段だ。


「うおっ!リソーサーだ!」


 なんて考えていると、階段脇の元はカフェだったらしい場所から急にリソーサーが飛び出して来た。


「マウスね!とっと片付けるわよ!」


 チトセは突然飛び出して来たリソーサーにも素早く反応、目にも止まらぬ速さで腰からブラスターピストルを抜き、マウスに向けて連射を始めたのだった。俺も刀の柄に手をかけ、すかさず前に出るようとするが……


「ここは俺が!」


「もう倒したわよ。効率良くいかなきゃノルマ達成できないわよ」


「えっ、あっ、そうか……」


 そこには既にチトセの攻撃を受け、破壊し尽くされたマウスが。それを微妙な鼻歌交じりに慣れた手つきで解体に取り掛かるチトセ。思ってたよりもこのジャジャ馬、そうとう強いようだ。


「ほらボッとしない!次、来たわよ!」


 見ると階段の上からマウスが5体、こちらに向かって来ている。


「ようし、やるぞ!」


「後ろから援護するわ!ゴリアテ倒したその腕、期待してるわよ!」


 倒したんじゃ無くて退けただけなんだけどな。しかも無我夢中で覚えてないし。まあでも期待してるなんて言われるのは初めてだが、悪くない。そう思うと、愛刀ヒトマルの柄を握る手にも自然と力が入る。


 チサトの銃撃に合わせて群の中へと走り込む。正面から飛び掛かり攻撃をしてくるマウスにタイミングを合わせて斬り込むと、さすが高出力プラズマブレード、マウスを一刀両断した。


「次右!行ったわよ!」


「任せろ!」


 2人で声を掛け合いながら、次々とマウスを片付けて行く。そして最後の一体も、俺の攻撃を避けようと後ろに飛び退いた所を、チトセが狙い撃ち、難無く撃破した。


「ふぅ〜、お疲れ。あんた初めてにしちゃなかなかやるじゃない。剣術一位は伊達じゃ無いって訳ね」


「えっ、あっ……ありがとう」


「何よ、急に素直になっちゃって。もういっぱいいっぱい?」


「そんな訳あるか。まだまだ行けるって」


「それじゃ、がんばってよね」


 クルクルと手許で回していたブラスターを腰のホルスターに収めるその仕草からは余裕が感じらる。それにしても褒められるなんて慣れてなくて、つい口籠ってしまった。BH社にいた頃は怒られてばっかだったもんな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る