取り残された側からすれば


「また死んだな」


「また死んだね」


茶髪の料理人の言葉を繰り返す。

私はカフェオレをすすり、彼はサラダをつつく。

外は穏やかな青空が広がっており、誰かが死んだとは思えない空模様だ。


何だろう、誰かが死ぬたびに呼び出されるシステムでもあるのだろうか。

ラジオのおたよりコーナーじゃないんだから、やめてほしいんだけど。

私だって暇じゃないんだけどなあ。


「最近、やけに多くないか? そういうの」


金髪とまったく同じ質問をしている。

単に偶然が重なっただけだし、死神が何かしているわけじゃない。

説明も面倒だから、私は何も言わないことにした。


確かに心身は削られ、追いつめられていたのだろう。

幼い子どもがいたと聞いたし、孤立状態に近かったのだと思う。


業務の特性上、人の感情がより聞こえやすいんだろうし。

それも追いつめられた要因になるのだろうか。


「取り残された側からしてみたら、溜まったもんじゃないと思うけどね」


「それは言えてる。

そう考えると、死は救済ではなく、ただの事実でしかないってことだな」


彼にとって経緯は関係ないということか。

死はあくまでも死であり、それ以上の意味を持たない。

つまりは、受け取る側の問題か。


「てか、アイツはどうしたの?」


今日の話相手はいつもの金髪じゃない。その友人である料理人だ。

こういう話をしたがるような奴には見えなかったから、少し意外だった。

金髪ならこのへんで持論を展開しつつ、分かりやすくまとめてくれているんだけど。


こいつの場合、どうするんだろう?

とっ散らかった話をどう料理するつもりだ。


「電話機の前から離れられないんだと」 


「何でアンタはキッチンから離れてんのよ」


「休憩中の貴重な時間を割いて来たんだ。世間話でもしようかと思っただけさ。

この前、自殺したアイツとは会えたか?」


「誰のこと言ってんのよ……」


心当たりが多すぎて困る。せめて名前を言ってくれ。

自殺を含めてこれまで何人死んでると思ってるんだ。

特に感染症が流行り出してから、死者は増えに増えていると言うのに。


「アンタは気楽でいいね。死人から一番遠いじゃない」


「死者を出さないための努力をしてるだけだ。

理由を聞けたら聞いてこいって、アイツから頼まれたもんでね」


それは自分が興味あるから聞いてるだけなのではないだろうか。

金髪の性格と立場からして、そういうことは聞いてこない。


「理由なんていちいち聞いてらんないよ。何人いると思ってんのさ」


この料理人、思っている以上にエグい性格をしていると見た。

なるほど、伊達に友人を名乗っているわけじゃない。

アイツの話についていけるだけのメンタルは持ち合わせているわけだ。


「じゃあ、死人を船に乗せて届けるだけか?」


「いや、それは別の担当。

私は死んだ奴をお迎えに行って、船に乗せるところまでだよ」


「そうなのか。お疲れ様です」


話をまとめるようなこともせず、他人事のように言ってのけた。

彼はひたすらに食事を続けるのだった。


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