自殺できるヤツが妬ましい
「自殺できるヤツが妬ましいとか言って生きてる奴って何なんだろうね」
「死ぬ勇気がないだけでしょ、単純に」
今度はこっちがばっさりと叩き切った。
おもしろくなさそうに頼んだカフェオレをすする。
死神同士で議論しても答えが出ないから、私を呼んでいるのだろうか。
そうだとしたら、毎回呼ばれる私の身にもなってほしい。
「本気で死ぬ奴はその決意があるからね。
そうなったら誰にも止められないさ」
本来であれば、生物は死ぬことに対して恐怖するものだ。
何が何でも生きようとする生存本能が備わっている。
自分の死を願うこと自体、矛盾している行為だ。
それは人間でも大して変わらない。
死にたいとどれだけ思っていても、実際は行動に移せない場合が多い。
その間の溝にハマりこみ、悩む人のなんと多いことか。
その点、自殺者は本能を越えて死地へ向かう。
本当に死にたかったから、彼らは死ぬことができた。
それを決意という言葉以外、何と表現すればいいのだろう。
電話中にそのような流れに出会ってしまったら、警察に通報するように言われている。私たちにはそのくらいしかできない。
「いや、結構あるんだよ。自殺するのに失敗してこっちがフライングしたみたいになるのってさ。マジやめてほしくない? どうせ死ぬならすっぱり死んでほしい」
「……私に言われても困るんだけど」
「この前、お迎えに行ったときの話だよ。マジ理不尽すぎる」
私と話をして生きのびた奴は、今頃どうしているのだろうか。
どうにか今も生きているのか、私の知らないところで死んでしまったか。
結果はそのどちらかでしかない。
「ソイツは天井から首吊ってたんだけどさ、結局ヒモから頭がすっぽ抜けてぶっ倒れちゃって……。しかもその瞬間、窓越しに目があっちゃってさ。もう気まずいったらないよね」
冷静になって聞くと、とてつもなく物騒な会話だ。
死神以外に誰が分かるというのだ、その状況。
思わず周囲を見渡してしまった。
「大丈夫だよ、こんな変人どもを見る馬鹿なんていないって」
変人だからこそ、目がいくんじゃないかな。
誰に聞かれているとも分からないのに、よく話せたものだ。
「通報したんだよね?」
「せざるを得ないでしょ、あんなん見ちゃったら」
運よく助かってしまったということか。
本人としては運が悪かったのだろうけど、果たして同じことをできるのだろうか。
死ぬ準備を一から整え直すのは、かなり難しいはずだ。
「アンタが言ったみたいに、途中でコシってやめちゃう奴もいるしさ。
何なんだろうね、ドラッグと同じ感覚でやってんのかな」
結局、踏ん切りがつかなかったんだろうな。
口でどれだけ死にたいと言っていても、どこかで死にたくないと思っている。
そう思っていられるうちは死なない。多分だけど。
「まあ、君の仕事が減る分にはいいんじゃないの?」
「後の事務処理が面倒なんだよ、ボケが」
その言葉に含まれている棘と同じく、彼女の眼は笑っていなかった。
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